第3話 回顧。そして…
その後、私は自宅に帰って、晩御飯を食べてお風呂に入った。
そして自分の部屋に戻って少しゆっくりしていると、また死神さんが現れたので、
またお話しをし始めた。今までにやっていた部活のことだったり、
家族のことだったり…私は今までの人生を振り返りながら色々なことを話した。
死神さんには馴染みが無いことだろうけど、
興味を持って聞いてくれていたように思う。
死神さんとの会話はなんだか不思議と楽しかった。
何というか、ウマが合うのかな。今日初めて会ったばかりなのに、
長年の親友と会話をしているみたいだった。
そうして長いこと夜遅くまで話し込んでしまい、
すっかり命日を迎えてしまうのだった。
私は今日、死ぬのか…変な気分だなあと思いつつも、
話題は恋愛の話になっていった。
「…でアナタ、女の子が好きな女の子なんでしょう?でも今どき珍しくもないわね。そんなの。」
「あー…そういうの聞いちゃいます?まあ今日死ぬし、折角なんで話しますよ。
よくある話ですけど。」
「もう数カ月前かな?私、好きな女の子がいたんですよ。
その子は今通っている同じ高校の同級生なんですけど、
もともと中学時代からの知り合いで、結構気の合う友達だったんです。
でも、高校ではその子には好きな男の子がいて、いつも仲睦まじそうにしていたんですよ。ある日思い立った私は、その子の好きな人にこっそり聞いちゃいました。
あの子のことどう思っているのかって。
そしたらまあ、予想通りの返事でしたね。ありゃあ両思いですよ。
私は素直におめでとうございますって思いました。
それくらい清々しいほどに青春していたんでね。
その後、女の子の方から告白して、付き合ったらしいですよ。
いやあ、報われてよかったです。
それからはその友達とはちょっとずつ距離を取っちゃって…
今では話すことも無くなりましたね。」
「そう…でもアナタは、それがきっかけで心が傷ついたのではなくて?」
「そうですね…今までも似たような経験は何度かありましたが…
今回のが一番長い片思いだったから、相当効きましたよね。
…まあ結局は人の人生なんでね。
さして魅力の無い私が干渉するまででもないって話ですよ。」
「随分と自分を卑下するのね…まさかアナタ、自ら命を絶つつもりなの?」
気のせいかもしれないが、死神さんの声が心なしか震えているように聞こえた。
そして、私はその死神さんからの問いに答えた。
「はは。そのまさかかもです。いやあ、自分でも薄々気づいていたんですよ。
病気や怪我も無いし、ましてや事故も起こりそうにないのに、
なんで私が急に死ぬことになるんだろうって。それで少し考えてみたんですよ。
あともうちょっとだけ生きられたらどんなことをしたいのかなって。
すると自分でも驚きました。あれ?私、もう何もしたくないな…って。」
俯いた死神さんを見ながら、私は話し続けた。
「おかしな話ですよね…本当だったらもう2回も死ぬ予定だった私が、
今こうして生きていて、そして最後は自らの手で終わらせようと
しているんですから…どうも私は、生命力だけは人一倍長けているみたいで…
あ、確か私って豪運なんでしたっけ?そんなに運が良いんだったら、
あの恋も叶えば良かったのに……ぐすっ」
「違う。アナタは豪運なんかじゃないわ。」
俯いたままの死神さんの口が開いた。
「え…?で、でも死神さんはそう言っていましたよね?」
「…けたのよ」
「え?」
「私が!!!!アナタを!!!!!助けたのよ!!!!!!」
死神さんの顔が勢いよく上がると共に、耳を疑うような真実が、
私の頭の中を突き抜けた。
「ええええええええええ!?」
何かが吹っ切れたような死神さんは、私のリアクションを差し置いて話し始めた。
「分かりやすく運が良いとは言ったけどね…
死を回避するっていうのは要はシステムエラーなのよ。
人生ってのは大抵は決められたプログラムの通りに動いているんだけど、
死を回避する事象というのは、プログラムにバグを起こすようなモノなの。」
私は驚きつつも、頭の中で情報を整理していく。
「じゃ、じゃあ、貴方はそのバグを自分で起こしたってことですか?私のために??2回も??」
「ええ、そうよ。2回ともね。まあバグ自体は実際に起こるものだけどね。
アナタの場合は、私の独断によって生み出した完全なるでっちあげっていうワケ。」
「えええ…」
いや、まさかとは思っていたが、この死神さんは私をずっと助けてくれていたのか。そんなことが…あっていいのだろうか。
「私のこと…ずっと見守っていてくれてたんですね
…というかじゃあ、あの子とのことや…これまでのこと全部…」
「…知ってたわよ。アナタのことは、産まれた時からずっと見ていたんですもの。
でも、人の心までは読めなかった。
あなたがこんなに傷ついていたなんて…知らなかった。
まあ、仮に心が読めていたところで、死神の私には理解できないだろうけど…」
「…ではなぜ、助けてくれたんですか…?」
「私にも分からないのよ!!!なんかアナタのことを見ていたら、
放っておけなくて…守ってあげたくて…
だってこんな感情…二千年生きてきて初めてなんだもの。」
「アナタは、今よりもっと小さかった頃からずっと、自分の人生に遠慮をしていた。人一倍優しいアナタは、誰よりも謙虚で、誠実で、ずっと人に尽くしてきた。
でも、アナタは決して幸せになることはなかった。
それに加えて、本当だったらもう2回死んでいるのよ!?
アナタは豪運どころか、超悲運なのよ。それで最後は自分で手をかけるですって?
…そんな終わり方は余りにも…報われないじゃないっ……」
涙声で訴えた死神さんのその言葉は、その感情は、その思いは、
私の心に深く深く突き刺さった。
こんな…こんな存在がいたのか。貴方みたいな存在がいたことに、
もっと早く気づきたかった。私をこんなにも思ってくれる人が…いたんだ。
「…ありがとう。死神さん。私は貴方のお陰で、少し元気を取り戻しました。
私はまだもう少しだけ、頑張れそうです。」
「…もう少しじゃなくて、ずっと!!ずっと頑張んなさいよ!!!!!
アホ!!!!!アナタには、幸せになってほしい…私の好きな人だから。」
「また急な告白を………えっ今、私のこと好きって言いました?」
「ええ言ったわよ!まったくもうっ!…アナタは難聴系主人公ってワケかしら!?」
「いやそんなつもりはなくて、ちゃんと聞こえてましたよ。今のは確認です。」
死神だとか、人じゃないだとか。雑念が一瞬頭の中によぎったが、
そんな暗雲はすぐに消えてしまった。
今はただ、貴方から貰える言葉の全てが、愛おしいのだから。
「…私も貴方のことが、大好きですから。」
私は雲ひとつない晴れやかな笑顔で、そう言ったのだった。
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