第4話 陽キャくんはゲームが下手
放課後になり、俺と翔太と真由と玲奈の四人でいつも通りどうでもいい話で盛り上がっていた。しかし時間を見るとそろそろ部活に行ったほうがよいだろう。
柏木さんは先に部室に行ってしまったようだ。俺もそろそろ皆との会話を切り上げないとだな。
「じゃあ俺はそろそろ行くね」
「あ、ケイちゃん今日は生徒会だっけ?」
真由は俺にそう尋ねる。
「んー、いいや。実は俺部活に入ったんだ」
「ふぇ?」
真由は小首をかしげる。
「えー、それ初耳だよ。なに部よ?」
玲奈は驚いた顔をしている。ああそっかまだ三人には部活のことを話していなかったんだった。
「なんとゲーム部を設立しました」
俺の言葉を聞いて真由と玲奈は固まっている。
「ゲーム部、圭司が?」
翔太は困惑した様子を見せる。
「ああ、そうだよ」
「こう言っちゃなんだがなぁ。なにがどうしてそうなったんだよ」
翔太は苦笑いしている。
「ま、まずいかな?」
「その絶望的なセンスでよくそれを選んだなって」
翔太も真由も玲奈も同じように苦笑いしている。
「ん、なんとかなるって。ゲームって子供もやるくらいだし、俺でも出来るでしょ」
三人は俺の話を苦笑いで聞いている。今に見ていてくれ、プロゲーマーになっちゃうぞ。
「よ、よ陽キャってこんなにゲームが下手なのか」
蘇我くんは俺のゲームをする様子を見て楽しそうに笑っている。
「は、初めてでよくわからなくて」
俺はちびぶらと呼ばれている家庭用格闘ゲームに苦戦している。さっきから一方的に殴られるわ、ステージからガンガン落とされてしまって参っている。
「最弱のコンピューターにボロ負けている人は初めて見ました」
柏木さんは俺のプレーを見て絶句している。そ、そんなに俺のゲームはまずいのか。
確かにいつめんでゲーセンに行ったとき、なにをやるにしてもボロボロ過ぎて爆笑された覚えがある。
「む、難しすぎる」
「陽キャはこの部を設立してくれただけで、な」
蘇我くんは俺の肩を優しくポンと叩く。
「ゲームがダメでも高柳さんには友だちが沢山いますし大丈夫ですよ。私なんてゲームもそこそのぼっちですし」
柏木さんのアドバイスはなんと後ろ向きなのだろうか。ってか柏木さんレベルでそこそことはにわかに信じがたい。
「柏木さん、その褒められ方は嬉しくないよ」
俺はがっくり肩を落とす。
「あ、いや、そういうつもりではなくてですね、大丈夫ってことですよ」
柏木さんは慌てて俺をフォローする。
「俺もぼっち姫に同感だ。ゲームができなくても遊ぶやつがいるならいいだろ」
蘇我くんは自嘲気味に呟く。
俺はひたすらコンピューターと戦う、ふと二人の様子が気になり見てみる。
すると二人は同じ部屋にいるのに全く別のゲームをしている。
「よし、頑張るか」
きっと二人のレベルまで追いつければ皆でできるよね。俺はひたすらコンピューターと戦う。
「あれ、あ、あれ」
「うっそー、あれ死んじゃった」
「だめだー、難しすぎる」
かれこれ一時間ほど格闘ゲームと格闘していたが、全く上達する気がしない。これは俺は向いていないということなのかな。
「皆とやりたかったな」
俺は独り言を呟いていた。
「……つーか基本がなってない。そもそもこのボタンは押さないんだよ」
蘇我くんはそういってゲームの操作方法を教えてくれた。
「蘇我くんありがとう」
「こ、このキャラならこういう裏技もあります」
柏木さんは俺の隣にちょこんと座るとその方法を教えてくれる。や、やばい隣に柏木さんはまずい。
めちゃくちゃ嬉しい気持ちを一旦抑えて、裏技習得に集中する。
「二人ともありがとう。絶対上手くなって二人と遊べるレベルに持っていくから」
「まぁ気長にいけよ。陽キャの場合とんでもないプレー時間を積んでいって、ようやく俺たちと遊べるくらいにはなると思うし」
蘇我くんはにやりと笑う。
「ゲームは楽しむことが大事ですし、焦らずです」
柏木さんはちっちゃくファイトポーズをしてくれる。めちゃくちゃ可愛い。
「よーし、基礎は抑えた」
俺はコンピューター相手に戦いを挑む。
次こそは絶対に負けないぞ。
「おいおいマジか」
「えっ、えっ、あー」
「やったぁー、遂に最高レベルのコンピューターに勝てたよ」
二人のアドバイスのおかげで余裕で勝てるようになった。俺は攻撃の種類とかコンボの種類を覚えることが抜けていた。あとはそれを発動するタイミングをしっかり掴めることができれば簡単である。
あとは攻撃するタイミングやガードさえ上手くできればなんてことはない。
「子供がやるゲームで負けないでしょ」
俺は二人にピースサインをする。
「お前はゲームの才能もあるのかよ、コンボも完璧だしあんなやべープレーはプロしかやらないだろ」
蘇我くんは口をぽかんと開けている。
「……凄まじい才能ですよ。私たちよりも遥かに短いプレー時間でここまで上達するなんて」
柏木さんは唖然とする。
「え、そうなの?」
俺にはそういう感覚はなかったけれど、そんなに凄いことなのかな。
「陽キャにリアルでもゲームでも負けた」
二人は顔を引きつらせている。
部室の空気が妙に重くなるのを感じる。
「上手くなったから二人と遊べるよね?」
俺はそう尋ねると、蘇我くんと柏木さんは露骨に目を逸らす。
「プロゲーマーレベルのお前と俺では話にならないし。つーかもうやらん、勝てないし」
「え?」
「ちびぶらは常にはやっていないので専門外なんです。それに別ゲーの周回がありまして」
「ちょっ、待ってよ」
二人はそう言葉を残してまたしても別ゲーを始めてしまう。
「あ、あれ。思っていたのと違う」
俺は苦笑いするしかなかった。
どうやら俺には本当の本当にプロゲーマーレベルの才能が眠っていたらしい。ゲームが上手くても一緒にゲームができないのか?
なんか、こう、一枚岩にならないゲーム部にもどかしさを覚えるのだった。
陽キャくんは、ぼっち姫に恋をしている。 三吉おれんじ @orange_8
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