三度目の正直(トラックの方から見て)➁

猫…ねこである。ニャーさんだ。

美苗は大の猫好きであった。

思えば美苗にとって「強さ」と「猫のかわいらしさ」はこの世に生まれて

きてから追い求めずにはいられなかった概念である。

猫の魅力をここで語るのはよそう。美苗に猫の素晴らしさを語らせようとしたなら

三日スケジュールを開けておく必要がある。

「ねえ!聞いて!ナコ、ニコ、ヌコ、ネコ、ノコ…凄いよ!

ナ行すべて変えてもかわいいんだ!猫は!みんなどれが好き!?」

先日「ネコとは何ぞや?」とゲシュタルト崩壊を

おこしそうな奇妙な質問を投げかけられた友人たちであったが

「ああ…また始まったよ…けどう~ん」「わたしは論文にできると思う」

「ヌコだね!間違いなし!」「ア行でもいけない?」と

いろいろな答えを返ってきた。

「でっしょー!」

こういう取り止めのない会話はきっと学生時代の思い出…財産となる。

みな分かっていた。


この日大好きな猫を何度も見れた。

ああそれにしても猫のペットがほしい。

でもうちはペット禁止なんだよなあ~~

何でだよ~~はは様の野郎め~~と癖で外でもはは様に

とどかないような小さな声で愚痴を言ったしゅんかんだった。


猫を発見した。道路にいる。


その猫にトラックがすぐそばまで近づいていた。

運転手は気づいていそうもない。ボーとすぐそばの公園で遊んでいる

子供たちを眺めている。


黒い猫だ。

それがどうした。




美苗の足は陸上競技100m競争のスタートダッシュのように

なめらかに、しかし暴力的にアスファルトとを蹴りだし

黒猫のもとを走りさったのでは?と思うほどの速さで

黒猫をキャッチしてトラックを避けた。

運転手は何も気づかずに美苗と猫のもとを通り過ぎた。


不思議なことが起きた。

猫をキャッチした瞬間、美苗の目に見えたすべての物がスローにみえ

かつ小さい頃の自分、そう野良猫とじゃれついてる美苗本人がこころに

浮かんだのだ。


「失礼だな!誰だかわからないけど私は死なないよ!」

「ねっ!ニャーさん!」



その時さらにその瞬間ありえないことがおこった。

またトラックが美苗と胸にかかえた黒猫に向けて突っ込んできた。

今度の運転手はながらスマホだ。ここが対向車線ということを

美苗も失念していた。



黒猫はジッと美苗の両眼を見つめている。



美苗はしかしここでも慌てない。

今度は一流の将棋指しのような曇りのない眼で神経を

脳に一点集中。走って避けるには加速が足りない。

ならやれることは一つ。体を回転、でんぐりがえりでトラックを避け

歩道に到達した。

また不思議なことがおこっていた。スローモーションと過去の野良猫との

じゃれあい。でんぐりがえりで避けた時だ。

前者はさらに長く後者は野良猫の数が増えていた。



「…まあ私避けられたし死ななかったし」

「ねえニャーさん」




胸に抱いた黒猫は美苗とは目を合わせず余所見をしていた。




その視線の先にはありえぬことにまたトラックが全力でこちらに向かっていた。

今度は居眠りだ。

歩道なのに…と一瞬頭をよぎったが

美苗はその瞬間黒猫を公園の街路樹に向けて放り投げていた。

スローとも呼べないような永遠の瞬間といってもいいほどの体験のなか

美苗の心にはちち様はは様と自分と黒猫がじゃれあい、家族でワイワイしてる

風景が映ったがその光景をこの世界でみられることはないまま



黒猫の草むらへの着地と同時に美苗の視界は真っ暗になった。

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