第9章 不死ノ帝国: Unsterbliches Imperium

 俺は今このバケモノと二度目の対峙をしていた。

 楽しげに笑う奴は俺の脇腹に蹴りを入れる。俺は受け身をとりながら地面を転げ回ると、今まで自分を何度も斬りつけてきた銀のナイフを拾い上げて奴に向かっていく。

 「……は? ハハハ! そんな小さな刃で僕をどうしようってのさ‼︎さぁ! エルバ ード、罪人風情がかかっておいでよ‼︎」

 余裕に満ちた笑みを浮かべる奴の懐に入ると、俺は彼の黒魔術を真似、念を込めた『言葉』を唱えた。

 「『我の黒き血よ、我に降魔の剣を与えたまえ』。」

 すると自分の体内の血が抜けていく感覚と共にナイフの刃先には多くの黒いものが纏わり付き、間も無くそれは固く鋭い黒剣となった。依代

よりしろが小さいからか少し扱いづらいが、でも、……俺は、もう、守り損ねてたまるか。

 そのままして避けた奴は驚いた表情で俺の剣を見つめていた。

 「へぇ……まさか、この短期間で黒魔術ができるようになるなんて。

  ……そうか、それが君の黒魔術なのか!ふふ、面白い……久しぶりに楽しい戦い ができそうだ‼︎」

 興奮した様子の奴も黒魔術の詠唱を始める。

 「『我の黒き血よ、我に仇なすものに鉄杭を与えたまえ』‼︎」

 すると奴は無数の黒い槍状のものを地下牢全体に放った。俺はナイフを捨てて素早くかわし、壁に打ちつけられていたラミアとクラエルの十字架を抱えて地下牢の扉を目指した。

 「ハハハハ! 逃すものか‼︎ 僕の『杭』を受けろよ! エルバード‼︎」

 俺はその言葉に耳を傾けることなく扉から出て行こうとすると、パルカはもう一度無数の杭を構えてこちらに放とうとする。俺が剣で受けようと振り返る時、一人の人影が扉の陰から現れた。

 「『白き光よ、黒き憎しみの杭を祓いたまえ』‼︎」

 そう人影が唱えると、奴の周りで構えられていた杭が白い光を放ち大きな音を立てて爆破した……人影はこちらに振り返る、涙を浮かべ笑顔で再会を喜ぶ俺の弟

だった。

 「兄様! 僕です‼︎ユカシル・ニューゲート、ただいまここに兄様をお迎えにあがり ました!もう、絶対に離れたりしない! このユカシル、命に換えても兄様をお助 けします‼︎」

 俺は勇敢な彼の姿に驚くと同時に、以前の彼とは違う部分が目に入った。

 「……ユカシル、お前、目が悪いのか? どうして俺の眼鏡なんかつけて……お 前、前髪が……」

 ユカシルに聞こうとすると、俺の言葉を待たず彼は俺の腕を力強く掴んできた。

 「今、そんなことはどうでもいいのです! 兄様、僕が『アレ』を止めている間に ラミア様をハインツに届けてきてください! 話はそれからです‼︎」

 そう俺に言い放つと、ユカシルはもう一度パルカの方に向き直る。奴は悲痛な叫び声をあげて爆発で散った体の再生をしていた。どうやらいつもより苦戦しているようだった。

 「……ったい! 痛い‼︎ なんだ、何をした貴様‼身体が、焼き続けられるようだ! あぁ! 小癪な‼︎ よくも、よくも!僕は罪人共おまえらを逃しはしないからな! こ んな傷すぐに治してやる‼︎」

 俺はユカシルに言われた通りラミアを抱え上げて地下の階段に向かい翼を広げて上へ昇っていく……それから間も無く、力なく横たわるヴァイスの近くで座り込むハインツを見つけた。

 「ハインツ! お前、こいつをやったんだな……本当によくやった!強くなった な、お前。俺でも敵わなかったのに……」

 ハインツが俺の声に反応して顔を上げる。その表情を見る間も無く俺は直ぐラミアを渡すと「今すぐここから離れろ」と命じた。ハインツも姉の危篤な容態を見るとすぐに立ち上がり、ぐったりとしたラミアを抱え了承すると翼を広げ上へと昇って行った。

