<16・チョウダイ。>
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
原稿煮詰まったから、今ウワサのエレベーターのやつやってみるなうwww
できそうならツイで実況的なものもしてみる。誰も見てないかもしんないけど
↓
●東京のサカモトさん@nekokawaii5656
返信先:@recchan_tototo
見てるよー!がんばれーい!
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
なんか選ばれしものしか成功できないらしい?とか聴いたら、ちょっとやってみたくなっちゃうよね。
今まで何かに選ばれたこととかなかったもんなあ。
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
今エレベーター呼んでるとこ。
十五階まであると来るのが遅いんだわこれがwww
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
さっきの続きというか話戻るんだけど。なんというか、平凡なのがコンプレックスみたいなところあるんだよね。ちょっとした愚痴なんだが。
ツイでイラストアップしたら、上手いって言ってくれる人も褒めてくれる人もいるし、私も自分は絵が上手いんだって思ってたわけ。
でも実際学校とかじゃ、コンクールとかでも全然入賞できなかった。私よりいつも上手い人なんかいくらでもいてさ。
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
何か、特別なもので選ばれてみたいって願望がずっとあったというか。憧れんじゃん、コンクールとかなんかのランキングとかで、自分の名前が載るっていうのさ。
でも今まで一度もそういうことなくって。なんていうかな、このエレベーターのやつで成功したら、自分は何かに選ばれてるんだって自己肯定できそうな気がするというか。
別に異世界転移がどうしてもしたいわけじゃないんだけどね。
↓
●東京のサカモトさん@nekokawaii5656
返信先:@recchan_tototo
なんかわかる気がする、そういうの。
応援してるよ、がんばって!
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
エレベーター来た、ボタン連打連打連打ゴレンダァ!!!
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
成功したんじゃない、これ!?
つ 【マンションの廊下らしき写真。明かりが消えていて妙に暗く、全体的に青白い光が射している】
↓
●東京のサカモトさん@nekokawaii5656
返信先:@recchan_tototo
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
マジで成功したんじゃないの?早朝なのに夜ってことは!
適当に探検したら戻っておいでよ
↓
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
返信先:@nekokawaii5656
ありがと!しっかし、なんか掲示板で聴いてたのと随分雰囲気違うんだね。中世ファンタジー風の異世界とはいかに?違うとこ来ちゃったのか、それともマンションの外が面白いことになってるのか。
マンションの外に出て、周辺ぐるっと確認して戻ってこようと思ってるよ
↓
●東京のサカモトさん@nekokawaii5656
返信先:@recchan_tototo
おけおけ。写真またよろしくね!
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
なにあれ、じめんがない
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
ごめん、ちょっと意味がわかんない。
異世界に来たのは確かっぽいけど全然思ってたのと違う。マンションの外、なんか黒いタールみたいな海になってる。それ以外になんもない。
外に出られない。あの海、泳げるのかもしれないけどすごく生臭くてドロっとしてるから触りたくない。
というか、触ったらやばいような気しかしない。
つ【ドス黒い海がどこまでも続いている写真。空は夜のように見えるが、赤い満月らしきものがぽつんと浮かんでいるだけである。】
↓
●東京のサカモトさん@nekokawaii5656
返信先:@recchan_tototo
うっわ、なにあれキモくね
なんか間違ったところに来ちゃったのかな。まあいいや、さっさと帰ってきなよ。
帰る手順間違いないようにね。正しい手順なら無事に帰れるって話だし
↓
●れっちゃん@かべうち@recchan_tototo
返信先:@nekokawaii5656
うん、そうする。
なんかずっとここにいるのもまずs
↓
●東京のサカモトさん@nekokawaii5656
返信先:@recchan_tototo
れっちゃん?
↓
●れっちゃNンg@かbうち@recchan_tototo
返信先:@nekokawaii5656
ちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいちょうだいそれそれそれそれそれそれそれそれちょうだいそれそれそれそれちょうだいそれちょうだいちょうだいそれそれちょうだいそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれそれrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr
↓
●東京のサカモトさん@nekokawaii5656
返信先:@recchan_tototo
え、え。なにこれ?れっちゃん……!?
***
自分はきっと、此処に来てはいけなかった。
イラストの専門学校生である
学校の課題も、好きな同人誌の原稿もちっとも進まない。自信もなければ、やる気さえどうしても湧かない完全なスランプ状態。だから完全に、ほんのちょっとした気分転換くらいのつもりだったのである。異世界転移がしたいなんて本気で思っていたわけでもないし、信じていたわけでもない。もし転移することができたら、すぐに帰ってくればいいやくらいの気持ちであったのである。
――わ、私……そんな悪いこと、した?
