3章〜のぶゆき vs 新聞部編〜
10話〜新しい転校生の小野寺さん〜
とあるホームルームの時間、
担任の
菊田先生に呼ばれ、教室に入ってきた西赤崎高校の制服を着た女の子を見て教室の男子どもがザワザワしていた。
転校生だ。
「今日、転校してきた小野寺さんだ。じゃあ自己紹介よろしく。」
そう菊田先生が言うと、
「小野寺と言います。よろしくお願いします。」
「だそうだ。みんな仲良くするように。」
「え?」
思わず、反応してしまった。小野寺…聞いたことのある苗字だった。
「お、どうしたのぶゆき。知り合いか?」
先生が反応した私にそう言うと、「え、いや違います。」と声を小さくしてそう返した。
「まあちょうどいい、今日はのぶゆきが学校を案内してくれ。」
この日が西赤崎高校で高校生として過ごし始めた中で最も最悪な日になるとは思ってもいなかった。
この小野寺さんって人、どこかで見たことある気がする。いや見たことある。
小野寺が私の席の隣に座り、「よろしくね!」とかわいらしい声で話しかけてきた。
「おう。」と少しそっけなく接したが、彼女の声を聞いた瞬間に、この小野寺っていうやつの正体がわかった。
私が社長を務めている相沢アイドルプロダクションの長年のライバル会社、小野寺プロダクションズの新社長となった小野寺こそ、まさに私たちの西赤崎高校に転校してきた小野寺だった。びっくりしたのが、小野寺朱莉とは彼女の本名だということだ。
去年、親から社長を受け継いだと聞いた今年29歳の女性社長だが、なぜ彼女がここにいるのかはだいたい想像がついた。
それは、ライバル会社の相沢アイドルプロダクションを徹底的に潰すためだろう。私が年齢詐称をし、西赤崎高校で高校生をしていると言う情報をどこで嗅ぎつけたのかは知らないが、それがニュースに取り上げられれば、きっと株式会社である私たちの株は暴落、相沢アイドルプロダクションは潰れ、晴れて小野寺プロダクションズがアイドル業界を独占する。それを確認するために、転校してきたのであろう。
何はともあれ、今日はきっと高校生として最後の日だ。いっそのこと相沢先生に告白でもしてやろうか。
ホームルームが終わると、昼休みに入ったので小野寺に学内を案内しようと思い、彼女に声をかけた。
「小野寺、さ、さん。今から昼休みだから食堂まで案内す…」
「ねえ。」
小野寺は私の話を急に遮った。終いにはこんなことまで言い放った。
「私のこと、気づいてるんでしょ?いつもみたいに『あーちゃん』って呼んでよ。」
「は?」
え、どういうことだ。『あーちゃん』なんて言ったことないだろ。っていうか話したこともあんまりないだろ。どういう風の吹き回しなんだこれ。
「変なこと言うなよ。周りに聞かれたら誤解されるだろ。」
ニョロッ。
「うん、そうだよね。誤解されるよ、その言い方。」
ケンゴロウがスライムみたいに私の目の前に急に姿を現した。あまりにスライムみたいだったので、勇者の剣で真っ二つにでも斬ってやろうかと思ったが、肝心の勇者の剣がなかったので、拳でお腹をブった。
しかし、ケンゴロウだけに聞かれたわけでは無さそうだった。ホームルームの授業が終わった直後だったか、まだ教室には生徒が残っていた。
「お、お前ら、一体どんな関係なんだ、よ…」
腹部を押さえながら、ケンゴロウが聞いてきたので、周りも私たちの周りに立ち、聞き耳を立てていた。
「私たち〜、付き合ってまーす!ね〜、のぶくーん!」
小野寺のバカヤロウがそんなことをぶちかましてきたので、ケンゴロウを含めた男子どもが、この学校の暗黙のルール「女子と付き合う」を破ったと一斉に言ってきたので、事態を収束するためにとりあえず、小野寺の腕を掴み、人のいない屋上まで、走った。
校内は昼休みだったからか、廊下には人が多くいたため、小野寺の腕を掴みながら走っていた私を不審がって、全員が私たちを追いかけてきた。
みんなに追いかけられながらも、かろうじて屋上に続くドアを開け、そして誰も入ってこれないように、外側からしっかりとドアにロックをかけた。
しかし、屋上には先約がいたらしく、チョーくんと堀北さんが弁当を片手に持ちながら、互いの脇腹をツンツンしていた。以前の合宿でチョーくんが言っていた「脇腹を突き合う関係」がまさか文字通り、そう言う意味であったとは思ってもいなかった。彼らは二人きりの世界に入っていたので、突然入ってきた私と小野寺には目もくれず、引き続き、脇腹を突き合っていた。だが、私にとっては好都合だったため、私もチョーくんと堀北さんの関係にツベコベ言うのはやめておこうと思った。
「で、お前なんでここにいるんだよ。」
「お前ってあなたもなんで高校なんか通ってんのよ、もう34歳なのに。」
「小野寺も29歳だろ。」
お互いに、チョーくんと堀北さんの方に振り向くが、私たちの話は聞いていないようだったので、そのまま話を続けた。
「色々聞きたいことがあるんだけどよ、なんで付き合ってるなんか言ってんだよ。こんな充実した学園生活潰しにきたんだろ。」
