2

1

「先輩!!樹里、社内でセクハラされた!!」




次の日の朝、人事部の部屋に入るなり女の先輩に大声で報告をした。

女の先輩はビックリした顔をして・・・人事部の他の人達も樹里のことを見ている。




「セクハラ・・・?

うちの会社では・・・そういう話、初めてかも。」




「あれは絶対に、セクハラ!!」




「樹里ちゃん可愛いし・・・そっか、そっか・・・うん、でも・・・どうすればいいんだろうな。

うちの部長に話すのは嫌だよね?

部長男性だし・・・私が一旦聞くね。」





女の先輩にそう言われて・・・樹里は勢い良く歩き、部長のデスクの前へ。

さっきの話を絶対に聞いていたので、部長も深刻な顔で樹里を見上げている。





「部長!樹里、セクハラされた!!」




「社内でって話だけど・・・社内の人?」




「社内の人!!最低だったんだけど!!

本当に許せない!!」




「名前、聞いてもいい?」




「名前!?名前?名前・・・名前は知らない人。」




「名前知らないのか・・・。

昨日初めて会ったの?」




「昨日初めて会った!!

・・・あ、でも法務部の人!!」




「法務部!?それ、本当か!?」




「法務部の部屋から出てきたし!」




「じゃあ、別な部署の人が出てきたのかもな・・・。」




「違う!本当に法務部の人!!

あとから女の人にもトイレで会って、その人との会話で法務部の人だって分かった!!」




「法務部・・・が?

うちの法務部、かなりそういう所、厳しいけどな・・・。」





部長がそう言って、私の顔を見て・・・





「ここまで可愛いと・・・大変なんだな~・・・」




「樹里、可愛いもんね?」




「そうだな・・・。

法務部の部屋、一緒に行こう。

俺が扉を開けるから、少し覗いて・・・誰からセクハラされたか教えてくれ。」




「分かった!・・・あ、でも・・・法務部長って、女の人が言ってた!!

法務部長って、1人?

1人なら、その人からセクハラされた!!」




そのことを思い出し、部長に伝えた。




そしたら、目を真ん丸にして・・・




固まって・・・




次は、大笑いした。




部長が笑ってから、他の人達も笑って・・・

入社してから初めてくらい、人事部の人達全員でこんなに笑っている・・・。




なんで笑ってるのは知らないけど、樹里は全然面白くないので何も笑えない。




「法務部長が~・・・?

どんなこと言われたり、されたりしたんだ?」




「昨日、樹里が22時まで残ってて。

早く帰れみたいな感じで入ってきて、ご飯食べてるのかとか言われて、ご飯食べに行こうみたいな話になったから断ったの!」




「それだけ・・・じゃないよな?」




「そんなわけないじゃん!

そしたら、“ヘソ曲がり”って言われて、樹里のおヘソを探された!!!」





樹里にしては上手く説明できたので満足していたら・・・





人事部が一瞬静かになった後・・・





大爆笑になった・・・。





「あいつ、そんな面白いことするのか!」




「全然面白くないから!!」




「法務部長、俺より年下だけど怖いからな~・・・。

まあ、でも・・・それが嫌だったんだもんな?

分かった、あいつに言っておくよ。

加瀬の・・・ヘソを探すのは止めてくれって・・・っ」




部長が最後に吹き出していて、みんなもやっぱり笑っていて・・・。

樹里は全然面白くないから、やっぱり笑えなかった。




「絶対言ってよ!?」




それだけ言って、自分のデスクに戻ろうとしたら・・・




「加瀬!!」




部長に呼び止められ、振り返った。




「こういうこと言うのもセクハラだとは思うけど・・・今日の格好は、いつもより・・・どうした?」




そう言われ、自分の格好をチラッと見下ろして・・・




「テニスじゃん?」




「テニスウェアだな・・・。

そういう系は初めてだよな?

女性物のスコートの方だし・・・Tシャツもいつもよりピタッとしてるから・・・自衛しろよ?」




「セクハラしてくる方が悪い!

