演技の仮面を通り越して役柄の人格まで生み出してしまう憑依型俳優の竜胆と、始末屋の睡蓮。タイトルでもある『あなたに訪れない涅槃』(これがまたおしゃれで格好いい!!)は、作中で竜胆が主演を務めることになる映画の原作小説の名前で、竜胆は始末屋の主人公の役作りをするため、新人始末屋のふりをして睡蓮に近づいていきます。殺人の仕事をこなしていく過程で出来上がっていく、師弟のようなバディのような絶妙な距離感がたまりませんでした。
睡蓮は本職として、竜胆は役作りのため、ふたりして殺人という物騒なことをしているので、当然ながらほぼ全編にわたって不穏でひりつく空気が漂っていますし、他人の生死を見つめる過程で、竜胆は自分の本性を、睡蓮は自分の過去を見つめ直すことになります。役作りに関して狂気的というかぶっとんだところのある竜胆は、当然のように色々と思い切った刺激的な行動を選ぶので、最初から最後まで目が離せず、夢中になって読み耽りました。
表の世界が本拠地のはずの竜胆にはどこか危ういところがある一方で、裏の世界に生きている睡蓮は、竜胆と比べると真っ当で茶目っ気のある常識人に思えます。だんだんとお互いのことを知っていく過程はもちろんのこと、最後に彼らが選んだ道がまた最高で、ほんのり寂しいけれど爽やかな読後感に浸ったっきり、私はいまだに何も手につきません。睡蓮を見るたび、または竜胆の花を見るたびに、この作品を思い出すことでしょう。あまりに好みなお話だったので、この感情をどこにやればいいのか分からないまま、カクヨムで初めてのレビューを書いています。
おいしい関係性と殺伐とした空気を求め、煩悩に任せて作品ページを開きましたが、読み終わってみれば私の心はひたすら満足感で凪いでいます。涅槃に至る道はここにあったのかもしれません。素敵な作品を生み出してくださってありがとうございました。
ブロマンスがお好きな方もそうでない方も、ぜひ読んでみてください!