＜３３・エピローグ。＞ - レイニーデイズ～捜査一課陰陽対策係・雨宮縁～（はじめアキラ）

前のエピソード――＜３２・キレイゴト。＞

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751:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

あのユーチューバー逮捕されたんか、マジか

752:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

>>751

自首したらしいよ、霊的脅威対処法違反で

エレベーターの儀式、ヤバイってわかっててわざと拡散させたらしい

753:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

あの儀式マジで異界に人を喰わせるためのもんだったんか、こえー

754:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

彼女さんの恨みだったって話だけどさあ、巻き込まれる側はたまったもんじゃねーっつか

そりゃ、二次の恨みと嫉妬で叩かれてストーカーされて死んだっぽいのは気の毒だけどさ

755:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

ちょっと叩かれた程度で自殺するとかマジでメンヘラだったのな、ワロタｗｗｗ

756:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

>>755

まあ、あんなチャラチャラしたユーチューバーの彼女なんだから、ろくなもんじゃなかたんだろｗｗｗ

757:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

叩かれたくらいとか……自宅まで追いかけてきて殺すとか言われたの、それくらいって済ませるって、こわ

758:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

>>755-756みたいなやつがいるから、影で人を叩いて笑うクソが減らないんだろうな

お前らみたいなのこそ、エレベーターでさっさと異界に喰われれば良かったのに

759:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

>>758

無理だって

こういう奴って大抵、自分は高見の見物で、リスク犯すようなことなんか絶対しないんだから

どうせいつまでも儀式やってる奴らを安全圏から眺めてるんだろうよ

760:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

何お前らも叩かれるようなこと悪いことしたの？ｗｗｗ

ぼっちどものくせに自意識たかすぎね？？？

761:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

叩かれる人には叩かれるなりの理由があるんだってー、ねらーなのにそんなこともわかんないとかｗｗｗ

762:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

うわぁ……

763:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

もうほっとけって、こういうのは。馬鹿は死ぬまで治りゃしないんだから

764:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

話ビミョーに変えるんだけどさ

その石英氏が広めたエレベーターの儀式って、結局どれなの？

逮捕されると同時に、なんかもっと良い世界に行ける方法！みたいな亜種が大量に出回ったせいで、今やどれが本当の儀式なのかわからなくなっちゃってるんですけど

765:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

それなー。

儀式の方法書いてたスレッドとかは軒並み削除されたしな。残ってるかもしれないけど、探すの面倒なレベル

766:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

その上、なんかセキエイの非公開にした動画の転載も出回ったけど、なんか複数パターンあってどれが本物だよ？ってかんじ。

767:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

768:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

えっと、エレベーターに入る時に一回転して、三階で一度降りるのが正しい儀式だったよな？

769:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

>>768

違うって。おじぎしてから一気に最上階まで行って、一度階段で下まで戻ってくるんだよ

770:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

おじぎとか一回転とか言ってるけど、なんか呪文言うんじゃなかったっけ？

オリギ様とかなんとか？

771:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

呪文も間違ってるっつーの、セツナ様だよ

772:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

サトヤ様だってば

773:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

カギリ様とかじゃなかった？

774:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

やべえ、呪文も儀式の方法も既にバラッバラな有様に……

775:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

確実に大量に偽物が出回ったよな。検証したけど何も起きませんでした！な報告圧倒的に増えたし。

エレベーターの怪死被害者もどんどん減ってるし

776:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

何でそういう荒らすようなことするかなあ、せっかく面白いところだったのにさぁ

777:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

実際異界に行って誰か実況してくれなきゃ面白くないのにー。

778:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

なんか面倒になってきちゃったな、儀式の検証も。飽きてきたつーか

779:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

せっかく石英逮捕で、儀式が本物だったっぽいってわかったのに、その本物の儀式がわからなくなるとかマジで意味ねー

780:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

ほんとにね

781:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

誰がこんなことすんだか。警察が血眼で情報消してくるかと思ったら増えるってどういうことなんだよ、もう

782:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

案外、その警察の仕業だったりして。

木を隠すなら森の中ってな

783:おかちゃんねるより、ぼっちがお送りいたします＠以下名無しのメロン

え？

　＊＊＊

　どいつもこいつも本当に馬鹿。太田愛衣美（おおためいみ）は、大型掲示板で右往左往する奴らを眺めてほくそ笑んだ。

「セキエイが一番最初に動画を公開した時、ちゃんとスクショしておかないから馬鹿なのよ」

　仕事仕事とそればかりで、夜の相手もろくにしてくれない夫。自分はもう四十代も間近で、子供を作るならそろそろギリギリになってくる年齢だというのに。どうして自分に協力してくれないのだろう。早く子供を作らないと、また両親に失望されてしまう。自分は姉よりももっと出来のいい男の子を産んで、いい学校に行かせて、良い仕事に就かせて、あの忌々しい女をギャフンと言わせてやりたいのに。

　段々と、そうやって現実で苛々し続けるのにも疲れてしまった。

　あの夫も、家族も、世界も、仕事も。何もかも捨ててしまえるなら、もうどうだっていい。セキエイが最初に公開した動画は悪意のあるものだったかもしれないが、あの動画が問題だったのは帰る方法が間違っていたからであるという情報を入手している。つまり、正しい方法を用いれば、異界を経由して元の世界に帰れるばかりか――もっとより良い、パラレルワールドの現世に着地できるというのだ。

　そう、もっと自分に優しくて優秀でイケメンな旦那と。

　姉なんかよりもよっぽど賢い男の子が生まれて、自分の言うことをきちんと聴いてくて両親も親戚もみんな自分だけを尊敬してくれて――そんな世界に“帰る”ことも、確実できるはずなのである。

