第2話 僕と彼女のreincarnation

reincarnation とは、生まれ変わり、霊魂再来、輪廻転生のこと。

(山岸勝榮「スーパー・アンカー英和辞典」 第5版 株式会社学研プラス)


還暦の少し前から、私は日本映画「君の名は。」の刺激もあり、前世や来世ということに強い興味を持ち始めていました。「君の名は。」という映画よりも、この映画を制作した人は前世の夢を見た経験がある、「輪廻転生の経験の記憶」があるにちがいない。「ああ、オレの仲間がいたのか」という安心感=強い興味ということです。

映画を観て感動し、1ヶ月という短期間に30回以上も(ビデオで)繰り返し見て哲学してしまう、なんて、黒澤明の映画でもなかったこと。

「哲学」とは大仰な話ですが、要は、頭で四の五のひねくり回すというよりも、心の中で遠い記憶を思い出そうという「記憶の筋肉」を鍛える、ということにつながった。かといって、英単語はひとつも覚えられないので、短期記憶・知識としての記憶には効果がないのが、この「遥か長期の記憶を司る筋肉」の特徴なのですが。

で、この「遙か昔を思い出す筋肉」が励起され・強化されはじめた頃に行った欧州旅行。そこで、なんとも・これまた運命というものか、偶然も偶然に知りあった女の子がreincarnation を信じているという話になった。これは彼女が自分から言い出したことで、私が彼女の興味を惹こうと持ち出した話題ではないのです。

細かい話は省略しますが、そこで私は(人生・来生)の賭けをしたのです。

数時間のバス道中、妙に話があった(波長が一致した)彼女が、「あなたが私のイタリアの留学先の街に寄ってくれたら案内するよ」なんて運びになったのですが、ここは一番「来世での出会い」を選択というか、私は彼女に提案したのです。

これぞ大学日本拳法的なる「自分の心と身体を使った実験精神」。

まあ、俗に言う「縁があったらまた会おうぜ」というやつですが、こんなステキな女の子とそんな(来生での出会いを目指す)別れをするなんて、一瞬ですが断腸の思い。まあ、短い会話だけでの「ステキ」ですから、本当は魔女かなんかだったかもしれないのですが。

彼女は、ちょっと残念そうな顔をしましたが、そこは陽気な南米の女の子、次のバスデポで熱ーい○○(抱擁)をして別れました。

来世で会う楽しみといって、大学日本拳法時代、恐いOB(鬼コーチ)なんかはゴメンですが(といっても、この方ぐらい存在感のある人はめったにいないので、間違いなく「遭う」でしょうが)、この娘とはなんとしてでももう一度。

この静かな、しかし、強烈な思いが、この旅行から帰って数ヶ月後の三内丸山古墳の訪問(による私の縄文人の自覚)につながったのだろうか。

なんて考える今日この頃、いよいよ死期が迫ってきたということか。

reincarnationというのはキリスト教の考えらしいのですが、キリスト教団といったドロドロとした人間の集団・組織になると、いろいろとおかしなこともあるのは、どこの・どんな世界も同じこと。

しかし私は、ドイツで知りあった彼女との「reincarnation 」を話題にした会話を通じ、彼らキリスト教徒というものの透明性を強く感じました。

やはり「神」という目に見えないものを真剣に信じる(ことのできる)人間というのは、釈迦や○○大作、なんとか鶴子、或いは天皇なんていう、生きた人間を偶像化し崇拝する人たちに比べ、その精神の透明性は、次元というレベルでまったく異なる「存在感」を感じます。「混じり気のない透明な存在感」というのも、おかしな話なのですが。

そんな彼女の印象もあり、厳寒から初春に移る頃に滞在した欧州とは、2024年の日本のドロドロした社会・世相を遠くから眺めるような立場の私にとって、その透明感・清々しさが懐かしく思われてなりません。

2024年2月22日

V.2.1

平栗雅人

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