第2話:先住民なんているんだぁ~っ!
※ルビ振るの面倒くさいのでテキトーに読みたいように読んでください。
ダグマンハイツに到着すると、城井は部屋に案内するでもなく鍵だけ渡して帰っていった。鯉魚は別に気にもしなかった。
話の通りならば部屋は一階一〇五号室。角部屋らしい。
「グッドモーメンテリ……コンビニ近いのは助かるな」
ギターケースと大きなバッグだけ持って、鯉魚は部屋の扉を開けた。
中に入ると狭い玄関に下駄箱が一つある。上がると正面と左に扉がある。鯉魚は先に左の扉を確認した。洗濯機を置くスペースとトイレが合体した空間があり、その中に浴室への扉がある。洗濯機は置いてあった。
扉を閉めて、玄関入って正面の扉を開けると、こちらが居室だった。
中は十畳ほどで割に広い。入って目の前にシングルベッドがあり、部屋の中央にカーペットとテーブルがある。書き物をするような机が部屋の入り口から対角線にあった。机の上にエアコンがあるが、これは大分年季のいった物だった。テレビはない。入口の左に収納がある。
ベッドと机の間の壁に掛け軸があった。
『豆腐の角に頭ぶつけて死ね!!』と書いてあるように読めた。
城井の話を思い出すに、この掛け軸は『いらないが処分してはいけない物』だろう。鯉魚はそんな事より生活の方が大事だった。
「あれ、キッチンどこだ……」
鯉魚は居室に入って左の窓の方を見た。窓に沿って居室から一段下がる階段が見える。そこがキッチンらしい。
鯉魚が入ってみると、狭いなりにしっかりしていた。冷蔵庫が備品として置いてあり、ガスコンロもあった。調理器具は流石にないだろうと思っていた鯉魚だが、あった。
それより異彩を放つ物がそこにはあった。
高さ六〇センチくらいの大きさの日本人形――それが鎮座するスペースがあった。
「へぇ~、日本人形なんて置いてあるんだぁ~」
鯉魚はその日本人形を抱え上げた。キッチンに日本人形を置くような住民がいたのだろうか? 端正に整った顔立ちはそんなに古い感じもしない。今にも動き出しそうなくらい精巧に作られている。
「気やすく触るな……」
「んん~?」
不意に声がして、鯉魚は人形を床に置いて部屋の方に戻った。
見た感じ、部屋に人はいない。どう考えても事故物件っぽいのでそういう物かと思ったが、明るい時間だからか影も見えなかった。
「まあいっか……」
鯉魚は細かい事を考えない。とりあえず人形を放置して、冷蔵庫を開いてみた。当たり前だが、空だった。その割に電気は通っている。ガスはどうなのだろうと思って、再度キッチンに戻る。
その時、異変を察知した。
さっき床に置いた日本人形が、元の位置に戻っている。
「……んん~?」
実家から帆成置まで歩きと電車できたので疲れているのか……そんな事を考えながら、鯉魚はガスコンロの調子を確かめた。火はつくので、ガスは通っているらしい。炊飯器もあるので、鯉魚が料理できないという問題に目をつむれば生活に不自由はしなさそうだった。
「さて、どうすっかな!」
鯉魚はとりあえず、部屋の中央のテーブルに座って荷物を取り出した。年中着られる服が三着と冬服が三着、あとアウターが一着に下着が一週間分しかない。家を出る時に玄関に置いてあった缶コーヒーがあったので、取り出して蓋を開ける。
「んー……なんか思った程ヤバい場所でもないな」
ブラックコーヒーを飲んで口が煙草のそれになった鯉魚は、煙草の箱を取り出して一本に火をつけた。
「ちょっとあんた」
「ん~?」
誰かに声をかけられて、鯉魚はそちらを向いた。
さっきの日本人形が床に立って、腰に手を当てて鯉魚を見ていた。
「煙草吸うのはいいけど、灰皿持ってるんでしょうね? この部屋に灰皿とかないわよ?」
喋っている。日本人形が喋っている。しかも極めて常識的な事を言っている。
「……すぅー……」
鯉魚は心を落ち着ける意味でも、煙草を吸った。
「はぁー……コーヒー……」
「飲んどる場合かー!!」
「プァガッ!!」
日本人形の小さな手が鯉魚の頬を張る。見た感じ細いのに凄いパワーだ。
「何……ねえ何!? 呪いの人形ってこういうのだっけ!?」
「誰が呪いの人形よ!! 私はダグマンハイツ一〇五号室のアイドル栞ちゃんだ!!」
「名前あるんだ!! 私は雨竜鯉魚!! これからよろしく!!」
「よろしく!! それより灰皿出しなさいあんた灰が零れてんでしょうが!!」
「灰皿持ってねえんだわ!!」
「水入れてきてやるから今すぐその缶コーヒー飲みきれぃ!!」
「応よ!!」
すいー……鯉魚はコーヒーを飲み切り、栞と名乗った日本人形に渡した。
「水入れてくるから火元注意しなさいよ!!」
「オッケー!!」
とりあえず灰皿は大丈夫っぽいな……鯉魚はコーヒー缶を持ってダッシュする日本人形という物凄い光景に動じる事なく、煙草を吸った。灰がぽろりと零れたが、とりあえず火はつかない。
「ほら応急灰皿!! ってもう灰こぼしてんの!?」
「しょうがない。吸えば煙草は灰になる」
「一句読むな!! とりあえず灰皿買ってきなさい灰皿!!」
「いやそんな金ないし……」
「だったら煙草吸うな!!」
雨竜鯉魚、秒で呪いの日本人形と友達になる。
「いやでもとりあえず一服って気持ちになるでしょ」
「人形に肺があるとでも思ってるの?」
「人体模型とか……」
「あんなのと一緒にするな!!」
なんで自分は怒られているんだろう……鯉魚はとりあえず煙草を思い切り吸った。
「はあ……まあいい……灰皿も少しはそれでもつだろうし。それよりあんた、今日の夕飯どうするの?」
「凄いナチュラルに心配されてるけど、まずあの……名前……」
「栞」
「栞ちゃんはこの部屋のなんなの」
「家事手伝いよ」
「現実が飲み込めねぇー……」
どう見てもここの家賃が安い原因の呪いの人形なのに家事手伝い? 実際できる雰囲気は漂わせているが、どうやって家事をするのか。いや問題はそこではない気もする。
「まあいいや。私家事は何もしないからよろしく」
「できないじゃなくてしないのね……」
栞は頭を抱えている。抱える頭は人形にもあるらしい。
「それより今日の夕飯だっけ? 適当にカップ麺でも買ってくるよ。お金ないし」
「近くのヘブンイレブンよね? ついでに携帯灰皿も買ってきなさい」
「いやお金ないし」
「買ってこいっつってんだろあと普通の灰皿も明日には調達して貰う」
鯉魚の顔面を両手で押さえ、栞は恫喝してくる。
鯉魚は本能的な所で理解した。
歯向かったら祟られる、と。
「へい……」
金は惜しいが、命はもっと惜しい。鯉魚は素直に従っておく事にした。
とりあえず消耗品の買い出しとかしないとなー……鯉魚はどこか現実的な事を現実逃避的に考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます