僕と本

「ねえ、今日一緒に帰ろ」

「別にいいけど…」

「あれ?れいって帰りどうやって帰るの?」

「下り方面の電車だよ」

「やった!じゃあ同じ方面だ。昨日は先生に呼び出されてたから話せなかったし…。」

放課後、図書室に着くと昨日と同じ席に座っていた君はこう話しかけてきた。というかいきなり黎って呼び捨てで。やはりこれは現実ではないのでは…

そうしてそこからは昨日と同じように静かな時が流れた。

「よし、じゃあ帰ろ。」

6時頃、僕と君は帰路についた。初めて(あったのは昨日だけど)一緒に歩くと君はとても華奢でほっそりとしていた。一応僕は173cm(クラスの中で平均よりすこぉし高い)なので君の頭は僕の顎くらいだった。2月なのでまだ太陽が出ている時間は短く、もう夕日が水平線の彼方にある。

「よかった〜一緒に帰れる人が居て。私、バスケ部なんだけど怪我して最近行ってなくて…バスケ部の友達以外に一緒に帰れる人居なくてさ。黎ってなに中?私光野中。」

「僕は光野北中。」

「あっ、じゃあちょうどお隣さんだ。私前練習試合で行ったことあるよ。」

「そうなんだ。」

「北中って周りが開けているから午後の練習試合帰りに見える夕日がすごく綺麗だったよね。 もちろん見たことあるよね?」

「うん。ちょうど図書室から夕日が見えて居たな…」

「あはっ、黎はやっぱり図書室なんだね。」

「放課後はずっと図書室に居たよ。 周りに誰も居なかったけど…」

「今は私がいるよ。」

そう君は意地悪そうに笑った。

「北中ってことは…どこで降りるの?」

「光野中央駅だよ。家がだいぶ南側にあって。」

「じゃあ同じだね。」

そう笑う君は夕日に照らされて輝いていた。

「じゃあまた明日ね。 バイバイ」

君は分かれ道(駅の前)で手を振ってくれた。こうやって他の人に手を振ってもらったのは高校に入学してから一度もなかったのでなんだか嬉しかった。



「おはよう。奇遇だねぇ。」

朝、駅につくと同じ車両に君が居た。

「桜川さんどうしてここにいるの?」

「別に、ただの偶然だよ。」

僕が乗っている電車は混むことを避けるために早めの7時発車の電車に乗っている。学校へは約40分くらい電車に揺られていく。8時半までに着けばいいけど、人混みは苦手なので少し大変だけどこの電車に乗っている。でも君は今までに見たことがないはずだ。少なくともここ最近は見ていない。

「どうしたの?そんなに驚いた顔して。」

「いや、別に。」

「今日も一日頑張ろう!」

君はなんか楽しそうだ。僕はまるでからかわれている。



そして放課後、僕は今日から地域の高校の図書委員会が開催する<高校生図書研究会>で発表するプレゼンテーションの準備をしている。僕はだいぶ古いが、あの有名なジュール・ヴェルヌの本と時代の関連性についてまとめて発表しようと思う。

 学校には海底二万里、二年間の休暇(十五少年漂流記)、神秘の島、地底旅行などの有名作品はもちろん、月世界へ行くや八十日間世界一周等といったマイナーな本もあった。僕はどの本を読んでいても本当の歴史的背景や、考え方が含まれていると思った。そのために今日から約2週間ほどかけて、スライドを作成していく。

 今は何でもオンラインだスライドだなんだかんだと言って端末で作業させられる。別に僕は嫌いではない。どちらかと言うと電子機器の扱いはこう見えても得意な方で、プログラミングなども得意分野の一つだ。

