第14話 誰に着せたらいい?


「今、なんて言った?」

「だ~から! オレの方が、この衣装。絶っ対似合うと思うって言ったの!」


 胸の前で腕を組み、自信たっぷりと言った顔で、俺を睨む航太。

 どうして、男の彼が女キャラのコスをしたがるんだ?


 ~それから数日後~


 航太は一体、どうしてあんなことを言ったのだろう……。

 そんなに俺の元カノ、未来がエロくて羨ましかったのか?

 だからと言って、悔しくて自ら女のコスプレをしたいと思うかな。

 最近の若者はよく分からん。


 

 担当編集の高砂さんに言われた通り、初のロリものに挑戦しているが。

 思うように原稿が進まない。

 今まで書いていたムチムチシリーズは、元カノをモデルにしているから、書きやすい。

 航太に見せた未来のコスプレ写真集を、今でも大事に持っているのは、資料としても利用しているからだ。

 まあ、他にも使用用途が無いわけじゃない……。

 

 それに対して、今回のロリものはモデルがいない。

 インターネットでマンガや合法グラドルなどを参考に描いてみるが……難しい。

 キーボードを叩いてはいるが、ずっとエンターキーばかり。

 白紙のまま。

 今日は原稿を書くのを諦めて、コンビニへ酒でも買いに行くかと立ち上がった瞬間。


『ピンポーン』と玄関のチャイムが鳴った。


 ひょっとして、お隣りの美咲みさき あやさんか?

 いや、航太だったりして?

 相手が誰か確認もせずに、玄関のドアを勢い良く開いた。


「ちわっす、宅急便です。ここにサイン良いっすか?」

「……」


 一気に萎えてしまった。

 チャイムを鳴らしたのは、屈強な身体の宅配業者だったから。

 とりあえず、言われた通りにサインを書いて、荷物を受け取る。


「あざーす!」

「ど、どうもおつかれさま……」


 受け取った荷物は、大きなビニール袋だった。

 手に持つと随分、軽い。

 なんだろ? こんなの注文した覚えはないけど。

 玄関のドアを閉めて、送り主を確認する。


『博多社 “出ちゃった”編集部、高砂たかさご 美羽みう


「なんだ、高砂さんか……」


 でも、一体なにを送ってきたんだ?

 書類にしては軽いし……。

 とりあえず、ビニール袋を開けて中を確認してみる。


 すると中には、薄い透明のビニール袋が三つ入っていた。

 なんだろうと取り出してみたら……大人の俺が、持っていちゃいけないモノが混入している。


「セーラー服と体操服、それにスク水……」


 三つともビニール袋で梱包されているから、新品だと思うが。

 このご時世、こんなものを俺が所持していたら、変な人だと誤解されそう。


 なにかの間違いだと、スマホを取り出して高砂さんに電話をかけようと思ったら。

 一枚の用紙がひらりと、床に落ちた。

 便せんだ……高砂さんからのメッセージらしい。


『SYO先生、進捗いかがですか? これ資料として使ってください』


 彼女のメッセージを読んで、思わず吹き出してしまう。


「ブフッ!?」

 

『ムチムチシリーズより、リアルに描いて欲しいので。ロリっ子が着る制服を用意しました。たくさん妄想してください!』


 そういうことか……。

 しかしこの人、よく出版社に採用されたな。

 ん? まだメッセージには続きがあるみたいだ。


『追伸。その制服は全部、私のお古ですので。使用後は好きにしてください。捨てても売っても』


「……」


 捨てても逮捕、売っても逮捕になるんじゃないか。

 というか……この古着で一体、どう物語を想像すればいいんだ?

 

  ※

 

 ビニール袋から制服を取り出し、畳の上に広げてみる。

 確かに高砂さんが学生時代、使用していたもので間違いないようだ。

 だって、どの服にも彼女の名前が書いてあるから……。


『2-A 高砂 美羽』


 つまり彼女としては、中学2年生ぐらいのヒロインを書いて欲しいってことか?

 でもな、身近なところにそんな子供はいない……いや、いる。

 お隣りの美咲さん家。航太は確か中学2年生。


 って、俺は何を考えているんだ。あの子は男だ。

 こんな制服を着るわけないだろう。

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