そういう男は、何着ててもセクハラしてくるんじゃないの?」




「はい・・・。」





この前、夏生から貰ったばっかりのテニスのウェア。

スカート?スコート?になってて、女の子の格好で・・・結構可愛い。

結構、可愛い・・・。





樹里の服は男の子みたいな服なので、今日ロッカーでこれに着替えた時は、少しだけ嬉しかった。

















お昼休み・・・

今日は10分くらい過ぎていただけだった。




朝起きるのが少し遅くなってしまって、朝に白米を炊けなかった。

何も準備が出来なかったので、仕方がないから・・・何かを買いに行こうと思う。




でも、この格好でオフィス街を歩くのはおかしいと気付き・・・仕方がないから社食を食べに行くことにする。




お財布の中身を見て、溜め息を吐く。

うちの会社は毎月10日がお給料の支払日で、6月の支給日まであと数日。

初めてのお給料でお兄ちゃんとお姉ちゃん、お母さんにプレゼントを買った。





今までお金を貰ってばかりだったし、初めてのまとまったお金を貰って・・・自分の物よりも家族にプレゼントをしたかったから。





自分で決めたことだから、後悔はしていない。

でも、やっぱりお金はない。

何度お財布を見ても、お金はない。





朝に昨日の残りのおにぎりを少し食べただけだから、お腹は空いているはず。

自覚はないけど、たぶん、空いているはず。






そろそろ、ちゃんと食べないと・・・本当に、倒れると思う・・・。






お財布だけを持ち、立ち上がった。








そのタイミングで、







人事部の扉がノックされ・・・







開いた・・・。








そこには、昨日樹里にセクハラをしてきた・・・ロリコンエロ親父が、いた。







また登場するとは思わなくて、固まってしまった・・・。





ロリコンエロ親父も、樹里を見て固まっている・・・。

樹里を見て、というより・・・

樹里の今日の格好を見てだとは思う。





また、頭から下まで視線が移ったから・・・。





「テニス、だな。」




「うん、テニス。」




「お子ちゃまのわりには、可愛いじゃねーか。」




「樹里は何を着ても可愛いから。」





そう答えたら、ロリコンエロ親父がスーツのジャケットを脱いだ・・・。

6月になり、社内の人達はジャケットを着ていない人も増えているけど、そういえば昨日もちゃんと着ていた。







そして・・・









ロリコンエロ親父が・・・








その、脱いだジャケットを・・・









樹里の肩に、掛けた・・・。








樹里の身体に掛かったロリコンエロ親父のジャケットからは、嫌じゃない匂いがしてきて・・・

特に抵抗はせず肩に掛けたままにしておいた。





「それはそれで・・・なんかエロくなるな!」




「自分がエロいことばっかり考えてるからでしょ?」




「おかしいな・・・そんなはずはねーんだけど!」




「それこそ、おかしいから。

頭の中、それだけのくせに。」




「・・・あ!!!お前、人事部長に何言ってんだよ!?

さっきコソッと言われたぞ!?

“加瀬のヘソを探さないでください”って!!」




「樹里が報告したんだもん、セクハラされたって!」




「そんな変な報告すんなよ!」





ロリコンエロ親父が大笑いしながら樹里を見下ろしてくる。

変な報告なんてしてないけど、嫌気が差すくらい整った顔が・・・こんなに崩れて笑っているのが樹里のツボに少し入り、少しだけ笑った。





「飯、食いに行くか!」




「今から社食を食べに行こうとは思ってたけど。」





そう言うと、ロリコンエロ親父が得意気に笑って・・・





「弁当作ってきてやった!

一緒に食いに行くか!」





そんなことを、言いながら・・・

樹里にお弁当箱を押し付けてきた。





見下ろすと、可愛い赤色のお弁当箱とお箸で・・・





「妹が使ってたやつだけどな!

今度新しいの買ってやるよ!」




「今度とか、ないから。

でも・・・一緒に食べてあげてもいいよ?」





少し驚いているロリコンエロ親父を見上げる。





「お弁当箱もお箸も可愛いし、それに・・・作ってくれた物を残すのは、樹里は絶対にしないの。」





お父さんが死んでしまってから、お母さんは忙しすぎて料理が出来なくなった。

失敗した料理はいつもお兄ちゃんに渡していたけど、それも食べられなくなったことに気付いた時には、後悔をしたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る