第4話

郭日くるわびだ。よろしく、少年。」


郭日...って。


「郭日魔法高校の郭日さんですか?」


「いかにも。私は私以外の郭日に会ったことがないね。」


僕の驚きは想像を絶するものであったが、読者の皆さんにはこの驚きが伝わっていないだろう。

今日の朝「100年前とある日本人男性から魔法は広まった」と言ったが、その日本人男性こそが郭日魔法高校の創設者、郭日くるわびあきらである。

まだ魔法がなかった時代に魔法を使えるようになった彼を、崇める団体がいくつもできたという。だが郭日は崇められることを嫌い、代わりに自らのノウハウを教える教育機関を開いたという。


「彰さんのご子息ですか?」


「ははは、私が郭日彰だよ。」


僕は思わず驚きを露わにしてしまう。

まだご存命だったのか。生きているとしたら100歳を優に超えるぞ。

ネットでは「現代のダンブルドア」「日本のガンダルフ」なんて呼ばれている郭日彰だがその理由がようやくわかった。


「ええと...22歳で魔法を使えるようになったんですよね。歴史の授業でやりました。」


「そうだ。27で不老不死の魔法に着手した。私の見た目の老化は30代前半で止まっているよ。」


確かに彼の見た目は若く、122歳とは到底思えない。ただ毛髪だけは不自然に真っ白で、体もどこか頼りない。


「見た目が老いなくても脳は老いるようでな。体は元気なのに何をするにも疲れを感じる。魔法だって全盛期の1/3も使いこなせていない。」


郭日さんは寂しそうに微笑むと鞄から水を取り出し、一口口に含んだ。そして僕に話すように促した。自分の悩みは話したのだから、話してみなさいという風に。


「魔法が、使えないんです。クラスのみんなができていることが僕にはできない。1限も、みんなは魔法の実習なんです。僕は魔法が使えないから、自習。」


郭日さんは少し戸惑い、元気づけるように僕の肩を叩いた。


「魔法が使えないやつは大勢見てきたが、みんな力強く生きているよ。魔法警察のかじを知っているか?」


「梶長官ですか。」


「そうだ。彼は私の古い友人だが魔法を使えない。でも立派な長官だ。魔法の有無に関わらずね。」


僕は思わずため息を漏らしてしまう。せっかくあの郭日彰が慰めてくれているのに、悲しみを抑えきれずに息をついた。


0。」


「なんだって?」


「『魔力マナ』が0。」


「0...?魔力マナが?...そんな。」


郭日は絶句し、目を泳がせた。そんな余裕を失った態度に僕はなんだか腹が立って、胸の中にあるもの全てをぶちまけた。


「梶長官は平均の1/10という噂がありましたよね。そんな生ぬるいもんじゃないです。梶長官が羨ましいですよ。少しでも身体強化魔法がかけられるんですから。僕は0です。」


何かを言おうとする郭日さんを遮って、僕の本心は留まらずに放出され続ける。


「魔法を見せびらかすやつに腹が立つ。胸の奥に劣等感が積もっていく。魔法の授業はいつも見学か自習だ。自分は一般人とは違うんだと言われる気がする。何より使。それがどんなに恵まれたことか知らないくせに!」


公園には気まずい沈黙が流れ、静寂が針のように耳の奥を突いていた。


「...すいません。授業に戻ります。」


「待て!待ってくれ!軽率な発言だった...


僕は郭日さんに背を向けて学校へと歩き出した。しばらくするとハトが飛び立ち木の葉は落ちた。僕は心に苛立ちと虚しさを湛えたまま教室へと急いだ。

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