第15話 このクソロリコン!


「高砂さんも一体、何を考えているんだか……」


 近所のコンビニから出ると、駐車場にある喫煙所へ向かいタバコに火を点ける。

 

「はぁ~」


 夕陽でオレンジ色に染まった空へ、白い煙が漂う。

 煙が目に染みるから、自然と目を細めてしまう。

 半纏を着ているとはいえ、12月だ。

 外でタバコを吸うのもしんどい。


 この辺で喫煙できる場所も少ない。

 公園なんて無いし、居酒屋も店内での喫煙はダメ。

 唯一許されているのは、昔から利用している喫茶店のライムだけ。

 あとは、コンビニの駐車場ぐらい。

 価格だけ上げるくせに、喫煙者には厳しいんだもの……やってられないぜ。


 と心の中で、ぼやいていると。

 聞き覚えのある甲高い声が聞こえてきた。


「あんまり近づくなって! オレはお前のこと、何とも思ってないんだよっ!」


 視線を空から地上におろすと、コンビニの前を通る一人の中学生が目に入った。

 低身長で華奢な体型だから、学ラン姿が似合わない。

 かなりサイズが大きいようで、ぶかぶか。

 制服を着ているというよりも、制服に着られているという感じ。


「いいじゃん、航太くん。引っ越してきたばかりだから、この辺詳しくないでしょ?」


 一人の女子中学生が、少年の左腕に絡みつく。

 かなり積極的な女の子だ。

 嫌がる彼を無視して、自身の胸を肘に当てつけている。


「そんなの頼んでないって! オレ、女とは仲良くなりたくないから、早く帰れよ!」

「えぇ~ 航太くんさ、クラスの子と馴染めてないじゃん。だから私が一番目になりたいの」

「頼んでない!」


 なんだ、青春している中学生カップルか……と思ったが。

 不機嫌そうに歩いている少年の横顔を見て、ドキッとした。

 航太が……女の子と歩いている。


 別におかしなことではない。

 彼も中学生だし、14歳だ。ルックスも良い方だし、女の子にモテるだろう。

 それなのに……なぜ俺の胸は痛みを訴えているんだ?

 ショックを受けているのか。

 子供だと思っていた彼が、急に大人の階段を上っているようで。


  ※


 気になった俺は、さっさとタバコを灰皿に投げ捨て、二人のあとをつけることにした。


「よう、航太!」と手を振ればいいのに、なぜかこの二人がどうなるか。とても気になる。

 堂々と背後に回るのは、気が引けるので。時々、電柱に隠れて監視している。

 どうやら、帰る方向が女の子と一緒のようだ。


「ねぇ、航太くんさ。料理とかする?」

「するけど」

「え!? すごい! 私とか全然作れなくてさぁ、ママにシチューを教えてもらったけど。焦がしちゃった」

「……まあ、いいんじゃない? 最初が肝心なんだし」

「嬉しい~ じゃあ今度、航太くん。レシピ教えてくれる?」

「別にいいよ……」


 遠目から見れば、中学生同士の愛らしい会話なのに。

 あの女の子が航太と仲良くなると思うと……胸が苦しい。

 別に悪いことじゃない。

 彼だって、友達がいないと嘆いていた。喜ぶべきだろう。

 俺みたいなアラサーといるより、ずっと。


  ※


 女子中学生は今度、航太からレシピを教えてもらえると聞いて、喜んでいた。

 俺の家でもあるアパートの前で、手を振る女の子。


「またね、航太くん!」

「うん……」


 ぎこちない顔で、一応手を振る航太。


 俺はと言えば、アパート近くの電柱から彼を監視中。

 このまま航太が階段をのぼって、自宅の扉を開けるのを待った方が良い……。

 そう考えていたのに、俺の脚は自然とアパートへ向かう。


 学ラン姿の航太へ声をかける。


「よう、航太! 見たぞ~ お前、モテるんだなぁ」


 動揺を隠すため、わざと年上の男を気取り、からかう。

 すると航太は顔を真っ赤にして、怒り始める。


「なっ! おっさん、見てたのかよ!?」

「ああ、コンビニで買い物してたら、二人が仲良く歩いてたからさ。可愛い子じゃないか?」


 と肩をすくめてみる。

 俺にからかわれて、航太はかなり苛立っているようだ。

 小さな肩を震わせて、俺を睨みつける。


「お、おっさんて……」

「へ?」

「おっさんは、あんなペチャパイの女子中学生が可愛いのかよっ!?」


 俺は耳を疑った。

 

「は?」

「見損なったぜ! このクソロリコン!」

「……」


 なんか色々と誤解されてしまった。

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