君との本
僕と図書研究会
それから3日間僕は同じようにジュール・ヴェルヌの本を読み続けていた。
どれも図書研究会のためだ。
高校生図書研究会は8月と2月の年に2回開催される。この近辺の僕ら南高校はもちろん、北高校、中央高校、西高校、東高校、光野高校などの公立高校の図書局が開催している。前回は3年の先輩が居たから発表はしなかったが、今回はたったの一人なので、しっかりと南高校の代表として発表しないといけない。
研究会は発表(7分間)→質疑応答(3分間)をその学校1校ずつ行い、最後に心いくまで討論するというシンプルながら、1日中かかるイベントだ。毎回だいぶ個性的な発表をするところが多いらしく、聞くこちら側もある程度の知識がないと理解することが出来ない。それに古文を時々出してくるところもあるので、言語文化も出来なければいけない。僕は理系なので(本をずっと読んでいるからよく文系だと間違えられる。)苦手ではないがあまり得意でない。この研究会は楽しいが研究会のために勉強しないといけないことがたくさんある。しかも今回の開催会場はこの南高校。なんか東西南北で会場を交代しながら行っているらしく、運がいいのか悪いのかわからないが(といっても2年半だから5回行われるからどの位置一周はする)とにかく大変になりそうだ。
「まぁ日比野くんなら大丈夫だと思いますよ。研究会って言ってもそんなに堅苦しいものではないから。みんな最後の討論の時はお菓子を持ってきてわいわい…といっても所詮は図書局の静かな子達だからね。まあ楽しそうにやっているわよ。」
「でも一人なんですよ。」
「ねえ私も行ってもいい?なんか楽しそう。」
「でも… 雨宮さんだめですよね…」
「あら、いいんじゃない? せっかくだから桜川さんも入部したら? 桜川さんはバスケ部以外入っていないでしょ。この学校3部まで兼部できるから。」
「そうします!」
「じゃあ私から山崎先生にお願いしておくね。」
山崎先生というのは女バスの顧問だ。まだ27歳と若く、優しくて人気のある女性の先生だ。ちなみに担当の教科は生物だ。
君はとてもはしゃいで喜んでいた。
「これからよろしくね
僕は部員が増えて嬉しいのだが、なんか疲れてきた。
そして研究会の前の土曜日、僕たちは図書室で研究会の準備をしていた。研究会の会場は、図書室の読書スペースの机を避けて、広い空間を作り、机をくっつけて人数分(今回は全部で5校が参加し、25人が集まる。やっぱり各学校に5人くらいと少ない。)また発表用のスクリーンを出したり…としていたら大事なお菓子とお茶という存在を忘れていた。ということで僕たち二人はお菓子の買い出しに行かされている。
「南校って制服ないからなんかデートみたいだね。」
「スーパーでデートってあり得るか?」
そんな君の軽口に答えながらお菓子を買っていく。25人もいるので結構な量になる。一人の参加費は200円、あと顧問の先生方の分もついでに買っていかなければならないので生徒の分で5000円、先生方の分で1000円。しっかりと使い切らなければいけない。そこで個包装の大きめのチョコやクッキー、ラムネ、グミ。あとは定番のポテトチップスなどをなんとか税込み、切り上げで5000円分買った。残りの1000円はお茶代だ。悠長にコーヒーや紅茶などを入れている暇はないと思うので、全てティーパックとインスタントにした。実は僕は大の紅茶好きで、紅茶はしっかりと100度の熱湯で2〜3分蒸らしたり…というふうにじっくりしっかりといれていくのが好きだがまあしょうがない。そして机に5000円分のお菓子をズラッと並べるとその景色は壮大なものだった。
「はわわわわ こんなにたくさんお菓子夢見たい。」
君はとても目を輝かせていた。確かにこれだけ大量のお菓子を見る機会はあまりないかもしれない。前回はとても緊張していて周りをよく見れていなかったし、先輩にずっとついて行っただけだった。
ついに本番の時が来た。次々と他の高校から参加する図書局員が集まり、図書室は僕が今までに見た中で一番(説明のときの方がいたかもしれない。)混んでいた。
「皆さんお集まりいただいてありがとうございます。南高校1年の日比野黎です。今日はよろしくお願いします。」
なんと僕が司会をやることになっていた。もちろん開催校だからあたり待っちゃあ当たり前だけど、僕はめったに人前で話したことがない。10人以上の人に対して話すのは小学校の委員会… いや中学校の図書委員長としての生徒総会以来かもしれない。
「よろしくお願いします!」
「それではまず北高の皆さんお願いします。」
「はい、皆さんこんにちは北高校2年の
といったようにそれぞれの発表が始まった。
北高校は絵本に対しての研究発表だった。 なるほど、僕は最近あまり絵本を読んでいないから、意外と新鮮で面白いかもしれない。隣の君はなんだか懐かしいような目で集中して話を聞いていた。
「と、このように絵本は子どもたちはもちろん、大人まで楽しめるような工夫がたくさんありました。以上で北高校の発表を終わります。」
「北高校の皆さんありがとうございました。 それでは質疑応答の時間にしたいと思います。」・・・
そしてお待ちかね、討論会だ。
「日下部くんだっけ? 僕は北高1年の森林太郎です。よろしく。」
「よ、よろしくお願いします。」
「そんなに固くならなくていいよ。 同い年なんだし。」
「そうだね。ありがとう。 名前、森鷗外の本名と同じだね。」
「そうなんだよ。気づいてくれた? なんか親は知らなかったらしくてね。まあ二人とも日本文学はあまり知らないし。 それより、ジュール・ヴェルヌの発表面白かったよ。」
「ありがとう。」
「確かに、SF小説だとしても昔の人たちの考え方って斬新だよね。 まさか大砲で付きに行こうとするなんてね。」
「だよね。なんか今は出来ないようなユニークな発想が多くて。なんか今は当たり前となっている常識により縛られないと言うか、なんか絶対に実現できないのに現実味があるというか…」
「H・G・ウェルズとかもそうだよね、タイムマシンとか透明人間とか…何か妙に本当に昔あったんじゃないかって思わされるよね。」
「書かれたのが昔だからこそ、できる芸当だよね。」
僕はこんなふうに話せる友達が出来てとても嬉しかった。
「なんか黎楽しそう。」
「そりゃそうよ。あの子ずっと一人で居たんだから。」
「あんなにはしゃいでかわいい。」
「なんか青春だわね。」
雨谷さんと君がこんな分に話しているのを僕は知る余地もなかった。
「はあ。やっと終わったね。」
解散したのは始めてから7時間後の6時だ。本のことに夢中になって興奮していたのは僕だけではなかったらしい。
「でも楽しかったね。」
「うん。林太郎くんと仲良くなれたし、『こんど一緒に本についてサシで語り合おう』 だってさ。」
「私もだいぶ楽しめたよ。
栞ちゃんという子は東高校の同じく1年生の子だ。
「また研究会したいね。」
「8月にまたあるよ。」
「今度は私も発表したいな〜」
「いいんじゃない?もう図書局員だし。」
「よし。 今からテーマ考えるぞ!」
「それは気が早いよ。」
「ふふっ。」
久々に図書室が笑いに包まれた。
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