第2話 弁当箱

 千足せんぞく村に、よく妹の面倒を見ている女の子がいた。隆の同級生だった。同じクラスの和子とも仲が良かった。名前を清美と言った。


 清美は小学校に上がってすぐ、母親を亡くした。

 父親は山仕事から帰ると、清美に酒のアテを作らせ、飲み始める。2人の子供を何かにつけて叱った。姉妹が夕食に箸を付けるのは、父親が酔いつぶれてからだった。


 父親は家に金を入れなかった。学校で集金があると、清美は小銭を家中探した。和子の家で借りたこともあった。

 清美は朝早く起きて、弁当を3つ作った。

 材料が足りない日もあった。清美は妹と父親の分だけ作り、お昼は我慢することにしていた。空腹には慣れていた。

 また、米の割合が少なく、ご飯が押し麦で黒っぽくなることもあった。そんな時は、妹の弁当から表面の押し麦を、自分の弁当に移した。


 妹はいつも弁当を完食してくれた。大好物は卵焼きだった。おかずに卵焼きが入っているだけで、大喜びだった。


 明日は妹の小学校の遠足だった。小さなリュックを枕元において眠りについた。

 清美が台所に行くと、おかずの材料が切れかけていた。なんとか父と妹の分は作れるとしても、卵が一個もなかった。


 遠足の行き先は、学校から一時間半ほど山道を登ったところにある湿原だった。

 清美も小学校の遠足で行った。山の上なのに、湿原が広がっていた。弁当を食べた後、隆や和子たちと鬼ごっこなどをして遊んだ。

 数少ない、楽しい思い出のひとつだった。


 清美は妹が弁当箱を開けるところを、想像したくなかった。とめどなく、涙があふれてきた。

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