貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む
鈴埜
1.プロローグ
薄暗い洞窟のような場所。
男女五人が場に似つかわしくない明るい声で話しながら進んでいる。
「これで全部でしょう」
「最後の一つがあんなところだなんて!」
「これ、完全に一番乗りだろ。周りに誰もいないし」
「しっかり動画回しておけよ、みんな」
キャッキャとじゃれ合いながら、濃い緑色をした岩の壁に、手持ちの宝石をはめていく。
一つ嵌まるごとに、その宝石の色の筋が岩の切れ目に走る。
「これで最後だろ?」
「ああ。石の嵌まる部分もちょうどだし、やばっ! 緊張してきた!!」
『緊張してきてらっしゃるらしいですよ』
『早く、セツナ、早くっ!』
『急かさないでくれ……』
結構難しいのだ。これ。
「それじゃあいっくよ~」
「おう!」
「ワールドの謎、解いちゃう? 俺たち一番乗りで解いちゃう?」
『ちょっとイラッとしてきたわ』
『私もじゃ、はよ、セっちゃんはよ』
『鼻へしおっちゃおッ!』
『みんな好き勝手言い過ぎだって。難しいんだよ』
突然始まったパズルに四苦八苦している。
たぶんこれが四隅になって、文章がここが繋がってる。
洞窟の隅、【隠密】レベルMAXの俺は、彼らに気付かれずひたすら破れた本の表紙を復元しようとしていた。
同じく【隠密】高レベルのクランメンバーが俺を囲んでいる。
『こっちの赤いのはここと繋がるかも?』
『この緑の文様はこれとじゃろ』
言われて集めてくっつけて。
あと少しのところで、隣で彼らが歓喜の声を上げた。
洞窟全体が震え、地鳴りにピースが揺れる。
『セツナ、はよ!!』
『おおおおおお完成したっ!!』
『走れええええええ!!!』
開いた岩の扉に駆け込む彼らの後を、俺もダッシュで追う。クランメンバーはここで待っていてもらうしかない。彼らはここに入る資格をすでに失っている。
そして目の前の衝撃的な場面。
大きな彫像の蛇が、前入りしたパーティーメンバーをぱくっとごちそうさましていました。
『ま、間に合わなかった』
『ああ、また新たな犠牲が』
『セツナっち、5組目の犠牲者出しちゃった』
『俺だけのせいじゃないし! みんな先走りすぎ!』
だが、復元された本を抱え、俺は宣言する。
『待たせたな!』
『パーティーチャットでござるよwww』
仕切り直しで。
「待たせたな、ここに、お前の望む物がある!」
頭上に掲げた本は、ちょっと豪華な布張りの表紙で、A4サイズという、大きな物だ。臙脂の装丁に金の縁取りが高価そう。
ここまで復元するのも大変だったんだ。涙なくしては語れない、アンジェリーナさんとの日々がある。
これまで出会い頭にぱくっとしてきた蛇の彫像は、石に似つかわしくない、柔らかそうにも見える、長く細い舌をちょろちょろと出し入れしながら、ゆっくりセツナの掲げた本を見る。
ぐるりとあらゆる方向からそれを吟味する。
やがて、ぐっとせり出していた蛇が、元の位置に戻り、石と成り果てた。
ぱっくり回避。
『第一関門突破……』
『やった!! セツナ録画だけはマジで頼むよろ』
『ちゃんと撮ってるけどさ、外に流せないかもよ?』
『そこは自分用』
『私も見たいのじゃ~』
巨大な蛇の彫像の向こうに、通路が現れる。
もうここまできたら行くしかない。
一応流れは把握しているつもりだが、それが本当に正解かはわからない。
あとはもう、野となれ山となれだった。
『俺らの分も頑張って来てくれ、セツナ!』
『パクッと第一号の我らのためにも』
そう、クランメンバーは一番最初にパクッとされた。
ギルドチャットに響く阿鼻叫喚の雄叫びに何事かと思ったのだ。
ちょうど俺も私事のクエストに挑んでいたところだったので、相手を出来ずにいたのだが、何故か行き着いたところが同じだった。
通路の先がだんだんと明るくなってくる。
やがて出た場所は、とても大きな空間だった。どう考えてももぐってきた分以上の天井の高さだよ。
そして、その先の玉座とも言うべき巨大な椅子に、一人の彫像が座っていた。石のくせに、肘をつき、物憂げに左手で顎を支えている。
「我の前で名を名乗る栄光を与えよう」
「俺はセツナ、本とアンジェリーナさんが大好きな男だ!」
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貸本屋のお姉さんに気に入られるために俺は今日も本を読む 鈴埜 @suzunon
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