「わぁ、どうしたのこの大量の本。」

僕が来た少しあとに君が入ってきた。

「本の研究会で使うんだ。」

「えっこの量を… 手伝おうか?」

「ありがとう。でも、まあそんなにないし、一応全部自分で読んでおいた方がいいから。これからまあ3,4日くらいぶっ通しかな。」

「………」

「えっ、変かな?」

「そりゃ誰も話しかけないわよ。」

「日比野くんは特別というかだいぶ変わってるわよ。」

司書の雨谷さんにも言われてしまった。

司書の雨宮琴音さんは南高校の学校司書として、そして(こっちが本命なのだが)授業の実験のアシスタントの先生でもある。

「そうやってやっと出来た友達を引かせてはだめよ。また一人ぼっちになっちゃう。」

「えっ…」

「ようやく気づいたの?先輩たちもドン引きしてたわよ。『日比野は本を読むのが早すぎる』って。 しかも流し読みかと思ったらしっかりと名用を把握しているのだから… 本当にすごいわよね。」

僕は今重要な事実に気づいてしまったのかもしれない。

「ま、まぁ頑張って。私にはまだ手伝える段階じゃないかも…」

「うん、ありがとう?」

その後久々にすごく集中をし(ほぼヤケクソだ)、一気に2時間で3冊を読んだ。

どれも素晴らしいSF小説だった。時代はアメリカの独立運動としっかり重なっており、今はない考え方で…

おっと、また誰かに引かれてしまう。



「流石にあの量は… 本好きな私でも無理よ。」

「一回ハリーポッター一気読みを中学の時やってみんなにドン引かれたな…」

昨日と同じ帰り道、僕は君に説教?をされた。

「だいたい。あの量の本を、何冊あった?10冊くらい?一気に読むなんてホント無理。」

「いや、あの打の何冊かは解説を読むためであって、しっかり読むわけじゃないよ。」

「解説?なにそれ? 私読んだことないかも。」

「たまに本の最後の方に載っている、有名な人?とかのその本に対する意見や、見解が載っているところだよ。古い昔の本の場合は訳者が書いていることが多くて、あまり表に出ていなこととかに触れられていて面白いよ。」

「ネットととかを使ったほうが速いんじゃないの。」

「いやwikiとかは信憑性が薄いし、それにネットだと見つけにくいからね。それに本のほうが読みやすいし…」

「それは黎だけじゃないかしら。」

「そうかな。でも同じことを思ってくれる人がどっかに居たらいいな。」

「まあでもその気持ち少しわかるかも。なんか聞いてからだけど電子書籍って扱いにくくない?」

「わかってくれる? なんか画面が光っているのは少し読みづらいし、本って途中で読み返したいときとかあるよね。その時に電子書籍だったら戻るのが大変だし…」

「確かに言われてみればそうかもね。」

「最近紙の本がだんだん減ってきている感じがするし、でもやっぱり一番の理由は本の質感かな。触り心地とか、匂いとか。本は中に書いてあることだけじゃないもん。」

「私も図書室の本の匂い好きだな〜」

「あの匂いの良さがわからないと人生もったいないと思うよ。だってなんか本の匂いって時間とともに変化するんだ。買ったばかりの本は、新しい本は少し表紙の匂いが付いているし、本棚にずっとある本は樹みたいな匂いがするし…まあ埃の匂いとかもあるけどね。」

「なんか今日はよく喋るね。なんか楽しそう。」

「そうかな。だって本の研究会だよ!きっと色々な考えの人がいるんだろうな。」

「北中の元女バスの友だちに聞いてみたんだけど『日比野くんはずっと本を読んでるし、あまり話さない地味っちゃあ地味な人だったよ』とか言われたけど全然そんなことないね。」

「まあ中学の時は本のことで話せる人がいなかったからね。」

「じゃあ私が初めての一人?」

「そう…なるね。」

そういうと君はなんだか少し顔を赤くしたように見えた。夕焼けのせいなのか、それとも…

「あっ」

ちょうど駅についてしまった。

「じゃあバイバイ。また明日。」

「バイバイ。」

僕も今日は小さく手を振った。 僕の中で何かが変わった一日だった。

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