4 子猫を巡る攻防(上)
春だというのに急に寒くなった。人間どもは慌てて石油ストーブを出してきた。これがまあ温かいのである。
かさねがちょっかいを出さないように、なにやら石油ストーブを柵のようなもので囲っているが、やはり直火は違う。石油ストーブの上でやかんが湯気を上げている。わしは石油ストーブの前に寝転がり、はあ快適……とため息をついた。
優の両親と、優の兄とその妻、つまりかさねの両親は、農家、という仕事をしているらしい。ここが田舎なのはテレビを見ていれば分かることである。のどかなりんご畑がどこまでものんびりと続くこの田舎の暮らしは大変気楽だ。ただ獣医にかかりに行くには車で片道30分かかるのだった。
そういうわけで石油ストーブの前でくてっと寝ていると、優が心配そうな顔をしてわしの顔を覗きこんだ。
「チビ太、生きてるか、おーい」
生きている。猫パンチで返事をした。優は「チバァ」と変な悲鳴を上げて仰け反った。
さすがに20歳まで生きてしまうと人間を無用に心配させてしまう。なんとか安心させたい。なにかいい方法はないものか。
……そうだ。こういうときこそねこねこネットワークの出番だ。わしは猫パンチの体勢からダッシュで茶の間に飛び込み、押し入れを全力で開けて猫世界に飛び込んだのであった。
◇◇◇◇
猫世界でもろもろの手続きをして、この家に子猫の派遣を依頼してきた。それは猫がやる仕事なのでいつになるかはちょっとわからない。
わしが死んでからかもしれないし生きているうちに弟分か妹分がくるのかもしれない。わしとしては優とかさねという弟子がいるので、別に子猫の派遣などいいことはないのだが、もしわしが死んでしまったあと家族がみんな悲嘆に暮れてしまったら困る。
なんせ優もかさねもわしより若いのだ、わしが死んでしまったらショックであろう。
あくび一発、また石油ストーブの前に寝転がる。優はニンテンドースイッチとやらでゲームをしている。なにが楽しいのかは正直よくわからない。かさねのほうは庭で遊んでいる。子供というものは大きくなるに従ってルールの決まった遊びをしたがるのだなあ、と思った。
そのときわしの耳が微かに子猫の鳴き声を捉えた。まだ生後2ヶ月も経っていない子猫だ。もう派遣されてきたのか。気が早いぞ。
「優にい、どこかでチビ太じゃない猫ちゃん鳴いてる」
「猫? どれどれ」
2人は子猫の鳴き声の聞こえる、物置小屋のほうに向かった。
「オワッ子猫だ。1匹だけだな」
「優にい、この子ってひとりぼっちにされたの?」
「わからん。母猫が戻ってくるかもしれないし、少し離れて様子をみよう」
二人はそのまま1時間ほど子猫の観察を続けたが、母猫が現れる様子はなかったようだ。子猫が寒さで震えていたので、二人は子猫をかかえて室内に戻ってきた。
「さて……兄貴に連絡すっか」
優はスマホを取り出し、優の兄に電話をかけた。しばらくいろいろ話したのち、家族が揃ったら会議が開催されることとなった。優とかさねは家族が帰ってくるまでに、ネットで調べて手際よく湯たんぽやらなにやらを用意し子猫を温めた。
ちょうどわしに栄養をつけようと買ったらしい子猫用のキャットフードがあったので、それを子猫に与えると、子猫はそれをうまいうまいと食べたのだった。(つづく)
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