第27話 逆ハー回避に奔走した結果
穏やかな小春日和の中、学園では卒業式が行われた。式が終わるとあちらこちらで別れを惜しむ卒業生たちの姿を見かけた。同じ貴族とは言え進路が違えばそう頻繁に会う機会もないのだろうし、家格差があれば挨拶を交わすだけでも難しい。
終わり次第帰ってくるように言われていたため、まっすぐ校門に向かいかけたジェシカを呼び止めたのは案の定エイデンだった。
「ジェシカ嬢」
流石に無視するわけにもいかず振り返れば、エイデンの隣にはメーガンの姿があった。その距離が人ひとり分ほど空いているのは気になるものの、婚約者同伴ということでジェシカは少し肩の力を抜いた。
「エイデン様、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう」
あまり表情は動かないが、以前よりも雰囲気が柔らかくなったような気がするのは気のせいだろうか。
もしかしたらジェシカの知らないところでメーガンとの仲が進展したのかもしれない。メーガンと距離を置いていたため状況は分からないが、あのステファニーが動かないとは思えなかった。
「ジェシカ嬢は今幸せか?」
「え……はい。幸せですね」
唐突な質問に戸惑いながらも、ジェシカが肯定すればエイデンは満足そうに口角を上げた。
「君が幸せならそれでいい」
訳が分からずエイデンの隣にいるメーガンに視線で問いかけようとしたが、メーガンは感極まったようにエイデンを見つめている。
「もう行った方がいい。君の幼馴染がお待ちかねだ」
エイデンの声に振り返れば、校門の前に立っているグレイを見つけた。
「っ、エイデン様ありがとうございます。失礼しますね」
喜びのあまり急いでグレイの下に向かったジェシカは、エイデンがずっと見つめていたことに気づかなかった。
「グレイ、迎えに来てくれたの?嬉しいけどお店は大丈夫?」
「平気だ。取り敢えず行くぞ」
嬉しさを押さえきれずに駆け寄れば、すぐさま手を繋がれて逃げるようにその場を離れた。
(やっぱり貴族の方々が多いから、居づらかったのかな)
生徒だけでなく卒業生の家族たちも門出を祝うため集まっているので、門の外にいたグレイは猜疑の目で見られていたのかかもしれない。
「はあ、やっぱあの魔術師様が一番やべえ。ジェス、何て言われたんだ?」
エイデンから言われた言葉をそのまま話せば、グレイはがっくりと項垂れた。
「えっと私は、幸せになれって言う激励というかお別れの言葉的なものかと思ったんだけど、違うの?」
「俺には、今のところは容認するがジェスを不幸にすれば容赦しないっていう宣戦布告に聞こえた。絶対に関わって欲しくないが、あっちから関わってくるんだろうな……」
(流石にそれは深読みし過ぎな気がするけど……)
そう思ったものの素直に告げれば、見込みが甘いと怒られるだろう。代わりにジェシカは繋いだ手をぎゅっと握りしめて言った。
「それでも私が好きなのはグレイだからね」
その言葉にふっと笑みを浮かべるグレイに、ジェシカも自然に笑顔を浮かべていたのだった。
「グレイ、どうしよう!エイデン様が臨時教師になっちゃった!」
「くそ、やっぱりか!」
春休み明けに登園してみれば、光と闇属性担当の教師として挨拶をするエイデンの姿があった。
「新人魔術師だから、人手不足な業務も割り振られるんだ」
どこか満足そうな瞳にエイデンが進んで立候補したとしか思えない。やっぱりエイデンはヤンデレ属性なのではという考えをジェシカは再認識することとなった。
エイデンが受け持つ生徒はジェシカの他に、元平民で男爵家の養女となった光属性の新入生がいるのだが、何やらヒロインっぽい経歴と言動が気になっている。
他にもツンデレっぽい天才少年、隣国の王太子殿下も留学してきて、もしかしてこれは続編的な感じなのだろうかと思わずにはいられない。
「ジェス、一人で悩むなよ。困った時はちゃんと相談すること。お前は俺の大事な恋人なんだからな」
「っ、頼りにしてます……未来の旦那様」
さらりと愛情を伝えてくるグレイにいつも翻弄されるジェシカが、反撃のつもりで告げれば珍しく顔を真っ赤にして照れるグレイを見ることが出来た。
(一年前とは状況が違うし、一人じゃないから大丈夫)
頼ることと甘えることは同じではない。経験や知識を積み重ねながらグレイと幸せになるために頑張ろうとジェシカは心に誓った。
その後エイデンにアプローチを掛けるヒロイン疑惑の少女と奮起したメーガンがエイデンを振り向かせるための騒動に巻き込まれたり、ツンデレ天才少年に懐かれたり、隣国の王太子に目を付けられたりとジェシカは多忙な学園生活を送ることになるのだが、この時のジェシカはまだ知らなかった。
断罪中に前世の記憶を取り戻したヒロインは逆ハー回避に奔走する 浅海 景 @k_asami
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