第5話 猫とすりガラス。

 第4話をお読み頂きました皆様、こちら第5話に直接いらして下さいました皆様、こんにちは。こんばんは。おはようございます。


 本話からはまた、猫のチェリーのこんなことが、の明るめのお話です。

 どうぞよろしくお願い申し上げます。


 いきなりですが、皆様はすりガラスというものをご存じでしょうか。


 透明なガラスとは違い、覗いても曇っていて見えにくいガラスのことです。ですから、曇りガラスとも呼ばれております。 

 障子紙の代わりに障子に入っているものでしたら、ご覧になった方もおられるかと思います。

 実家のすりガラスも、そのタイプでした。

 そして、そのすりガラスの戸は、チェリーがこたつ机にのり、刺身のつまを食べ、オニヤンマを捕り、と躍動する日々のメインステージの出入口でもございます。


 そこに、チェリーは朝が来ますと陣取りまして、すりガラスに爪をたて、鳴らし始めるのです。


 その爪とぎ行為は、チェリーにかなりの確率で「ご飯をくれる存在」である豆の母親、つまり実家の母を呼ぶために、です。

 熱心に爪をとぐチェリーの心中を意訳しましたら、きっと、「朝になりましたので、ごはんを下さい」ではないでしょうか。


 その爪が奏でる音は、ガリガリ、というかザリザリ、みたいな音。

 いわゆるガラスのギイイ、的な音ではなく、我慢できないほどの騒音ではありません。

 そして、チェリーは巧妙なことに、この爪とぎ行為を深夜などには行わないのです。


 冬の朝ですとまだほの暗い、などもありますが、それでも「まあ、許せる」時間でした。


 そして、長年のチェリーの奮闘の甲斐があり、いつしか、ガリガリ、ザリザリの部分だけはすりガラスが薄くなってきました。

 そこに立つチェリーの姿をぼんやりと確認できるほどに、です。


 見えないことが肝要なすりガラスが、ぼんやりと見えるようになってしまいました。

 しかし、薄くうつるチェリーの姿はなんともかわいらしく、つい覗きたくなる風情です。


 専用の爪とぎもたまには使っていたチェリーでしたが、チェリーがもっとも爪をといだのは、あのすりガラスだったのではと思います。


 すりガラスにうつる姿絵のような、影絵のようなチェリーの姿。まるで、絵本の中の猫のようでした。


 本物もたいへんにかわいらしかったのですが、すりガラスごしのチェリーには、また別の魅力がありました。


 頑張って爪をといだんだね、と思わず声を掛けたくなるような、そんな思い出です。




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