第6話絵画を盗み出せ!③
「さて、出来たぞ。即席成田の指紋……これを電子ロックの『センサー』に当てて……」
指紋認証の作動原理を考えれば、基本的にはこれで電子ロックは解除される筈である。但しあくまでもこの指紋が成田金蔵のものだという条件が満たされての話だが。
ところが、どういう訳か成金邸の電子ロックはシチローが作った成田の指紋もどきの付いたワイングラスでは解除されなかった。
「あれ? おかしいな……もう一回……」
シ―ン……
「どうして開かないんだ? ……ティダ、これホントに成田のワイングラスなの?」
ロックが開かない原因は、二つしか考えられない。ひとつは疑似指紋がうまく出来ていない場合……そしてもう一つは元の指紋が成田金蔵のものではない場合だ。
「間違いないわ、ちゃんと成田から手渡しで受け取ったのを布に包んで持って帰ったんだから!」
「そうか……でも、大金持ちの成田にしては何か安っぽいワイングラスだな……」
シチローは、そう言ってワイングラスを月の光にかざしてみた。すると、そのワイングラスを見ていた子豚が思い出したように呟いた。
「そういえば、私が友達との忘年会で貰ってきたワイングラスにそっくりだわ」
「へぇ~いいなコブちゃん、もう一つないの? あたしの分」
その子豚に向かって、ひろきが尋ねると。
「ホントはペアグラスだったんだけどね……友達に一つあげちゃったから、私は自分の分だけ布に包んで持って帰ったのよ」
「布に包んで?」
子豚の説明にいち早く反応したのは、てぃーだとシチローだった。二人共、考える事は同じらしい。念の為、てぃーだが子豚に確認を取る。
「コブちゃん、そのワイングラスって、事務所のサイドボードの上に置かなかった?」
「そうそう、そのワイングラスよ」
「まさか……」
「その『まさか』よシチロー……アタシもサイドボードの上に置いてたのよ……」
同じワイングラスとは言え、成田のワイングラスと子豚のワイングラスでは方や高級ブランド品、そしてもう一つは探せば百均でも見つけられる位、雲泥の差があった。
しかし、両方とも白い布で包まれていた為、簡単には見分けがつかなかったのである。つまりシチローは、子豚の指紋で電子ロックを解除しようと必死になっていたのだった。
「クソッ! この役立たずのワイングラスめ!」
「わああっ! それ私のワイングラスでしょ~!」
頭にきたシチローがワイングラスを持って振り上げた右手を、子豚が慌てて押さえつける。
「コレじゃ電子ロック開けられないよ……シチローどうする?」
「こうなったら叩き壊してやる!」
ひろきに尋ねられ、半分ヤケになって庭の石を持ち上げるシチロー。それをてぃーだが慌てて制止する。
「ちょっと待ってシチロー! そんな事したら防犯ベルが鳴るわ!」
「だって他に方法がないよティダ……」
改めて確認すると、この電子ロックを解除するには、成田金蔵の指紋か、あるいは関係者だけが持つIDカード、もしくはアルファベットと数字の混ざった10桁のパスワードのうちのどれか一つが必要である。しかし、成田の指紋作戦に失敗したシチローにはもう有効な手だては無かった。
「シチロー! アンタ『ルパン三世』なんだからなんとかしなさいよ!」
子豚が、何の根拠も無い暴論でシチローに詰め寄る。
「あのね、何とかしろって言ってもこれは最新型の電子ロックなんだよ? ピッキングでちょいとって訳にはいかないんだよ……」
「魔法の呪文とかで開かないのかな」
「そんなもんで開く訳ね~だろっ! じゃあ何か? 開けゴマとでも言えば開くのか~!」
ガチャン!
「開きました」
「ウソ・・・・・・」
奇跡が起きた。……実はこの『開けゴマ』という言葉は、この防犯設備の開発者だけが知る電子ロックが故障した時の強制解除のパスワードであった。
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