2 ツナトーストを巡る攻防

 冬も終わりに近づき、三寒四温といった気候になってきた。それでも冬は老猫には堪える季節なので、きょうもきょうとてわしはこたつに入っている。

 家族のだれかがわしのためにこたつの電源を点けっぱなしにしてくれたので、わしはたいへんぬくぬくと温まっている。か・い・か・ん。

 きょうは春休みとやらで、弟子のかさねも優も家にいる。かさねは真面目に宿題をやっており、優はスマホでソシャゲに勤しんでいる。それでいいのか。

 こたつがあまりにぬくぬくで動きたくないと思っていたら、誰かの足が乱暴にこたつに突っ込まれた。猫の嗅覚では臭って仕方がない。これは大きさと匂いから察するに優のようだ。

 どうやら優とかさねは昼ごはんにするようだ。なにやらトースターがチーンと鳴るのが聞こえた。


「優にい、トースト焼けたよ」


「よし。じゃあ食べよう」


 どうやら優はかさねにトーストを焼かせたらしい。なんてやつだ。かさねはまだ小学生ではないか。昭和の男か。思わず臭うのも忘れて優の足に噛み付く。


「いてっ」


「どうしたの?」


 優はこたつ布団をめくった。


「あーっやっぱりチビ太か! お前な、飼い主をなんだと思ってんだ」


 お前は飼い主ではない! と言ってやりたかったが優はもう人間と猫の区別ができる。驚かしてはいけない。


「優にいが飼い主なの?」


「いや……正確には兄貴だな。かさねの父さんだ。かさねの父さんが拾ってきたんだよ。俺が生まれる前に」


「へえ……チビ太っていつ死ぬの?」


 かさね、お前もなかなかひどいことを言うではないか。宮崎駿式のブラックユーモアはやめてほしい。優はスマホをいじってから答えた。


「猫の20歳は人間の100歳くらいなんだと。もうそんなに長くないんじゃないか?」


 弟子どもがあんまりにあんまりなことを言うので、わしはこたつ布団から這い出すと、天板の上にホイと乗っかってやった。目の前にはツナ缶とマヨネーズたっぷりのトーストが2枚。

 おもわず怒るのも忘れてトーストの上のツナにかじりついた。優が「なにすんだチビ太!」と叫ぶ。かさねも「だめだよチビ太!」と言ってわしをテーブルから下ろそうとする。下ろされてなるものかと老猫の全力で抵抗する。


「ちゃんとチビ太のぶんもあるから!」


 なぬ。わしは顔をあげて盗み食いをやめる。かさねが小皿を持って現れた。ツナ缶の油を絞ったパサパサのものがちょびっとだけ乗っている。


「うなおー」


 これじゃ足りない、あと油は絞らないでほしい、と抗議したが、かさねも優もわしの抗議など聞かずにツナトーストをモグモグしている。

 しょうがないのでわしはわびしく、油を絞ったほんのちょっとのツナを食べたのであった。

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