 クラエルの十字架を握りしめてからもう一度弟の元へ向かおうと翼を広げると、地下が土煙を上げて崩れていく。ユカシルが懸命に翼を使って昇ってきた。

 「兄様! 上です! 早く上に行ってください!『アレ』はここで僕らを生き埋めに する気だ‼︎」

 そうユカシルの言葉が地下に響いた時、彼の背後からパルカはユカシルを鋭い爪で斬りつける……弟の小さな翼を切り落とした。

 ユカシルが落ちていく……俺は弟を助けるためにこちらに向かってくるパルカの攻撃を掻い潜り、彼の体を崩落の寸前で受け止めた。

 その衝撃でユカシルが掛けていた眼鏡が落ち、そのまま迫る瓦礫の中へ消えていった。


***


 地下から抜け出す頃にはユカシルの翼は再生を終え、俺たちは二人で並んで奴と対峙した。

 先にここからの脱出を命じたハインツの指揮だろうか、城にいたストヴァの吸血鬼たちは滅され、公国軍は早々に城を撤退していた……俺たちの他にはもう誰もいなかった。

 俺たちより先に地下から出ていたパルカは、白い光で負った身体の傷の再生をやっと終えたようで、ひどく機嫌が悪いようだった。奴は興奮気味な様子で対峙する俺たちに言葉を投げかける。

 「……そうか、そうなのか! 君はあの時の死にかけの弟か‼︎まさか、兄弟が揃って 吸血鬼になって、さらに僕に楯突くとは思わなかったよ‼︎……それに弟のさっきの 爆術、『白魔術』か! 厄介な術だよ。アレは『魔族には使えない』はずなのに!

  ……なぜ、お前が使える? 僕らと同じ貴様がなぜ『魔族を祓うための術』を使 えるのだ‼︎」

 奴は怒りあらわに弟に問い詰める。するとユカシルは強く俺の手を握り奴に答える。

 「僕は知らないっ! でも、僕は兄様を徒いたずらに傷つけて笑っていたお前を許 せなかった!……ただそれだけだっ‼︎」

 ユカシルは力強く俺の手を握って奴に答えた。

 俺の見ない間に、俺の弟は俺よりずっと強くなっていた。

 ユカシルの言葉を受けた奴は彼の姿を見つめて何かに対する『解』を見つけたのか、嬉しそうに笑い、背に生える翼を羽ばたかせて、宙から見下ろしてくる。

 「……さてはお前。その術を使うには『代償』が要るようだな?きっとそうでは無 いのか? そうだろう、きっとそうだろう?その『白い前髪』は何だ? お前の歳な ら生えてくるはずが無いだろう?

  ……『自分の寿命』が代償か! 面白い!その寿命が尽きたらお前はどうなって しまうんだろうなァ‼︎」

 パルカが俺たちに向かって再度あの黒い杭を構えようと術の詠唱を始めた。その詠唱の途中で俺はユカシルの手を離し、ラミアから受け取ったクラエルの十字架で黒い剣を出すと、奴の方へ飛んでいき鳩尾に黒い剣を突き刺した。

