僕と君の学校祭-1

新入生の勧誘、入部を終え無事に部活動として活動できる人数に達した僕たち南高校図書局は気が早いが学校祭の準備に取り掛かっていた。


この県立南高校の学校祭は毎年6月29,30日の2日間で行われる。

皆さんこの情報に異変を感じるだろうか。普通の学校祭は9月に行われるがこの県立南高校の学校祭は6月に行われるのだ。(ごく少数の学校では5月に行われるところもあるらしいが。)


そうして図書局は毎年学校祭のときに展示発表をするのだ。

去年行った図書研究会みたいなものだ。

一人ひとりが大きいポスター一枚になるべく図書室にある本を使った内容をまとめ、見て貰うのだ。


だが僕にはもう一つやらなければいけない仕事がある。それはもちろんクラスでの催し物だ。

なんだかクラスの所謂陽キャ軍団により「メイドカフェ」なんかをやるらしい。

カフェはいい。でもメイドって…

「もちろん男子にもメイド服着てもらうからね。」


そんな容赦もない返答が僕に返ってきた。

れいのメイド服だって〜見てみたいな〜」

愛菜がニヤニヤしながらこちらの顔を覗き込んでくる。

「はぁ〜」

僕は大きいため息を付いた。

流石に無理だ。なんか陽キャ軍団はどんなメイド服を買うのか調べているらしいが…

なんとかして裏方に回らなければ。

カフェとなれば絶対にドリンクなどをつくる人は必要なはずだ。だから全力で調理担当になれるように頑張った。

必死の思いが通じたのか、僕は晴れて?裏方の調理担当になることが出来た。


「良かった〜」

担当決めの後の休憩時間。僕は安堵のため息を付いた。

「黎〜やればよかっただろ。」

「いやいや。流石に無理だって。」

「黎なら色白だし似合うと思うんだけどな〜」

「色白はもう悪口じゃない?」

「いやいいよ。こいつになにを言っても仕方がないから。まあ頑張って手に入れた調理担当なんだし、しっかりやりますか。」


といったふうに周りの男子が寄ってきた。

そりゃあ僕だって完璧に一人な訳では無い。しっかりと話をする程度の友だちはいる。


「黎のメイド服姿見たかったな〜」

そんな中君は残念そうな目でこちらを見てきた。

残念そうと言っても目がキラキラしているし、悪そうにニヤニヤしている…

早く図書室へ行こう。


そんなクラスの喧騒から抜け出して図書室に来るともう先客がいた。

「樋口さん早いね」

「あっ日々野先輩こんにちは。」

『先輩』この響きも中3依頼で懐かしい響きだ。

「樋口さんは学祭で何を発表するの?」

「私は絵本についてのポスターを作ろうかなって思ってて、絵本って小学生とか幼稚園とか、子供が読む本っていうイメージが強いじゃないですか。でも意外と高校生になった今読んでも面白い絵本はたくさんあるんですよ。」

「確かに。ここにも何冊か絵本あるしね。 まあどれも名作だよ。」

「100万回生きた猫とか大きな木とか…考えさせられますよね。」

今でも読まれている本は僕たちに大切なことをたくさん教えてくれる。

「絵本って本当に言葉が少なくて簡単なのにとても楽しく読めるんですよね。文章と絵がしっかりと調和していて、きれいなんですよね。」

そう樋口さんは言いながらたくさんの絵本を持って来て読み出した。

樋口さんの集中力はものすごい。ここから話しかけるんなんていう野暮なことはしないように僕は書架の方へ静かに移った。


僕は今度は新聞と小説についてのポスターを作っている。

ここ最近の新聞のコラムに出てくる小説をまとめたり、どのようにして引用されていて、どんな効果があるのかを研究してみている。

例えば、話題提示する人物が作家だったりしたら、当たり前にそのまま引用されているが、なにかの景色とかに対しての導入に対する引用などはだいぶマイナーなものが多い。俳句や、短歌などの情景はわかりやすく引用されているが、小説はそれが難しいらしい。文の有名な一部分や、会話文が主に引用されている。


そんなことを考えながら、静かな図書室での安心感を味わっていた。


「み〜つけた♡ 黎が逃げる場所はもうわかりますよ〜だ。」

なにかと思ってびっくりして振り向いたら愛菜がいた。

「クラスのみんながクラTの背ネームどうするの?だって」

クラTとはクラスのみんなで特注するTシャツのことで、一人ひとり背中に7文字までのメッセージみたいなのと、背番号を決めれる。

「私は『203の太陽』にしたよ。背番号は6番。 バスケ部のが6番だからね。黎はどうするの?」

「どうしよう。全く考えてなかった… 背番号は01でいいんだけど…」

「あ!黎だから01《れい》か〜いいんじゃない?」

「背ネームな〜どうしよう。なんかいいのある?」

「図書館の番人とか?あっ 本の神様とかどう?こないだたくさんその話をしてたじゃん。」

「あれは黒歴史だ…」

「告白してきたんだからある意味は青春の時間でもあるでしょ。」

「まあ、たしかにいいかもしれないね。」

「じゃあ教室の紙に書いてくるよ。『01 本の神様』って。善は急げ!」

そう言うと君はこちらを見向きもせずに走って図書室を出ていった。


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