第5話絵画を盗み出せ!②

 匍匐前進ほふくぜんしんで成金邸の庭を進むチャリパイの四人。その先頭を行くシチローの足を誰かが突っついている……


「ん? 誰だ、後ろから突っつくのは……コブちゃんか?」


「私じゃないわよ。」


「じゃあ誰だ?」


成金邸の庭のセキュリティで、シチローは大事な事を忘れていた。それは赤外線レーダー、監視カメラとそして……


「うわっ! ドーベルマンがいる!」


成金邸の庭の芝生には、不審者の侵入を防ぐために数匹のドーベルマンが番犬として放し飼いにされていた。その中の一匹が、シチローの後ろを尾いてきていたのだ。


「あっち行け! シッシッ!」


シチローが必死になって追い払おうとするが、番犬はシチローから離れようとしなかった。しかし、どういう訳か吠える様子も無い。すると、その様子を見ててぃーだが思い出したように声を上げた。


「あら、アントニオじゃないの!」


「アントニオ?」


「そう、その番犬の名前よ。アントニオはこの間メイドに行った時に手懐けておいたから大丈夫よ」


そのアントニオは、てぃーだに背中を撫でられて尻尾を振っている。それを見ていると、これで本当に番犬が務まるのかと他人の犬ながら心配になる。

暫くすると、アントニオよりも一回り体の小さなドーベルマンがやって来た。


「こっちの小さな方は『小力』っていうの」


番犬としては少々頼りない感じのするアントニオと小力……しかし、シチローはこの二匹を上手く使えば、今の匍匐前進よりももっと早く屋敷までたどり着けないだろうかと考えた。


「成る程、そういう事なら、かな」



☆☆☆



「楽ちん、楽ちん」


「行けぇ~アントニオ~!」


シチローは、四人のマントをつなぎ合わせて一枚の大きなシートを作り、犬ゾリのようにそれをアントニオと小力に牽かせた。


その健気な犬達の事をてぃーだが穏やかに称えた。


「お利口な番犬ですこと」


お利口(?)な番犬アントニオと小力のおかげで無事、成金邸の屋敷の前まで辿り着く事が出来たチャリパイの四人。いよいよこの要塞を攻略する時が来た。


「さあ、ここからが本番だ!まずはこのを何とかしないと」


最初の難関がこの電子ロックだ。この電子ロックを解除する為には、この屋敷主である『成田金蔵』の指紋か、あるいは関係者だけが持つIDカード、もしくはアルファベットと数字の混ざった10桁のパスワード……これらのいずれか一つが一致しなければならない。


そしてシチローは、この電子ロックを解除する為に、あるをてぃーだに用意させていた。


「それじゃティダ、を」


「これね……」


てぃーだは、事務所から持ってきたリュックを開け、中から丁寧に布で包まれたワイングラスを取り出してそれをシチローに渡した。


「これは、ティダに頼んで屋敷から拝借してきてもらった、ワイングラスだ」


「なんだかスパイ映画みたいね」


子豚の言う通り、シチローはこの要塞攻略のためにまるでスパイ映画顔負けの綿密な作戦を用意していた。


「このワイングラスに速乾性の『シリコンスプレー』を吹き付けます! そして待つ事1分……すると、ナントびっくり~!」


スパイ映画というより、といった方がいいかもしれない。

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