 奴は口から血を吐いたが、そのまま詠唱を続ける。そして俺の身体に魔術で作り出した全ての杭を突き刺した。

 「君は罪を負ってここで僕と一緒に死ぬんじゃなかったのか……エルバード。

 何なんだその闘志に満ち溢れた目は、癪に触るんだよ。死ね! お前は僕と一緒に 死ね‼︎」

 目の前にあるパルカの血濡れた顔は、恨めしそうに俺のことを睨んでいる。

 『死にたい』それはまだ今の俺も思っている。でも____

 「それは『まだ』できない……安心しろ、パルカ。お前を殺して俺も死ぬから。俺 は最後に大事な人をお前から逃して、それから、一緒に死んでやる。」

 奴の黒魔術は実験の中で何度も受けたから『死ねない』とわかっていた。しかし、このままユカシルが俺たちの黒魔術を媒体として、白魔術で俺たちを祓ってくれれば……

 ……もしかしたら『俺たち』は死ねるのかもしれない。

 そう考えて俺は捨て身で奴の動きを封じに行ったのだった。

 しかし、さすがユカシル。その考えに気がついたのか、弟は俺の身体に刺さる杭を抜こうとこちらに向かってくる。

 ……ユカシルよ、お前は本当に優しいよ。でも、俺は……

 「ユカシル! 迷うな‼︎ 俺はもういいんだ。……俺はコイツと罪を負って死ぬ。お前が俺たちを祓ってくれ!」

 「……何を言い出すのですか、兄様……」

 「どうか俺を殺してくれ! ユカシル‼︎」

 そう俺が言うとユカシルは泣きながら必死に俺を奴から引き離そうとする。

 「嫌だ、嫌だ! 絶対にしません‼︎兄様は僕に約束したんだ‼︎『どんな時もそばにい る』……破ってたまるもんかっ‼︎」

 小さい手が俺の肩を引っ張っても俺の身体はびくともしなかった。

 ……俺たちがもたついていると、パルカは新しい杭を今度はユカシルに向けて放った。

 俺は奴の動きを止めていた剣を鳩尾から抜くと、ユカシルを抱き上げ飛んでくる杭をかわして回廊を進み、城の扉の近くに降りた‥‥俺はもう一度弟に向き直り‥‥懺悔をこぼした。

 「……なぜ、殺してくれないんだ、ユカシル。俺はあの建国宣言をした日、確かに クロイツェンの皆に罪を許された。

  ……でも俺は、俺自身を、どうしても許せないんだ。

  あの夜、愛していたクラエルを死に追いやった。あの日、騎士団長として領民を 守れなかった。

  その上、領民を皆に恐れられるバケモノである吸血鬼に変えられることを許し、 あろうことかその後自国の民を食い殺して生きながらえてしまった自分が。

  ……あいつと同じ『バケモノ』になった俺は死ぬべきなんだ。俺はあの火の海に 溺れて死ぬべきだったんだ。」

 俺がそうこぼすと、ユカシルは俯いたままの俺の両肩を力強く掴んで言葉を放つ。

 「嫌に決まってるだろ! バカ兄!罪を負っているのは僕だって同じだ!兄様と守 ると誓った民の命を、弱い自分は守りきれず!あのバケモノに兄様を渡して兄様 を、僕にいつも寄り添ってくれた兄様を傷つけた!

  ……そうだよ、僕も罪人だ! 僕にも背負うべき罪はある!でも、僕は生きたい‼︎

 生きて、生きて、この罪の原因になったこの国にかけられた呪いを祓って、僕は罪 を負う前の人間に戻ってまた、兄様たちと『一緒に生きたい』んだ!」

 俺の肩を掴んだまま、ユカシルは肩で一息吸ってからまた言葉を続ける。

 「兄様、どうか一人で全てを背負い過ぎないで。僕たちは、クロイツェンのみんな は兄様の帰りを待っているんだ。誰も兄様のことを咎める者はいないんだよ?

  もしも、それでも負い目を感じて罪を償いたいと兄様が思うなら、僕は兄様と一 緒に償うよ。

  僕はどこまでも兄様と一緒だ、『兄弟は迷惑を掛け合うもの』なんでしょう?兄 様の意志なんて関係ない、僕がそばにいたいんだ。

  ……もう、絶対、死にたいなんて言わせるもんか!一緒にこの国の呪いを解くん だ!死んで逃げちゃダメだ! 絶対、弟の僕が許さない!

