僕とあの言葉そして本
「ねえ、何の本を読んでるの?」
そう君が話しかけてくれたとき僕はふと懐かしい人の言葉を思い出した。
僕が小学校の頃。
一人で出歩けるようになって、近くの光野図書館へよく行っていたあの頃。
一番の親友が急に引っ越してしまった頃。
それにその時、運が悪く風邪を引いていて「またあそぼう」も言えなかった頃。
風邪が治ってから親友がいないのに気づいて雨の中一人でお母さんに止められながらも図書館に行った頃。
悔しくて…悔しくて。でも悲しい別れなんかカッコ悪いぞなんて自分勝手に思って泣かなかったあの頃。
あの人は僕にこう話しかけてくれた。
『ねえ、知ってる?本には神様がいるんだよ。
古い本にはもちろん。新しい本にも、出版された本や出版されていない本、完成されていても完成されていなくても。
どんな本にもその本を書いた人の想いが籠もってる。本のジャンルもなんだって、誰が書いたかなんても関係ない。
本には…物語には神様がいる。
たくさんの暖かい想いが…宿ってる。』
何を突拍子のないことを言っているんだ。このお姉さんは。そう僕は思った、
すると
『ねえ、知ってる? 本は読まれれば読まれるほど強くなるんだよ。
読まれてない新しい本の力が弱いってわけでもない。
その作者、その本を読む人、贈る人の想いでもまた神様の力が大きくなるの。
私はね本の神様が見えるんだ。嘘じゃないよ。
そしてね、たくさん大事にされてきた本はねその本の持ち主がピンチのときに助けてくれるんだ。いつかはわからないけどその本の神様がパァって出てきて私達に力をくれるんだ。』
だから何だ。 と僕は心のなかで言った。別に声にだしていない。
『だからね。別に本のせいにして泣いてもいいんだよ。
悔しかったんだよね。だったら泣いていいの。もし本当にそれがカッコ悪いって思うなら本のせいにしちゃえばいいの。』
でも、あいつとは最低でも3年は会えないんだよ。僕はサヨナラも言えなかった。またあそぼう も言えなかった。
『そんなに自分を責めなくていいんだよ。別に一生会えないわけではないでしょ。ね。
じゃあこうしよっか。
君は好きな本があるでしょ。
じゃあ好きな本を読んで、思いっきり泣いて、そしてその引っ越しちゃった子にまた会おうねって笑って話せるような気分になっちゃえばいいんだよ。そうすればまたいつかその友達に会ったときに楽しい気持ちで会えるでしょ。
君が今持っている本。その本は大事にされたんだね。
その本はきっと君を助けてくれる。だから信じて。本の神様を信じで身を委ねていいんだよ。』
そんな事を言ってあのお姉さんはどこかへ歩いていった。
それから僕はたくさん本を読んだ。そしていっぱい泣いた。そのおかげで、中学生になった3年後、僕はあいつと笑って再開できた。
友達が引っ越して会えなくなる。それは今となってはそこまで深刻なことではない。
でも、小学生の頃は3年と言ったらそれはもうすごく長い時間だと感じていた。
あの頃は10歳。3652日間生き終わっていた。
今はまだ16歳。5844日間生きた。
つまりあの頃の感覚で行けば、そのまま3年間過ごすと3652分の1095
今の感覚でそのまま行けば5844分の1095
確かに全然時間の感覚が違う、そう思えば、たったの3年だから我慢しなさい。等と言わないで、泣いていいんだよと言ってくれたあのお姉さんはとても僕の気持ちを分かってくれていたのだと思う。
そしてその時、本の神様というのを知った。
それはすべての本にいるとても強い、優しい神様なんだと。
僕はその神様に何度も助けられた。
はじめはこのとき、そしてペットが死んだとき、大好きだった先輩が卒業してしまうとき、そして、この高校を受験しようと決めて、でも勉強が苦しくて、それでも頑張りたくて挫けそうになっていたとき、
何度もたくさんの本の神様が僕を助けてくれた。どんな困難があったとしても勇気があれば乗り越えられると。仲間と一緒なら大丈夫だと。この世のことは大抵なんとかなるものだと。
そして、夜明け前が一番暗いと。
そのような色々な言葉を胸に僕はこの世界をたったの16年だが必死に生きてきた。
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そんな懐かしい言葉を君はなぜか思い起こさせた。それは君があのお姉さんに似ていたからでも、同じような独りの状況だったからでもない。
君が僕と同じで、本の神様を知っているとなんでか知らないけど感じてしまったからだ。
そう。君は本の神様を知っていた。この現代社会で、本の神様を知っている人は全くいない。
でも、君は知っていた。本は僕たちを助けてくれると…
「ねえ、何の本を読んでるの?」
そう僕に話しけけてきた人は片手で数えられるほどしかいない。
(ここで断っておくが10進数で数えた場合の数である。決して2進数などではない。)
そんな珍しい人の中で君は確かに本の神様を知っていた…
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