9話〜相沢先生と女子テニス部の合宿2日目〜②

一ノ瀬が甲高い声で叫ぶと、その声で余計にみんなが怖くなった。お前は男だろ、と言いたくなったが、ここでバラすのもなんだったので感情を抑えた。


全員が怖がる中、物陰から姿を現したのは相沢荘の管理人秘書の七海だった。


「相沢さんも肝試し、行っていいですよ。私がここでお待ちしておりますので。」


と七海が言うと、嬉しそうに相沢先生は、


「え、いいの!ありがと〜さやかちゃん!私、ほんとは行きたかったの〜!!」とまたお茶目な様子で七海に言った。


その場の流れで、くじ引きも七海がやることになったので、イカサマ仕放題のくじ引きで相沢先生と二人きりになろうと考えた。


「では、合計4組に分かれ、1組だけ3人の班で組み分けしましょう。」


七海との長年の仲で、テレパシーのようなものを使って、相沢先生の引いたくじがどれなのかを聞いた。(普通に七海に聞きました。)


結果、組み分けはこうなった。

1組目:チョーくんと堀北さん

2組目:のぶゆきと相沢先生

3組目:細谷くんと剛力くん

4組目:一ノ瀬と清水先輩と竹内さん


◇ ◇ ◇


まずは、1組目のチョーくんと堀北ペアの肝試しが始まった。


「拙者、こういう肝試しは初めてでござるよ。」


チョーくんがそういうが冷たい堀北は何も返さずにただ無視を繰り返していた。


「堀北殿はテニスが上手なのでござるな!」


「堀北殿は周りの気遣いがすごいできるでござるな!」


「堀北殿は綺麗でござるな!」


何回もチョーくんが堀北を褒めていると、やっと堀北が口を開いた。


「や、やめてよ、、」


「ん?なんか言ったでござるか?」


「だ、だから!やめてよ、褒めたりするの、、」


「え?」


堀北は大のつくツンデレであった。


「チョーくんから褒められるの、ちょっと照れるから、、」


「え?」


堀北は大のつくチョーくん推しであった。


「拙者のことが嫌いなのではないのでござるか?」


「い、いや。そういうことじゃないの…あの、緊張して話せなかったの。」


そう思うと、バスの中でチョーくんが堀北に無視されていた時も、堀北は顔を赤めていた。


「では、なぜ練習中に拙者にボールをぶつけてきたのでござる??」


「あれは、、」


「なんでござるか?」


「恥ずかしいんですけど、、ボールを当てたら、間接的に触れ合えると思ったから、、」


堀北は大のつく乱暴者だった。いや、乱暴者というより、ただのバカヤロウかもしれない。


「そんな風にじゃなくて、拙者を触ってくれればいいでござる!」


違う、きっと触れ合うってそういうことじゃないよチョーくん。


「ええい!」


と言いながら、チョーくんの脇腹を突いた堀北に対して、チョーくんはニッコリしながらも、ちょうどボールの当たったあざがあった箇所であったために痛みに苦しもがいていた。


「お主ッ!じゃあ今度は拙者がッ!」


とお互いの脇腹を突く関係となった2人。きっとこれも2人にとってはなんだろう。


◇ ◇ ◇


次に私と相沢先生が肝試しをするために、相沢荘から10分ほどの神社に向かって歩き始めた。行きの10分間と帰りの10分間の計20分で何か行動を起こさなければ!!と思い胸をソワソワしながら、行きの10分間は相沢先生が一方的に話すだけとなってしまっていた。