  生きろ! 生きて民の呪いを祓え‼︎クロイツェンの守護者! エルバード・ニュー ゲート!」

 その言葉が俺の心の奥にある暗い感情に強く響いた。

 俺は、『死ねない』。

 この呪いが俺の身体に刻まれる限り。

 俺は、『生きる』。

 生きて、みんなにこの罪を償うんだ。

 「ありがとう、ユカシル。俺はどうやら死神の誘惑に惑わされていたみたいだ。も う、大丈夫。俺は大丈夫だ。ありがとう。」

 俺は泣きじゃくるユカシルに告げ、傷だらけの黒い翼を広げて、杭をばら撒き暴れ回るパルカに真っ直ぐ向かって行く。

 「君たちの御託は結構だよォ? お前はもうそこから動けないのだからァ‼︎アハハハ ハハハ‼︎ 一緒に僕と死ぬんだ! エルバードっ‼︎」

 奴の杭が一斉に俺を目がけて飛んでくる。

 俺は自分の血とクラエルの十字架で作った剣で飛んでくる全ての杭を受け流して進んでいく。


 __そうだ、俺がこんな奴に負けてたまるか。


 ……クラエル、やはり君は俺の、俺たちの光だよ。

 どうか、臆病な俺にこの死神を祓う力を。

 君の笑顔の、白百合が花開く様に美しい輝きを。

 あの輝きを放つこの十字に、この降魔の剣に。


 ……俺はしばらく永い旅に出る。

 君が待つ場所に行けるように。

 この罪を祓う旅に出るんだ。

 だから、どうか。

 どうか君は俺たちの道を照らす光であってくれ。

 俺は必ず、この呪いを払うと誓うから。


 ……もう絶対、己から逃れようとはしないから。


 そして怒り狂う奴の胸に黒い剣を一突きすると、そのままの勢いで開け放たれた城の扉を出て奴と一緒に空へ飛んでいく。

 「……グっ! ぎ、貴様、エルバード! この裏切り者!生きるのを諦めていたくせ に! この! 大罪人め! クソっ、クソォ‼︎」

 声を荒げる奴にはもう血が残っていないらしく、杭を出そうと魔術を唱えるも虚しく。

 ただ、俺の剣に突き刺されたまま、じたばたともがき吠えていた。

 「黙れ、死神。お前をクラエルのところへは行かせない。お前が『いける』ところ はもうどこにもない。

  ……永遠に、永久に。この白い雪原を彷徨さまよっていろ!」

 俺がそう奴に言い放つのを聞いてからユカシルが白魔術の詠唱をした。


 「『白き光よ、我らが君主の黒き血に死神を祓う力を与えたまえ』‼︎」


 詠唱を聞いた俺は黒剣の刃の部分をクラエルの十字架から分離し奴を刺さった黒い刃ごと真っ白な雪原へ思い切り蹴飛ばした。

 ユカシルの詠唱を受けた俺の黒い刃は白く光り輝き、奴の体の中心部から強い衝撃を 放った。耳を裂くほどの轟音と共に奴の身体は霧散し吹雪の中に消えていった。


***


 ヴイザフ城での戦いから一ヶ月が経とうとしていた。

 俺たちはストヴァ帝国の人間を解放することには成功したが、ストヴァの吸血鬼たちは俺たちと共に歩む気はなかったようだった。

 ヴイザフ城に住んでいなかった、戦いの後に残っていたストヴァの吸血鬼たちは皆、あの死神を城から追い出した俺たちを恐れたのか挙兵する者は誰もおらず、俺たちは集団で自決した吸血鬼たちの亡骸を発見し、彼らの全滅を確認した。

 ……また、俺たちは帝王の崩御を確認すべく遺体の捜索をしていたが、今日もあの死神の遺体は見つからなかった。城の地下牢にあったのは肉が腐り白骨化が進んでしまった『それ』の入った半壊状態の棺桶と、古びて傷だらけになっている、あの時の小さなナイフくらいだった。

 ……俺はぐちゃぐちゃになってしまった『それ』を大事に抱え、治りかけの黒い翼で、フラフラと不安定なまま飛び行き、『自分たち』の公国に帰った。

 帰ってから『それ』を新しい棺桶に移し、『それ』に今度は自作の純白のドレスを着せた。

 縫い物をするのは初めてだったから、少し不格好だけど……あの子なら。

 ……クラエルならきっと喜んでくれるから。

 城の地下牢でユカシルの白魔術を至近距離で受けても再生できたことを、俺は棺桶を戻した後に思い出した……考えたくはなかったが、おそらくまだ生きているのではないかという結論に至る。

