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「先輩!!樹里、社内でセクハラされた!!」
次の日の朝、人事部の部屋に入るなり女の先輩に大声で報告をした。
女の先輩はビックリした顔をして・・・人事部の他の人達も樹里のことを見ている。
「セクハラ・・・?
うちの会社では・・・そういう話、初めてかも。」
「あれは絶対に、セクハラ!!」
「樹里ちゃん可愛いし・・・そっか、そっか・・・うん、でも・・・どうすればいいんだろうな。
うちの部長に話すのは嫌だよね?
部長男性だし・・・私が一旦聞くね。」
女の先輩にそう言われて・・・樹里は勢い良く歩き、部長のデスクの前へ。
さっきの話を絶対に聞いていたので、部長も深刻な顔で樹里を見上げている。
「部長!樹里、セクハラされた!!」
「社内でって話だけど・・・社内の人?」
「社内の人!!最低だったんだけど!!
本当に許せない!!」
「名前、聞いてもいい?」
「名前!?名前?名前・・・名前は知らない人。」
「名前知らないのか・・・。
昨日初めて会ったの?」
「昨日初めて会った!!
・・・あ、でも法務部の人!!」
「法務部!?それ、本当か!?」
「法務部の部屋から出てきたし!」
「じゃあ、別な部署の人が出てきたのかもな・・・。」
「違う!本当に法務部の人!!
あとから女の人にもトイレで会って、その人との会話で法務部の人だって分かった!!」
「法務部・・・が?
うちの法務部、かなりそういう所、厳しいけどな・・・。」
部長がそう言って、私の顔を見て・・・
「ここまで可愛いと・・・大変なんだな~・・・」
「樹里、可愛いもんね?」
「そうだな・・・。
法務部の部屋、一緒に行こう。
俺が扉を開けるから、少し覗いて・・・誰からセクハラされたか教えてくれ。」
「分かった!・・・あ、でも・・・法務部長って、女の人が言ってた!!
法務部長って、1人?
1人なら、その人からセクハラされた!!」
そのことを思い出し、部長に伝えた。
そしたら、目を真ん丸にして・・・
固まって・・・
次は、大笑いした。
部長が笑ってから、他の人達も笑って・・・
入社してから初めてくらい、人事部の人達全員でこんなに笑っている・・・。
なんで笑ってるのは知らないけど、樹里は全然面白くないので何も笑えない。
「法務部長が~・・・?
どんなこと言われたり、されたりしたんだ?」
「昨日、樹里が22時まで残ってて。
早く帰れみたいな感じで入ってきて、ご飯食べてるのかとか言われて、ご飯食べに行こうみたいな話になったから断ったの!」
「それだけ・・・じゃないよな?」
「そんなわけないじゃん!
そしたら、“ヘソ曲がり”って言われて、樹里のおヘソを探された!!!」
樹里にしては上手く説明できたので満足していたら・・・
人事部が一瞬静かになった後・・・
大爆笑になった・・・。
「あいつ、そんな面白いことするのか!」
「全然面白くないから!!」
「法務部長、俺より年下だけど怖いからな~・・・。
まあ、でも・・・それが嫌だったんだもんな?
分かった、あいつに言っておくよ。
加瀬の・・・ヘソを探すのは止めてくれって・・・っ」
部長が最後に吹き出していて、みんなもやっぱり笑っていて・・・。
樹里は全然面白くないから、やっぱり笑えなかった。
「絶対言ってよ!?」
それだけ言って、自分のデスクに戻ろうとしたら・・・
「加瀬!!」
部長に呼び止められ、振り返った。
「こういうこと言うのもセクハラだとは思うけど・・・今日の格好は、いつもより・・・どうした?」
そう言われ、自分の格好をチラッと見下ろして・・・
「テニスじゃん?」
「テニスウェアだな・・・。
そういう系は初めてだよな?
女性物のスコートの方だし・・・Tシャツもいつもよりピタッとしてるから・・・自衛しろよ?」
「セクハラしてくる方が悪い!
