本の神様〜裏表紙

「あのさ。だいぶ急な質問なんだけど、本の神様って知っている?」

「本の神様?」

「そう。すべての本に宿っているんだけど、気づいている人が少ない、僕たちを助けてくれる神様。」

「………」

「変な話だと思うでしょ。」

「私…知ってるよ。たくさん読んだ本当に好きな本が私が助けて!っていうくらいのピンチのときになったら助けてくれる本の神様。」

「そうだよ。それが本の神様。やっぱり知ってる!今まで沢山の人に話してきたんだけど誰も知らないし、知ろうともしてくれなかったんだ。」

「そうなんだ。 でも私はわかるよ。部活でこの足をやっちゃったとき、もうだめだって思ったとき、先輩が本を読みなって言ってくれたんだ。そして私は本の神様?に助けられたんだ。たぶんそういうことだよね。」

「そう。良かった〜話して。変な人だって思われて避けられたらどうしようって思ってた。 でももう2ヶ月経つから話してもいいかなって。」

「私で良かったね。 ということは、私が初めて黎の話を理解できた人ってこと?」

「そうだね。」

「フフン」

何やら君は嬉しそうに胸を張った。

「夕日きれいだね。なんか初めて一緒に帰った日みたい。」

「あのときはまだ雪があったからね。」

おっと忘れていた。今はあの新入生の入部が決まってから特に何もなく過ごした1週間後の放課後、下校中のことだ。今日の夕日はとても色が濃く、綺麗だった。

「ねえ、黎。私、あなたのことが好きみたい。」

急にそんなことを言い出した。

「えっ」

こんなタイミングで告白されるとは思っていなかった僕は戸惑った。

「なんか、初めて会ったときからなんか気になってたんだよね。 静かな図書室で淋しげに、でも楽しそうにしている黎がいてなんかわかんないけどこの人となら今の自分でも楽しく話せるってなんかわかんないけどそう感じたの。」

「実は僕も、本の神様をこの子は知ってそうだなって初めて声をかけられたときにそう思ったんだ。」

「ねえ」

「いや。ここは僕から言わせて。」

僕は君が話しているところを遮って。そして、ポケットの中に入っている本を触ってから言った。

「桜川さん。いや、好きです。僕と付き合ってください。」

「はい。」

電車の中だし、特にこれと言ったロマンチックな雰囲気があるわけでも、このシチュエーションを考えていたわけでもない。でも言えた。

「これからもよろしくお願いします。」

僕たちはなんだかおかしくなって笑った。でも電車の中だから静かに。

真っ赤な夕日のせいもあるだろうけど、君の頬は真っ赤に染まっていた。

多分僕は顔中真っ赤だったかもしれない。こんなタイミングで、こんな勢いで言うものではないと分かっていた。でも言ってしまったものは取り返しがつかない。今過ごしている時間もすでに過去なのだから。でもそれも全て夕日のせい。本のせい。別に悪いことではない。ならばいい。


今も本の神様が僕を自然に導いてくれた。別にピンチのときでなくても、本の神様は僕の、僕たちのそばに常にいる。気づいていないだけで、心の支えになってくれている。


「本の神様を知っていてくれてありがとう。」

電車を降りて僕はそういった。

「私に会わなきゃ今頃まだひとりで本を読んでいたでしょ。」

「そうだね。」

「じゃあ彼氏になったんだし、もっと色々なことを教えてよ。」

「えっどんなこと?」

「まずは、いつから私のことが好きになったのか。」

「えっ意外と会ってすぐかな?いや研究会くらいからかな。」

「じゃあ私のほうが黎のこと好き歴長いね。だってあのとき見かけた瞬間からなんか可愛くていじってみたくなったんだもん。」


「じゃあまた明日ね。」

「また明日。」

そう言って僕たちはいつもの道でいつものように別れた。

4月の空は青く澄んでいて、でも真っ赤な夕日に焦がされて赤くなっていた。赤と青がいい感じにグラデーションとなっていた。春だ。青い春だ。と思った。









本の神様。それはすべての人の近くにいる神様。みんな気づいていないだけで、でもきっとそばにいる。僕たちの必要なときにしっかりと心を支えてくれて、そして導いてくれる。


君と出逢えて本当に良かった。

本の神様を知っていて本当に良かった。


ねえ、知ってる?本には神様がいるんだよ。

ねえ、知ってる?

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