 可能性があるのなら、きっとまた。それはもう自分たちで避けねばならない。

 俺たち公国軍はあの時の吹雪の風下にあたる北側を重点的にあの死神の行方を探していた。

 「今日も見つからないな……はぁ、お前が城の外で爆破するから捜索が困難を極めているんだぞ? 全く、お前はキレるとすぐ周りが見えなくなるからな。」

 『いつものように』ラミアが俺に一言余計なことを言った。

 売り言葉に買い言葉。俺は挑発だとわかってはいたが、普段から周りに『鬼教官』と恐れられているコイツにだけは言われたくない……そう思い俺もラミアに言い返す。

 「はぁ? そういうお前だって周りを見ないのは通常運転だろ?俺より酷いやつに 言われたくないんだが。」

 ラミアの周囲の空気がピリついた……周りの兵士たちはすかさず視線を逸らす。

 「……はぁ、面白い。私がこの雪原に転げ回してやろうか?」

 「……できれば、な。俺がその前にお前を雪で埋めてやる。」

 その後しばらく俺たち二人は、震え上がる兵士を脇目に雪合戦をした。ただの雪なので怪我はしなかったが、俺たちは体力を使い果たし雪原に横たわる。

 なんだかとても懐かしい感情が込み上げてきて、俺はラミアと顔を見合わせて一緒に笑い合った。

 俺の腰に提げられているクラエルの十字架も、雪雲の切れ目からさす白い光を受けてキラキラと輝いていた。

 少し休憩した後、俺たちは兵をさらに北へ進めていく。そろそろ北端の地『チェリマー』に着く頃、針葉樹がまばらに生える白い森を通っている時に俺は黒い人型のものが視界に入った。

 すかさず俺は兵の皆を引き留め、すぐに戦闘態勢になれるよう命じた。

 俺とラミアが先にその黒いものの近くに寄るが、その黒いものが動くことはなかった。

 動かないこと確認してからさらに近くで観察する……

 その黒い物体はまさしくあの死神『パルカの亡骸』であった。『死ねない』はずの彼は今ここで死んだ状態で見つかったのだった。不気味に黒ずんだその身体は、触れるとすぐにサラサラと崩れてしまった。

 俺たちはこの黒くなった彼を小さい棺桶に詰めてクロイツェンに持って帰った。

 ……彼の体には謎が多過ぎた。吸血鬼からみんなを戻すため、民の呪いを祓うため。もっと俺は研究して、この身に負っている罪を償わなくては。

 ……たとえ、それが永い道のりだったとしても。俺はもう一人じゃないのだから。


***


 星暦一五七〇年四月一八日。今日、帝王の崩御が確認されたことでストヴァ帝国は解体された。そして、クロイツェン公国はこの国を併合して『クロイツェン帝国』となった。

 偶然にも今日は俺の誕生日だ。こんなに大きな贈り物はこれまでにないものであり、これからもきっと最後だろう。

 小さな騎士団領から生まれたこの国は、何度も消えかけそうになりながらも世界に影響を与える大国へと成長した。

 何度も攻められても滅びぬ国家であること。

 そして、不老で長命の吸血鬼と数多の病魔に打ち勝ち、長命を得た人間が共存すること。その国のあり様は、周りの国々に『不死ノ帝国』と呼ばれる様になる由来となった。

 ……しかし、俺たちが求めているのは不死ではない。

 人間だった頃の『ありふれた幸せ』、俺たちが求めているのはそれだけなのだ。

 何年、何十年、何百年。どれだけかかっても俺たちは必ず辿り着いてみせる。


__『不死ノ帝国』。


そう呼ばれる俺たちの国は、『ありふれた死』を求めて、永い道のりを歩んでいくのだった。

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