足をもつれさせながらも逃げる、逃げる、逃げる。
――ただちょっと、選ばれる自分になりたかっただけ!異世界転移できるのは選ばれた人だけだっていうから……自分もそうなってみたかっただけ、それだけなのに!
絵を描くことしか、自分に取り柄はないと思っていた。子供の時から、己がみんなに褒められるのは絵を描いた時だけだったからである。
しかし、小学校の時にはもう嫌でも悟らざるをえなかったのだ。自分はちょっとだけ人より絵が得意なだけの凡才。神様に選ばれた本物の天才には絶対に勝てないのだということを。小学校から中学校、高校と。どこに行っても、詠美の傍には詠美を遥かに超える“神様に愛された才能の塊”がいたのである。クラスの写生会の金賞も。美術部のみんなで出したコンクールの絵も。いつだって、詠美は一番にはなれなかった。場合によっては入選そのものも逃した。己の人生はいつだって、自分はただの凡人でしかないことを詠美に思い知らせるものでしかなかったのである。
一生、平凡という名の森の中に埋もれて、誰にも注目されずに死んでいくだけなのではないか。高いお金を払ってイラストの専門学校に行ったけれど、その経験を生かした職につくことなど自分には無理なのではないか。
せめて作業の手が早かったりスランプになりにくい性質だったなら良かったものを、詠美はそれさえも難しい質である。ことあるごとに作品に悩んで手を止めて、場合によっては作品そのものを消してしまって。ツイッターでは少しばかり評価してくれる人も出てきたけれど、それ以上に上には上がゴロゴロといて。
――だからほんのちょっと……ほんのちょっとだけ、誰かに選ばれた気になりたかっただけなのに!
マンションの外は、生臭いタールのような海で満たされていた。それを写真で撮影した直後、その海の中から腕のようなものが伸びてきて引きずりこまれそうになったのである。
――何か……わけわかんないものが、あそこにいた!何かが……誰かが!
はっきりと見えたのは腕だけだったが、間違いない。黒い海の中からは、充血した真っ赤な目が覗いていた。ギザギザの歯が並んだ口もあった。何かがあそこで、自分を待ち構えていたのは間違いない。もしあと少し、腕に気づくのが遅かったなら。あのまま海に引きずり込まれて、どうなってしまっていたのかわからなかったところである。生臭い海の中で窒息していたのか、それともあの怪物に喰われてしまっていたのか。
いずれにせよ、あんなモノがいるのなら海を泳いで渡るという選択肢はないだろう。というより、そもそも泳いだところでマンションの外に辿りつける場所があるかが怪しい。一面真っ黒な海で、赤い月以外に何かがあるようには見えなかったのだから。
――スマホ、落としちゃった……。もう書き込みもできない。誰かに助けも呼べない……って助けを呼んでも誰も助けに来られないかもしれないけど!
とにかく、エレベーターに乗らなければ。手順を間違えなければ、ちゃんと元の世界に帰ることができる。ツイッターでも掲示板でもみんなそう言っていた。それで大丈夫なはずだ。
――え、エレベーターに乗って、一階のボタンを四階連打して、呪文……じゅ、呪文なんだっけ、なんだっけ……!
ちゃんと覚えた筈なのに、パニックになっているせいで全然出てこない。スマホを落としてしまったのでメモを再確認することもできない。とにかくエレベーターに乗ってから思い出そう、そう考えた瞬間だった。
「え」
さっきまで、誰もいなかったはずのホール。エレベーターの前に、誰かが立っている。異様に真っ黒な影は、輪郭が不自然にぼやけていた。まるで画像ソフトで、不自然なぼかしでも入れてしまったかのように。
「だ、れ」
果たして、声は声になったのかどうか。詠美が思わずそう口にした瞬間――影は、目の前に立っていた。まるで、瞬間移動でもしてきたかのように。
「ひっ」
「ちょうだい」
辛うじて聞き取れたのは、濁ったそんな声。
「ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい」
強く突き飛ばされた、と分かった瞬間。詠美の体は手摺を飛び越えて、マンションの外に放り出されていたのである。ふわり、と宙へ浮いた刹那。頭が追い付かない状況で、詠美は他人事のように思ったのだった。
――あ、あ、おち、る。あの黒いやつの、なか、に。
詠美が黒いタールのような海に落下する、瞬間。伸びてきた無数の腕が、詠美の体をずるりと水中へ引きずり込んでいったのだった。
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