新入生と本

 春休み明け最初の登校日、そしてクラス発表だ。僕は図書局員だから文系…というわけではなく普通?に理系に進んだ。そしてクラスは3組、このクラスは化学、物理、地理選択の人がいる。

「み〜つけた♡」

「桜川さんどうしたの?」

「どうしたのも何も同じクラスだよ。よろしくね♡」

よくわからないがニヤニヤ笑っている。

「よ、よろしく。」

「席は・・・あっ隣だ!やった!」

僕はあまり周りにだけがいるとか気にするタイプじゃないので自分の席以外は見ていなかったが、たしかに隣だ。出席番号15番と26番、見事に「く」と「さ」のため隣だ。

「たくさん教えてね♡」

「隣に話せる人がいるのは嬉しいが2年生はだいぶ大変になりそうだ。」 



4月。1年生が入学してきた。そして待ち受けているのは、そう部活の勧誘だ。

体育会系、文化系を問わずすべての部活、局、同窓会、新入生を取り合う。朝登校してくる新入生を狙うので朝の玄関前は戦場になる。あちらこちらから勧誘の声が聞こえ、さらに大量のチラシが持たされる。そして知らない先輩から声をかけれられる…

 そんな中僕はそんな喧騒の中に自分から進んでは入ろうとは思わない体質なので、そんな風景を横目に普通に登校した。

「ねえ、図書局は勧誘しなくて大丈夫なの?」

「僕ああいうところは苦手だし、それに何人かは図書局に入る人もいるでしょ。」

「そんなことじゃ誰も入ってくれないよ。」

「まあ手は打ってあるから。」

「何をしたの?」

「それは放課後のお楽しみってことで。」

「気になる〜〜〜」



そして放課後、図書室はいっぱい…とまでは行かないというか全然だが、3人入部希望として来てくれた。

「良かったじゃん。 それで何をしていたの?」

「じゃ〜ん、勧誘プリントを作って1年生に配布しておきました!」

「あれ?他の部活も同じようなことしていない?」

「でもこないだの研究会の様子とかの写真をしっかり貼ったりして興味を持ってもらえるようにしたよ。 もちろん兼部可能ですって。」

「へぇ〜」

「それよりバスケ部の方は行かなくて大丈夫なの?」

「あっちは先輩方がやってくれてるから大丈夫。まあ復帰まであと3ヶ月か…長いのやら短のやら。まあ復帰しても図書局員として来るつもりだよ。 そんなことより、新入生の話を聞かなきゃ。」

「そうだね。 じゃあ一人ずつ自己紹介をお願いしていい?」

「はい。じゃあ僕から。 1年2組の夏目祐一です。前から南校の図書局に入ろうと思って来ました。」

「私は1年7組の井上琴葉です。よろしくお願いします。」

「私は1年5組の樋口奈津です。よろしくお願いします。」

「樋口さん、樋口一葉の本名と同じ名前だね。」

「そうなんです。初対面で気づいてくれた人初めてです。ありがとうございます。」

なんか最近明治時代の名前が流行っているのかな?そう考えながら林太郎のことを思い出していた。

「あら、今年は3人ね。良かったわね〜廃局にならなくて。」

サラッと縁起でもないことを言いながら雨宮先生がやってきた。

「こんにちは。私はここで学校司書と図書局の顧問をしています。雨宮英恵はなえです。いよろしくね。」

雨宮さんの名前が英恵だったということをここで初めて知った気がする…

「じゃあ、まずこの図書局の年間活動計画…委員会みたいだけど一応部活だから強制ではないよ。をまあ決めていきます。」

『 6月 学校祭でのポスター発表

  7月 できたら読書感想文コンクールに団体で提出

  8月 図書研究会

  11月 できたら読書感想文コンクールに団体で提出(2回目)

  2月 図書研究会

  3月 蔵書点検                            』

と言う感じで去年と同じだ。しかし今回は人数が増えたから研究会が盛り上がりそうだ。

「じゃあ、3人共入部ということでいいね。」

「はい!」

「じゃあ改めまして。2年3組の日下部黎です。去年から局長をやっています。」

「同じく2年3組の桜川愛菜です!女バスと兼部してます。」

「3年生は悲しいことに一人もいませんので、この5人で新しく活動していきましょう!」

ということで局員が5人に増えた新生南校図書局が誕生?した。



「良かったね。後輩が入ってきてくれて。」

「確信はなかったけど、しっかり入ってきてくれてよかった〜」

「放課後一人もいなかったら絶望してたよね。 それに話し合いそうな子来てくれてよかったね。」

「うん。」

実は帰る前に夏目くんがやってきて…気づいていなかったが同じ中学校光野北中で後輩だったらしいなんか全校総会で僕が図書委員長として話しているのを見て憧れたらしい。でもなんか多数決で負けて図書委員にはなれなかったらしいが。

なんやかんやで夏目くんは夏目漱石の作品の中でも王道ではない夢十夜が一番好きだと語ってきた。夏目漱石の夢十夜は十個の短編が書かれたもので、どれも夢についての物語だ。僕はあまり明治時代の文豪たちの本は読まないのでいい刺激になった。お返しに僕は19世紀のSF小説を語った。やはりジュール・ヴェルヌが一番面白いと思う。いい後輩ができたと思う。

女子組は女子組で何やらファンタジーや恋愛ものの話をしていた。井上さんはハリーポッターやモモなどの王道のファンタジーが好きらしく、なにやら色々なハリーポッターグッツを身に着けているようだ。そして樋口さんはイメージ通りにたけくらべなど、樋口一葉の小説などが好きらしい。1度は読んでおいたほうがいいのだろうけど僕はどうしても読む気になれない。文語体はやっぱり疲れる。宮沢賢治位が簡単でわかりやすくちょうどいいと思う。銀河鉄道の夜に空白があるのがもったいないと思う。でもそれも作品の一つの演出だろうと思いながら読んでいる。

まあSFがいや、最近の作家の本のほうが絶対読みやすい。…と思うけどこんなことを口に出したら何をされるか知ったもんじゃない。でも君は普通の…と言ったら失礼かもしれないけど、現代の作家の恋愛者が好きらしい。でも恋愛ものは恋愛もので今も昔もあまり変わらないのらしい。…本当にそうか?と思うがあえて言わないでおく。

「じゃあまた明日。」

「またね。バイバイ」

とこういったふうに波乱万丈となる予定だった新入生の入部は特に何事もなく幕を下ろした。

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