　自分はこんな掲示板の連中より馬鹿じゃない。セキエイがクソな彼女の馬鹿げた復讐に使おうとした儀式を使って、よりハッピーなエンディングを掴んでやれるのだ。セキエイも彼女もざまぁみろといったところである。自分のような熱烈なファンがいながら、あんなクソッタレな二次創作しか書けない馬鹿な彼女の存在を隠していたのだから。

――せっかくイケメンだから応援してたのに、あいつもほんと馬鹿。マジで馬鹿。あんな女のどこが良かったんだか。大体、被害者ヅラしてるけど、悪いのはあの女なのに。あいつがあたし達の言う通り、さっさと小説を全部削除して謝って、セキエイと別れないのがいけないんでしょー？

　言う通りにしていれば、自分達だってあんな風に連日問い詰めたりなどしなかった。正義の制裁を下しただけで、やれイジメだのネットストーカーだの冗談じゃない。正しいのは自分たちで、迷惑かけたのはあっちだというのに。

――そんなんだからみんなに嫌われてるってことも気づかない！あーいう女は死んで当然だっていうのにねー。

　スマホをしまって、愛衣美は自宅のエレベーターの前に立つ。頭の中で方法を何度も確認した。呼ぶ名前はカギリ様。おじぎをする。一階から乗って、最上階までのボタンを押す。それから。

――好きなパラレルワールドに行く方法は、動画の通りじゃダメ。そう、来た時と同じようにもう一度一階から乗ればいいのよ。カギリ様の名前を呼びながらね！

　ああ。あの忌々しいセキエイの儀式で、自分はより華々しい人生へと旅立つのだ。

――ざまぁ！あっはっはっは！

　その成功を獄中のヤツに教えてやれないのが、残念で仕方ない！

　＊＊＊

　セキエイが自首したあの日から、二週間。

　ここのところからっと晴れた日が妙に続いている。あの日、土砂降りの雨が降り続いたのが嘘だったかのような快晴ぶりだ。縁は窓の外を見つめていた視線をパソコンの画面に戻した。

　太田愛衣美。

　一週間前に都内に住むこの主婦が、エレベーターの中で、手足を引き抜かれた状態で見つかったのを最後に、怪死事件の被害者は出ていない。彼女のプロフィールを確かめていた縁は、ぽつりと呟いた。

「貴女だけが元凶ではなかったんでしょうけど。……この状況でなお、儀式に引き寄せられて殺されたのだから……つまりそういうことなのでしょうよ」

　罪を犯せば必ず裁かれるとは限らない。

　それでも、運命はいずれそのように巡る、それがどれほど遠い未来だろうと関係なく。

　彼女が、セキエイの彼女を追い詰めた主犯の一人であったのは既に調べがついている。その愛衣美が、これだけ警察が情報をバラ撒いて儀式を隠したにも関わらず本来の儀式に引っかかり、あまつさえ誤った“帰る方法”を試して惨死したのだ。これが、因果応報でなくてなんだというのか。調べたところ、彼女の傷には全て生活反応があった。相応に恐ろしく、苦しい死に方をしたのは間違いあるまい。

――環を殺した連中も。いつかどこかで、裁かれるのか。……ああ、そうであればいいけれど。

　復讐は何も生まない。正義の味方はそう言う。でも。

　時には復讐することで生きる望みを得る人間もいるし、未来へ進むことができる者もいる。――この事実が、セキエイにとっても生きる支えになるのなら、きっと意味はあるのだろう。彼が前向きに罪を償う気持ちになってくれるのであれば、巻き込まれて死んだ無関係の人達も少しは浮かばれるかもしれないというものだ。

「重い、重すぎるうううう！」

「あ」

　悲鳴。振り向けば、オフィスに巨大な段ボールを抱えて入ってくる人物が。あのノッポと情けない声は間違いない、捜査一課強行犯係の日ノ本結友である。

「なんで！なんでこのご時世に資料が全部紙！？嫌がらせだとしか思えないッス！ていうかなんで誰も手伝ってくれないの！？」

「そりゃ貴方が下っ端ですから。頑張ってください日ノ本“巡査”ー！」

「パワハラ！お巡りさーんこの人パワハラしてきますー！」

「いや、自分がお巡りさんでしょ」

　また、幽霊が関わっている事件が発生したかもしれないということで、縁と合同捜査する羽目になった結友である。必要な資料が倉庫にあるらしいと聞いて取って来て貰っていたのだった。あの様子だと、段ボールにつっこまれたまま放置されいたということらしいが――いいのか警視庁、ちょっと管理が杜撰すぎやしないだろうか。

「はいはい頑張ってくださいよ。まだ捜査は始まったばっかりなんですからねー」

「鬼ぃ！」

「何やってんだ、お前ら。コントか」

「コントじゃないです、いじめられてるんですぅ！」

　完全に他人事と言うように呆れている光一郎。まあ、ヘルプを頼んでも彼は助けてくれないだろう。どうせ彼は、今日の愛娘の誕生日会のことで頭がいっぱいだろうから。

――あのセキエイの心を開かせてみせた。……霊感なんかなくても、こういう人材がいると……便利なんですよね。

　さて。現在はまだ強行犯係にいる結友を、一体どう言いくるめて陰陽対策係に引き抜こうか。

　ニコニコと笑って悪だくみをしながら縁はもう一度窓の向こうを見る。

　彼のおかげで当分。自分は冷たい雨に、打たれなくて済みそうである。