そういう男は、何着ててもセクハラしてくるんじゃないの?」
「はい・・・。」
この前、夏生から貰ったばっかりのテニスのウェア。
スカート?スコート?になってて、女の子の格好で・・・結構可愛い。
結構、可愛い・・・。
樹里の服は男の子みたいな服なので、今日ロッカーでこれに着替えた時は、少しだけ嬉しかった。
*
お昼休み・・・
今日は10分くらい過ぎていただけだった。
朝起きるのが少し遅くなってしまって、朝に白米を炊けなかった。
何も準備が出来なかったので、仕方がないから・・・何かを買いに行こうと思う。
でも、この格好でオフィス街を歩くのはおかしいと気付き・・・仕方がないから社食を食べに行くことにする。
お財布の中身を見て、溜め息を吐く。
うちの会社は毎月10日がお給料の支払日で、6月の支給日まであと数日。
初めてのお給料でお兄ちゃんとお姉ちゃん、お母さんにプレゼントを買った。
今までお金を貰ってばかりだったし、初めてのまとまったお金を貰って・・・自分の物よりも家族にプレゼントをしたかったから。
自分で決めたことだから、後悔はしていない。
でも、やっぱりお金はない。
何度お財布を見ても、お金はない。
朝に昨日の残りのおにぎりを少し食べただけだから、お腹は空いているはず。
自覚はないけど、たぶん、空いているはず。
そろそろ、ちゃんと食べないと・・・本当に、倒れると思う・・・。
お財布だけを持ち、立ち上がった。
そのタイミングで、
人事部の扉がノックされ・・・
開いた・・・。
そこには、昨日樹里にセクハラをしてきた・・・ロリコンエロ親父が、いた。
また登場するとは思わなくて、固まってしまった・・・。
ロリコンエロ親父も、樹里を見て固まっている・・・。
樹里を見て、というより・・・
樹里の今日の格好を見てだとは思う。
また、頭から下まで視線が移ったから・・・。
「テニス、だな。」
「うん、テニス。」
「お子ちゃまのわりには、可愛いじゃねーか。」
「樹里は何を着ても可愛いから。」
そう答えたら、ロリコンエロ親父がスーツのジャケットを脱いだ・・・。
6月になり、社内の人達はジャケットを着ていない人も増えているけど、そういえば昨日もちゃんと着ていた。
そして・・・
ロリコンエロ親父が・・・
その、脱いだジャケットを・・・
樹里の肩に、掛けた・・・。
樹里の身体に掛かったロリコンエロ親父のジャケットからは、嫌じゃない匂いがしてきて・・・
特に抵抗はせず肩に掛けたままにしておいた。
「それはそれで・・・なんかエロくなるな!」
「自分がエロいことばっかり考えてるからでしょ?」
「おかしいな・・・そんなはずはねーんだけど!」
「それこそ、おかしいから。
頭の中、それだけのくせに。」
「・・・あ!!!お前、人事部長に何言ってんだよ!?
さっきコソッと言われたぞ!?
“加瀬のヘソを探さないでください”って!!」
「樹里が報告したんだもん、セクハラされたって!」
「そんな変な報告すんなよ!」
ロリコンエロ親父が大笑いしながら樹里を見下ろしてくる。
変な報告なんてしてないけど、嫌気が差すくらい整った顔が・・・こんなに崩れて笑っているのが樹里のツボに少し入り、少しだけ笑った。
「飯、食いに行くか!」
「今から社食を食べに行こうとは思ってたけど。」
そう言うと、ロリコンエロ親父が得意気に笑って・・・
「弁当作ってきてやった!
一緒に食いに行くか!」
そんなことを、言いながら・・・
樹里にお弁当箱を押し付けてきた。
見下ろすと、可愛い赤色のお弁当箱とお箸で・・・
「妹が使ってたやつだけどな!
今度新しいの買ってやるよ!」
「今度とか、ないから。
でも・・・一緒に食べてあげてもいいよ?」
少し驚いているロリコンエロ親父を見上げる。
「お弁当箱もお箸も可愛いし、それに・・・作ってくれた物を残すのは、樹里は絶対にしないの。」
お父さんが死んでしまってから、お母さんは忙しすぎて料理が出来なくなった。
失敗した料理はいつもお兄ちゃんに渡していたけど、それも食べられなくなったことに気付いた時には、後悔をしたから。
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