9話〜相沢先生と女子テニス部の合宿2日目〜①
「ニャーでござる。」
チョーくんは猫の鳴き真似で「ござる」という語尾をつけてしまった。こういう所はバカすぎるチョーくんを遠目に見ながら、私たちは作戦失敗の予感を感じた。
しかし、チョーくんは諦めなかった。
「ニャー、ニャーでござるよ。ニャーでござる。」
変態的な鳴き真似をしていると、窓がガタガタとし始めた。そうだ、そのまさかのまさかだ。相沢先生はチョーくんの似つかない猫の鳴き真似を本物の猫だと思い込み、窓を開けようとしていた。
これは、相沢先生の天然が功を奏した。窓の手動ロックが解除されたのが聞こえた。チョーくんに、その場を離れろと遠くから指示をするが、こっちに気づかずに、ずっと「ニャーでござる。」と鳴き続けている。
すると、少し遠くの方から誰かの声が聞こえた。
「何やってんですか、チョーくん!!」
最悪なことに七海と話し終わった一ノ瀬がこっちの作戦に勘付いたのか、大きな声をあげて、女子風呂に入っていた者にも聞こえるような声量でチョーくんの居場所を知らせた。
その後は誰もが予想できたかのように、風呂から出た女子生徒からは殴るや蹴るなどのボコボコ。私も含め、怪しまれはしたが当たり前に、チョーくんを裏切り、全て彼1人の仕業であることを伝えた。明日の午前練習は全部チョーくんが手伝うというご褒美なのか罰なのかわからない「罰」が彼には下された。
逆に一ノ瀬はチョーくんを発見したことから、めちゃくちゃに褒められていた。それを見た私たちは余計に複雑な気持ちになった。
〜1日目完〜
2日目の朝、相沢護衛隊の女子たちと秘書の七海にきっちりマークされた私たちはもう打つ手もなく、ノゾキ作戦を悔しながらも失敗とした。チョーくんが午前練習の手伝いをしている中で、細谷くんと剛力くんを含めた私たちはチョーくんに誠心誠意を込めて謝ろうと思った。
午前の練習が終わると、相沢先生と女子たちは昼休憩に入った。男子部屋に戻ったチョーくんは直視できないほどに無残な姿となっていた。身体中に湿布を貼ってくれないかとチョーくんが頼んできたので、彼はきているジャージを脱ぐと、身体全体に渡って、ボールの跡がくっきりと残ったあざができていた。湿布を男子3人でチョーくんの身体に貼っている時に最初に口を開いたのは、細谷くんだった。
「チョーくん、本当にごめんなさい。そこまでしてくれたチョーくんを裏切る行為は許されるわけがないけど、本当に心から申し訳ないと思ってる。」
続いて、剛力くんも不器用そうに謝り、今度は私が謝るとチョーくんが「みんな顔を上げてくれでござる。」と優しく言ってくれた。
「あれは、ご褒美でござる。逆に、拙者が感謝すべきでありますよ。」
こいつが変態だってことを完全に忘れていた。
「それで話があるのでござるが、今日の午後練習も拙者一人で手伝いをしてもよろしいか?先ほどは天国であった。」
「いいよ、羨ましいけど楽しんでね。」
細谷くんも同類なのだと気づいた。しかし、それを知った相沢先生はチョーくんがいじめられているのではないかと思い、午後の練習は男子全員がしっかりと手伝いを行なった。
◇ ◇ ◇
きつい練習の手伝いに耐えながら、その日の練習が終わり、すっかり時間は夜になっていた。夜ご飯を済ませると、相沢先生からなんとサプライズがあった。
「今日もみんなお疲れ様〜!今日は夏休み合宿、最後の夜になるから夏休みに定番の肝試ししましょ〜!」
お茶目で可愛い。男子のみに限らず、女子生徒もきっとそう思いながら相沢先生に見惚れていたはずだ。相沢荘から10分ほど歩いたところに神社があり、そこまでペアで行ってから、相沢荘まで帰ってくるという道のりだと相沢先生が丁寧に説明してくれた。
「じゃあ、ペアで分かれるからくじ引きしましょ!」
「ちょっと待ってください。ペアって今相沢先生を含めて9人いるんですけど、もしかして相沢先生はいかないんですか?」
2年の清水先輩がそう聞くと、「そうよ〜。なになに?行って欲しいの??」と冗談っぽく返す相沢先生。それに対して、清水先輩だけでなく、その場にいた全員がはい、と頷いた。
「でも、ここにいないともし誰かはぐれたら危ないでしょー。」
「細谷くんがここにいてくれるって言ってます。」
そうチョーくんと剛力くんが言うと、女子たちもそうだそうだ、と言った。でもそれは流石にかわいそうだと誰にでも平等に優しい相沢先生は言うと、悲しげな表情を浮かべていた細谷くんは満面の笑みで相沢先生を見た。すると、物陰から幽霊のような人影がこっちに近づいてきた。
「きゃああッッ!!」
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