第3話 届け物

 権蔵爺さんには友達らしい友達は、いなかった。気難しい性格から、村の衆は関わり合いを避けた。

 それでも一人だけ理解者がいた。息子の同級生の敏夫である。親が遺した田畑を守って一人暮らししている。


 権蔵爺さんの息子は、嫁と家を出た。孫たちはたまに遊びにきてくれるが、息子はその送り迎えで家に寄るくらいである。嫁の機嫌を取っているのだ。

「まあ、あんなに性格の悪い嫁は見たことがない」

 権蔵夫婦がぼやくと、敏夫は同情してくれた。


 敏夫は何かにつけて権蔵爺さんに顔を出した。そのたびに、身の回りで獲れたものを届けてくれた。

「今日は卵が少ないけんど、まあ、2人で食べてみてや」

 敏夫は家の鶏小屋から獲ってきた卵を差し出した。


「誰ぞ、うちに用事のある者がきたのか、今朝は鬱陶うっとうしい蜘蛛の巣がなかったわ」

 敏夫が髪をでつけた。

「けんど、気をつけんと、悪い子供らがおるからのう」

 言いながら、婆さんは敏夫自慢の髪型を見た。時々、蜘蛛の巣がかかっていて、おしゃれも台無しだった。

(一つ、二つ、くすねるのは常習者のやり口や。見つかりにくいからのう)

 権蔵爺さんには、犯罪者の心理が読めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る