「ん?私たち付き合ってないの?」
「え?付き合ってると思ってたの?」
「え?うん。」
「え?」
「うぇええええんんんんッ!!」
急に泣き出した小野寺を黙らせようとしながら、昔からこんな感情的で勘違いをするやつだったなと思った。
「でもあの時言ってくれたじゃん、私のこと一生大切にするって!」
「言ってねえよ。」
「言ったじゃない!前にテレビの取材で、相沢アイドルプロダクションと小野寺プロダクションズのライバル関係をどう思いますか?って質問されたときに言ったじゃない!」
「ライバル関係を一生大切にして、お互いを高め合いたいって言ったんだわ。勘違いにも程があんだろ。」
「うぇええええんんんんッ!!」
29歳じゃないような泣き方だが、こんな人が社長をしてて良いのか。
「っていうか俺がここにいるって誰に聞いたんだよ。超極秘情報だぞ。」
「それはもちろん、七海ちゃんだって。」
うっ、あの野郎。こんな重要機密を簡単にバラしやがって、クビにでもしてやるか。
「そういえば、七海ちゃんが伝言伝えといてって言ってたけど。」
ん、最後の遺言か。聞いてやろうじゃないか。
「早く結婚してください、このままだと結婚できずに、魔法使いとして異世界転移されちゃうので気をつけてください。だって〜。」
「結婚できないからしないんじゃなくて、まだ結婚したくないからしないんだ。」
「それは言い訳ですよ、社長。だって〜。」
え、私の言動すべてが秘書の七海に筒抜けじゃないか。なんと滑稽な。
「おにぎり食べたいな〜。」
「適当なこと言わないでちゃんと結婚について考えてください。だって〜。」
え、ここにいる?ってレベルで全部見透かされてるんだけど。あいつ超能力者だったのか。
「違うよ。だって〜。」
思考までッ…悔しいッ…
「まあ、あれだ。俺の学園生活の邪魔しにきたわけじゃないんなら、なんでもいいよ。」
「え、ありがと!じゃあこれからもよ・ろ・し・く・ね♡」
「お、お、おう。」
予鈴がなり、昼ごはんは食べられずに教室に戻った。
次は、相沢先生が英語の授業をしていたが、その時、周りの視線が珍しく相沢先生にではなく、私に向けられていた。
相沢先生が、「じゃあここで、質問はありますか〜?」と聞くと、生徒のほとんどが手を挙げた。ここまでは普通だ。みんな質問をして先生との会話を楽しみたいからだ。だが、今回は違うようだ。
「じゃあ、栗谷くん!」
「はああいいッ!!のぶゆきくんと転校生の小野寺さんが付き合ってるんですが、どう思いますか?」
「栗谷くんッ、次からは英語の質問を聞いてください!じゃあ次、ケンゴロウくん!」
「はぁい!のぶゆきくんが小野寺さんと付き合ってるらしいですが、相沢先生は信じますか!」
「ケンゴロウくん!無関係なことは聞かないでください!じゃあ次は、細谷くん!」
「は、はい。のぶゆきくんと小野寺さんが付き合ってます。」
「質問じゃないのは、いけません!」
顔が青ざめていく私をまるでみんなが笑っているように感じた。だが、天使だけは違った。私の異変に気づいた相沢先生はこう言ってくれた。顔を見て、相沢先生はこう言った。
「のぶゆきくんと小野寺さんが付き合っていても、そうでなくてもそれは先生には関係ありません。それよりも、私にはみんながのぶゆきくんをいじめているようにしか見えません。」
質問を投げかけた生徒全員がビクッと反応すると、ちょうどチャイムが鳴った。
「今日はここまでです。今日は許しますが、もしこんなことがあれば次は許しません。誰も悲しまないような教室を先生は作りたいと思っているので、協力してください。」
そうしてその場は収まった。だが、相沢先生が教室を出る際に私と小野寺に向かって、「放課後、職員室に来てください。」と言った。
◇ ◇ ◇
放課後…
「2人とも大丈夫だった?小野寺さんは今日、初めてだったのに嫌な思いをさせてごめんなさい!」
相沢先生が優しく私たちに声を掛けてくれた。一方、「嫌な思いをさせてごめん」と言われた小野寺はなぜかにやけていた。
「大丈夫です。」
と小野寺が言うとそれに続いて、私も話し始めた。
「心配ありがとうございます。あ、あの…」
「ん、どうしたの?」
「あ、あの…だ、誰とも付き合ってないですから!」
すると、相沢先生は、キョトンとした表情で、
「そうなの?のぶゆきくんのこと、本当に信用していいの?」
と言ってきた。想像していた返事を遥かに超えてきた。まさか相沢先生は私が付き合ってることを悲しんでいたのか。じゃあ、ちゃんと誠心誠意込めて、私は無実だと証明しよう。
「はい!お、俺は相沢先生しか!!」
「あはは、冗談だって〜。私は先生だよ?生徒の恋愛なんか私に関係ないじゃん!」
「生徒の恋愛…あの俺、実はおと…」
ダメだ。今は大人であることを言っちゃダメだ。
隣で、小野寺が私を笑いながら、こっちを見ていた。
なんだかちょっと傷ついた。
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