神社の前で少し止まり、相沢先生と話をした。


「のぶゆきくんはさー、こういうの怖くないの?」


相沢先生が優しくも、私に話を振ってくれた。


「先生、実はこういうの結構怖いんだよね。」


「大丈夫です、幽霊なんて存在しないですから。」


ダメだ。どうしても冷たく接してしまう。


「えー、私は存在すると思うなー。」


「まあ、存在した方が人間にとって都合がいいですからね。」


「えー難しいこと言うね。なんか大人みたいのぶゆきくん。」


「え、え、え。お、大人じゃないです、、しっかりまだ子どもです。」


「あはは。動揺しすぎだって!」


危うくバレるところだった…


「質問いいですか、相沢先生。」


「うん、どうしたの?」


「先生はどうして先生をやってるんですか?」


 私が相沢会長の携帯の待ち受け画面にいた相沢先生をみて、一目惚れしたことは事実だ。しかし、西赤崎高校の生徒として、私がより先生を好きになったきっかけがある。


 それは、相沢先生はに気づいたからだ。


相沢先生は誰にでもしっかりと怒る。誰も置いてきぼりにはしない。以前、放課後に教室に行こうとした際、相沢先生が大バカ者の栗谷を叱っているところを見た。「ここはしっかりと文法のケアレスミスだからちゃんと読んでれば栗谷くんのレベルだと解けるはずよ。しっかりしてね!」と言っていた。


バカな栗谷でもほっておけない面倒見の良い性格と常に笑っている素敵な相沢先生の姿は、実際に学校に通わなければ気づかなかったことのはずだ。


「あはは、面白い質問だね!うーん、先生になったきっかけはちゃんとあるよ。」


「知りたいです。」


「私がこの学校に赴任する前は保育園でバイトしてたんだけど、そこでよくドジをして失敗ばかりしていた私は、親御さんに叱られてばっかりだったの。それで泣いていたら、手伝いの人が私に向かってもっと叱られた方がいいって言ってきたの。」


「え、なんでですか?」


「そう思うでしょ?でもその人が言うには、若い頃は怒られた方が自分のためになるんだって言うの。自分はまだ希望がある。だからみんな怒ってくれる。色んな人から怒られちゃうと、つい忘れてしまいガチなことだけど、怒られるのは悪いことじゃないの。そう思うと、自然となんだって受け入れられるようになった。」


「素敵ですね、その考え方。」


「そうだよね。私はそれがあってすごく助かった。たった一言にしか過ぎない言葉だけど、当時の私にとっては大きな助け舟だったの。だから、私も英語の教師としてだけじゃなくて、ちゃんとした大人として、若いみんなにも助け舟を出せるような大人になりたいなと思ってるの。」


「先生にとって、その人は憧れの人なんですか?」


「さっきから面白い質問ばっかりだね。」


「あ、すみません。プライベートなことばっかり聞いて。今のはなかったことにしてくだ…」


「そうなのかもね。その人がなのかもしれない。のぶゆきくんは尊敬してる人とかいるの?」


「はい…先生を、尊敬してます…」


「あはは!ありがと、私もちゃんとした大人、できてるってことかな?」


冗談っぽく、そう言う相沢先生を見て、今では確実に彼女のことが好きだと確信した。


◇ ◇ ◇


そんな感じで、相沢先生と二人きりの肝試しは終わりを迎え、合宿も最終日に迫った。


昨日より当たりの弱くなった堀北さんのボール当てや練習の手伝いを横目に見ながら、練習は無事終わった。帰りのバスに荷物を全て乗せて高校に戻るためのバスに揺られながら、今度は隣にチョーくんが座りながら、少し話した。


「なんか、昨日の肝試しから堀北さんがあんまりきつくなくなったように見えるんだけど、どういう関係になったんだよ。」


そうツッコむと、チョーくんは頭を傾げながら、「脇腹を突き合う関係かな。」と言った。それが、どんな関係性を指しているのかが把握できなかったが、仲の悪さが解消したのであれば、それで良かったととりあえずは安堵した。


そして、夜の20時過ぎにバスが西赤崎高校に着くと、ラケットやボールなどを含む荷物を男子がバスから降ろしていると、誰かが近寄ってきて、私たちに話しかけた。


「楽しみだな合宿!」


テニス合宿に出る直前にボコボコにしたケンゴロウが記憶を失っている様子で、そう言ってきた。学校の正門でおよそ3日間も待機していたと言った彼に対して、流石の相沢先生も引いていた。

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