活躍するダグラス、ムヴェノワール王国の企み

 皇妃アンドレアの部屋にて。

 闇の魔力を持つ魔獣にやられたアンドレアは昏睡状態に陥っていた。

 禍々しい闇の魔力の痕跡に包まれている。

 彼女の部屋に入って来たダグラスとミリセント。そして闇の魔力について研究しているパトリシアもいる。

「ダグラス様、皇妃殿下お母様は闇の魔力により精神を蝕まれております。それを取り除く為には、皇妃殿下お母様の頭部からダグラス様の闇の魔力を注ぎ、そのまま皇妃殿下お母様を蝕む魔獣からの魔力を吸収していただく必要がございます」

「分かりました。やってみます」

 パトリシアから説明を受けたダグラスは早速昏睡状態のアンドレアの前へ行く。

 その時、ミリセントと目が合った。

 ミリセントは真っ直ぐダグラスを見て頷く。まるで「頼んだぞ」と言っているかのようである。

 ダグラスはそれに応えるように頷いた。


 ダグラスは深呼吸をし、アンドレアの頭部に手をかざす。

 すると、ダグラスの手からは柔らかな紫の光が発せられ、アンドレアの頭部を包み込む。

 そしてそれはアンドレアを蝕んでいたものをゆっくりと吸収し始めた。

 ミリセントはその様子を見てアメジストの目を大きく見開く。


「……終わりました」

 しばらくすると、ダグラスはアンドレアを蝕んでいた魔獣の闇の魔力を全て吸収し終えた。

 アンドレアを包んでいた禍々しい闇の魔力の痕跡はすっかり消えている。

 パトリシアはアンドレアの状態を確認する。

「……ええ。皇妃殿下お母様を蝕んでいたものは全て消えておりますわ。ダグラス様、本当にありがとうございます」

 ホッとした様子のパトリシアである。

 ミリセントは表情を和らげ、ダグラスの手を握る。

「ダグラス、皇妃殿下母上を救ってくれたこと、感謝する。……いや、感謝してもし切れないな」

 ミリセントのアメジストの目は心底嬉しそうであった。

「いえ、ミリセント様……。僕は、僕に出来ることをしたまでです。この先僕はどういう扱いになるのかは分かりませんが、闇の魔力を持っていることを打ち明けたこと、闇の魔力を使ったことは、後悔していません」

 ダグラスのルビーの目は強く輝いていた。

「ダグラス……其方そなたは本当に強くなったな……」

 感慨深そうにミリセントは微笑んだ。


 その後、アンドレアが目覚めたことが確認された。

 ダグラスは禁忌とされる闇の魔力を持つが、この功績やミリセントの働き掛けで幽閉などはされず、今まで通りの生活が送れることになった。闇の魔力を研究してるパトリシアからは色々と調べさせて欲しいと迫られはしたが。

 闇の魔力を禁忌として憎悪する者もいるが、アンドレアを救った功績のお陰でダグラスはの風当たりそれ程強くはなかった。

 また、ダグラスに遠慮がちに話しかけてくる者も増えつつあった。

 そのお陰でダグラスは比較的穏やかに過ごせている。






◇◇◇◇






 一方その頃、ムヴェノワール王国にて。

 ムヴェノワール王国の騎士団の者達は、銃などの武器を用意していた。

 時間をかけて軍事強化をしていたのだ。

 そこへ、ムヴェノワール王国の国王であり、ダグラスの実父であるアーロンがやって来た。

 騎士団の者達はビシッと礼をる。

「楽にせよ。……準備は順調か?」

 アーロンは騎士団の者達の様子や武器の具合を見渡す。

「はい! サンルミエール帝国への進軍準備は着実に進んでおります!」

 騎士団長がそう答える。


 大陸北部に位置するムヴェノワール王国は、金属資源は豊富なのだが食糧自給率が低い。そこで、サンルミエール帝国と同盟を結ぶことで安定した食糧供給を受けていた。

 しかし最近になり、国王アーロンは更なる欲を持ってしまった。

 サンルミエール帝国は大陸南部に位置する広大な国。大陸一の国家とも言われている。

 しかしアーロンは軍事力を誇り、更に時間をかけて軍事強化した今のムヴェノワール王国ならば、サンルミエール帝国に攻め入って支配することが出来ると考えていたのだ。


「では予定通りの時期に進軍せよ」

 アーロンはそう指示した。

 すると一人の騎士がおずおずと発言の許可を求める。

 アーロンが許可を出すと、その騎士は恐る恐る口を開いた。

「あの、国王陛下……恐れながら、申し上げます。もしサンルミエール帝国に進軍した場合……帝国にいらっしゃるダグラス殿下はどうなるのでしょう……?」

 するとアーロンの目がスッと冷える。

「くだらぬことを聞くでない。あのような者は私とは無関係の者だ。どうなろうと知ったことではない。余計なことを考えず、サンルミエール帝国を支配することだけに集中しろ」

 アーロンは実の息子ダグラスがどうなっても良いと思っていたのだ。

 ダグラスが忌避される闇の魔力を持っているという理由だけで。

「し、失礼しました! 申し訳ございません!」

 質問をした騎士は慌てて謝罪した。

 そこへ、ダグラスの弟であるサイラスがやって来た。

国王陛下父上、サンルミエール帝国進軍の件ですか、僕も経験の為に行かせて欲しいのです」

 サイラスの緑の目は、自身ありげである。

「うむ……。サイラス、確かにお前の魔力、剣や武器の扱い、そして戦略は目を張るものがある。……良いだろう。サイラス、必ずサンルミエール帝国を我が国のものにして来るのだ」

 アーロンはニヤリと笑った。

「ええ。承知いたしました、国王陛下父上

 サイラスもニヤリと笑うのであった。

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