君との出会いと僕

「ねえ、なんの本を読んでるの?」

唐突に話しかけられて僕は驚いた。

ここは県立南高等学校の図書室。

入学してから一回も図書室では話しかけられなかった僕が話しかけられたこの瞬間。

もう冬休みも終わった1月。

「ねえ、なんの本を読んでるの?」

君はいきなり話しかけてきた。

「ミヒャエル・エンデのはてしない物語…」

「面白いよね〜物語の設定からもう面白いし。」

「そうなんだよ。バスチアンみたいにこの本を読んでたら本の世界に入れるかなって。ありえないけどね。自分がもし、物語の中に入れたら…って考えるのが楽しいよね。」

本を聞いてもらったことが嬉しくつい熱弁してしまった。

「あっ ごめん 言ってもわからないよね。」

「そんなことないよ。私もこの本好きだな〜」

暖かい陽の光が少し肌寒いこの図書室に差した。

「私は3組の桜川愛菜さくらかわあいな。よろしく。」

「あっ僕は8組の日下部黎くさかべれい。よ、よろしく。」


これが僕、日下部黎が君と出会った瞬間だ。



 僕は何でもないただの本好きの高校生。そして部員一人でこの南校の図書局をやっている。こないだまで3年の先輩が4人居たけど、引退してしまい今は特にやることもなくいつも通り独り(ここはあえて「独り」だ)でまた本を読んでいる。

 図書局では本に対しての研究や討論会などをしているが、他にあまり目立ったことはしていない。この学校には図書委員会などというものはなく2人の司書の先生が貸出などの業務をやってくれているので、僕は仕事がない。と言ってもこの図書室を利用する人は個々最近見かけていない。時々嫌そうにレポートのために新書を借りに来る人がいるくらいだ。

 僕は別に人付き合いが苦手な訳では無い。いじめられているわけでもない。国語が苦手なわけでもない。ただ本が好きだから…そんな理由で今日も本を開く。

僕はお母さんに小さい頃から本を読み聞かせされていて、次第に本が好きになった。

だから1日中のほぼすべてを読書に費やすこともあった。


 もちろん小学校の時は友達と中休みや昼休み、一緒に遊んだしゲームもした。でもゲームはいつかは飽きるし中学生頃になるとみんなめんどくさくなって昼休みに遊びに行くことが少なくなった。中学生の頃みんなは廊下に出でたくさん喋ってる。別に話の輪に入れないわけでも、入れてもらえないわけでもないけど、僕はよほどなことがない限り自分から輪の中には入っていかず、本を読んでた。

「本をたくさん読むのは偉いね。」

「どうやったらそんなに本を読めるの?」

そんなふうに周りの大人達は僕に言う。でも

「好きだから。面白いから。」

ですべてを貫き通してきた。

 好きなものの理由は好きだから。それが一番シンプルでなおかつ明瞭な答えだと思う。

 僕は友だちに恵まれたらしく、誰も僕を変な人呼ばわりしたり、無視したりしないでくれた。でも、本の面白さを共有することができる人はあまり、いや全く居なかった。

 中学校の時も図書委員会をやっていたけど、本のPOPを作ったり、本の紹介をしたりしてそのまま時間が過ぎていった。周りの図書委員はめんどくさいなどと言って次々と変わっていった。

どうやら本好きは珍しいらしい。みんなは

「頭が悪くて長い小説とかは読めないんだ。」

なんて軽口を叩いて遊びに行った。司書の先生は少しは分かってくれたが、やっぱり同じ本について語るのはむりだ。同じくらいの年代じゃないと感情などを共有するのは難しい。いや捉え方が違う。

そう中学生の僕は悟った。


幸い僕はまあまあ頭が良かった。175人の学年で10位以内に入るくらいだったので、図書室に自然と引きよれられてしまったこの高校。南校に入学することができた。南校は県内では1位の進学校だったため、3年の冬はとても頑張った。なんてったってあの3ヶ月は本を読まなかった。そして頭がいい人が集まる学校なら本が好きな人もいるだろう。そう思って期待を胸に入学した。

 でも最近の高校生もあまり本を…紙の本を読まないらしい。みんなスマホで漫画などを読んでる。だから僕はこうして図書室で、誰も居ない図書室で静かに本を読んでいた。






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