変わりゆくダグラス

 ミリセントと森へ行き、魔獣が襲いかかって来た際に闇の魔力を持っていることが知られたダグラス。

 その時にダグラスは自分にないものを持っているミリセントに対し、嫉妬の感情をぶちまけてしまう。

 そのお陰で二人の距離は縮まり、ダグラスは強くなりたいと願った。


 その翌日からダグラスは早速行動を起こした。

 サンルミエール帝国の騎士団の剣術練習に参加させて欲しいと頼み込んだのだ。

 その希望はあっさりと受け入れられ、現在ダグラスはサンルミエール帝国の騎士達に混じり剣を振るっていた。

 最初、サンルミエール帝国の騎士達はムヴェノワール王国の王子であるダグラスのことを遠巻きに眺めていた。しかし今ではすっかり馴染んでいた。もちろん、闇の魔力を持っていることはまだ打ち明けていないダグラスである。

 ダグラスは今まで独学で剣を振るっていたが、正しい動きを学びみるみるうちに強くなっていた。


「ダグラス、精が出るな」

 この日も剣術の訓練をしていたダグラスに、ミリセントがそう声を掛けた。

 真っ直ぐ伸びた艶やかな真紅の長い髪は高い位置で束ねられており、相変わらずの軍服姿である。

「ありがとうございます、ミリセント様」

 ニコリと笑うダグラス。その赤い目はすっかり光を取り戻し、まるでルビーのようである。

 ミリセントと話すことでダグラスの胸の中には、嬉しさが溢れ出していた。

「ミリセント様はこれからどちらに行かれるのですか?」

「他国の王女達からお茶会に誘われたから、それに出る。情報交換も必要だろうし」

 明るく笑うミリセント。

 彼女はダグラスだけでなく、彼と同じように人質として送って来られた他国の王女達とも交流しているようだ。






◇◇◇◇






 そしてミリセント達が魔獣討伐に行く日になった。

 ダグラスはミリセントと騎士団の者達を見送り、帰りを待つ日々である。

「まずは皇太女殿下が率いるサンルミエール帝国西部に向かう魔獣討伐隊が出発か」

「ああ。三日後には高い炎の魔力をお持ちの皇妃殿下率いる帝国東部に向かう魔獣討伐隊が出発する」

 ダグラスはすれ違う貴族達がそう話しているのを聞いた。


 今回の魔獣討伐にはミリセントだけでなく、皇妃アンドレアも参加しているようだ。

 二手に別れて討伐をおこなうそうだ。


(ミリセント様だけでなく皇妃殿下も討伐に向かっているということは、今回の討伐は本当に大規模なものか……)

 ダグラスはそう予想した。

(ミリセント様……大丈夫だろうか?)

 ミリセントを心配するダグラス。しかし、彼の脳裏にはすぐあの自信に満ち溢れたミリセントの姿が浮かぶ。


其方そなたにも私にも弱い部分がある。共に克服しないか?』


 魔獣相手に闇の魔力を発動してしまい、ミリセントに対して嫉妬の感情を爆発させた時に言われた言葉が蘇る。


(いや、ミリセント様ならきっと大丈夫だ。きっと上手くやるだろう)

 ダグラスはミリセントを信じて彼女の帰りを待つことにした。






◇◇◇◇






 数日後。

 まずはミリセント率いる魔獣討伐隊がサンルミエール帝国帝都まで戻って来た。

 どうやら討伐に成功したようで、誰一人重傷を負わずに済んだようである。

 凱旋したミリセントは堂々と自信に満ち溢れた様子だ。そのアメジストの目は強く真っ直ぐ輝いていた。


「ミリセント様、ご無事で何よりです」

 ダグラスは宮殿に戻って来たミリセントにそう声を掛けた。

 まるで自分のことのように嬉しそうなダグラス。

「ありがとう、ダグラス。誰も欠けることなく戻ることが出来て私もホッとしている」

 ミリセントはフッと笑う。肩の力が抜けた笑みである。


 自身のミスで誰かが怪我をしたり死んでしまうかもしれないことを恐れていたミリセント。しかし、今回の討伐の成功で一段と自信を付けて戻って来たのだ。


「やはりミリセント様は凄いです。僕も頑張らないといけませんね」

 ダグラスは屈託のない笑みである。その赤い目は、まるでルビーのように輝いていた。


 ダグラスもかつては堂々と自信に満ち溢れたミリセントに対して気後れしていた。しかし今のダグラスは彼女に追いつこうと頑張っている。

 ただ憧れて嫉妬するだけでなく、目指すべき目標となっていた。


「其方、以前よりも随分と良い表情になったな」

 ミリセントはダグラスの笑みを見て安心している。


 まだ闇の魔力を持っていることをミリセント以外に公表出来ていないが、ダグラスは前を向けるようになっていた。

 そしてもう一つ、ダグラスは自身の中に芽生えている気持ちに気付くことが出来た。

 それは、ミリセントへの恋心。

 堂々と自信に満ち溢れた彼女へは、憧れや尊敬だけでなく、いつの間にか特別な感情も抱いていたのである。

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