第3話 ドイツ人との友情
歌舞伎「勧進帳」富樫の文句「ことのついでに問い申さん・・・」ではありませんが、ことのついでに、最後の海外旅行で「ドイツ人との友情を確かめ合う」ことができた、という話。
(黒澤明監督の映画「虎の尾を踏む男たち」1945年とは、関守富樫と弁慶との、男(武士)の友情を描いています。)
ヨーロッパというのは、あれだけ自動車の先進地域でありながら、歩行者や自転車に配慮して、路面電車が多い。2月の終わり頃、ドイツのある町・ある路面電車停留所での話です。
1メートルほど離れた所にドイツ人の可愛い女の子(私にとって女の子はみんな可愛い ?)が一人で立っていましたが、たまたま目が合い思わず互いに微笑んだのです。
「こんにちは、ドイツ人」「こんにちは、日本人」という無言の挨拶です。
そこで私は、30年前に知りあったドイツ人女性のことを思い出したのか「懐かしさ」ようなものがこみ上げ、彼女にこんなことを言ったのです。
「30年前に比べると、ドイツの街並はずいぶん変わりましたね。ニューヨークや東京の街並みみたいだ。」と、ここまではよかったのですが、次が問題でした。
「ユダヤ的なuglyな景色だね。」
更に、爆弾発言。
「ドイツ人は大変だね。アウシュビッツだのホロコーストで虐められて。」
「日本の場合は、韓国人に集られて困ってるよ。」
この瞬間、春ののどかな日差しに包まれてニコニコしていた女の子の顔は引きつり、身体全体が固まったようでした。
ヨーロッパ、特にドイツでは、「ユダヤ人」や「アウシュビッツ」に関して否定的な発言をすると、有無を言わさず現行犯で逮捕され、刑務所へ送られるということが法律で決まっているのです。
(日本では、韓国人が自虐で言っているのか日本人なのかわかりませんが「○チガイキムチ」「バカ○ョン」という言葉を、ネットのコメント欄でよく見かけますが、その内、日本でもドイツと同じようになるかもしれません。)
すると、女の子は頭を動かさず、目だけほんの一瞬となりの男性を見てから、しどろもどろでこう言うのです。「そ、そんなことないわ。ユダヤ人は私たちのbest friendよ。・・・」と。
50センチほど離れた隣の男性は、どうやら彼女の連れ(友人)のようでした。しかし、聞こえたのか聞こえなかったのか、彼は手にした携帯を見つめたままです。ほかの人たちは、私たちから離れていたので気がついていません。
と、その時、(私の)電車が来たので、後ずさりしながら彼女に「頑張って」とひと言お別れを言って電車に乗り込みました。
すると、彼女が数歩歩いて来て、閉まったドアのガラス越しに、さよならという感じで右手を挙げたのですが、その時、なんと彼女はニッコリ笑ってウインクしたのです !
それは、窓に顔を寄せていた私だけにはっきりと見えたことで、また、停車場の人たちから彼女の表情は見えない死角だったのです。
・・・動き始めた汽車の窓に顔をつけて、君は何か言おうとしている。
君の唇がさようならと動くことが、恐くて下を向いてた。
名残り雪も降る時を知り、ふざけすぎた季節の後で、いま、春が来て君はきれいになった。・・・
「なごり雪」イルカ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます