第5話

「おい!『ゼロ』!ちょっと面貸せや!」


 僕が教室に戻ると時計は10分弱しか進んでおらず、郭日さんの魔法の凄さを実感した。一度窓から公園を見たがすでに郭日さんはいなくなっていた。

 僕はなんとなく焦燥感に似た感情を持って今日を過ごした。


早く、早くやらなきゃ。何を?何かを。


気づけば6限は終わり、担任も教員室へと帰っていた。弁当は空だったので無意識に食っていたのだろう。今日はテストもnガッ!


「痛っ!」


突然背後から何か硬いものが、僕の頭を強く打った。


「『ゼロ』!無視とはいいご身分だな!」


土田だった。おそらく彼の土魔法が僕の後頭部に命中した。そして僕が後ろを振り返ると同時に、土田は詠唱を開始していた。


「【地拳アースハンド】」


「ぐッ!」


地面から土でできた大きな拳が現れると、僕を握り締め持ち上げた。

痛い、苦しい。


「や、め」


「【微風弾ブリーズブラスト】」


突然強い圧迫感から解放された。

五十嵐が右手を僕の方に伸ばしながら土田に険しい目を向けているのが見えた。


「口で言うのはいい。僕も否定しない。土田おまえの自由だ。でもさ...


魔法を使うのは違うだろ。」


土田は狼狽し、あんぐりと口を開けて硬直した。


「お前が僕を崇拝するのも自由だ。でもこれ以上僕の幼馴染を傷つけるならもう僕に付きまとうのはやめろ。」


「そんなっ!ただ俺は五十嵐に!」


土田は縋るように五十嵐を見たが、五十嵐はゴミを見るような冷たい目で土田を見つめていた。


「...クソォッ!お前のせいだ!全部全部!お前の!」


土田は俺にそう吐き捨てると逃げるように教室を出て行った。


「【回復キュア】...大丈夫か、如月。」


五十嵐は流れるように僕に回復魔法をかけ(こう言った小さな優しさも彼がモテる理由だろう)軽く説教をした。


「お前も嫌なら先生に相談しろ。黙ってやられてちゃつけあがるだけだぞ。」


「大丈夫だよ。」


僕は五十嵐に申し訳なさと苛立ちを覚えていた。わざわざ助けてくれて申し訳ない。でもそれは自分の力を見せびらかしたいだけなんじゃないのか?僕を助けて恩を売るつもりなのか?

全てが信じられなくて、こんなことを思ってしまう自分も嫌だった。


「ありがとう。じゃあね。」


僕も土田と同じように、五十嵐から逃げるようにして教室を出た。


● ○ ●


「痛たた...。やっぱ魔法は強いや。」


僕は土田の手の魔法によって圧迫された箇所を、さするようにして帰る。

 正直、五十嵐に助けられない方がマシだった。自分は庇護対象だと思われているようで情けないし、自己顕示の足がかりにされているような気分になる(五十嵐がそう思っているかどうかは知らないが)。結果的に助けてもらわない方が今より幾分か割り切った気分で帰れただろう。


そんな卑屈な思考に突然「ドオン」と轟音が響いて、僕は思わず振り向く。意識したものではなく、反射的に。


当然僕は下校中、学校に背を向けて歩いていたわけで当然振り返ればそこは学校である。

学校からが大きく砂嵐が上がっている。


学校で爆発?

無闇矢鱈に魔法を使うのは厳密に言えば校則違反で、土田や五十嵐はしっかり校則を侵しているのだが、暗黙の了解でみんな魔法は使っている。

しかしこの規模の爆発。当然何かしら壊れただろうし、当然大規模な魔力マナの移動があったわけでそれは電子機器に記録されている。

すぐに爆発を起こしたお馬鹿さんも捕まるだろう。


でも...なんだか嫌な予感がする。


僕が行ってもどうにもならないけど。


野次馬根性で、僕は学校に戻ってみることにした。

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ゼロから1億〜出来損ない魔法使いが世界一の魔法師になるまで〜 夜野やかん @ykn28

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