8話〜相沢先生と女子テニス部の合宿1日目〜②

私は正直、ノゾキなんてしたくはなかった。相沢先生の赤裸々な姿を誰にも見せたくなかったからだ。


チョーくんの作戦をペラペラと語り始めた。


「女子風呂は一階のロビーの奥にある。だからそのまま、女子風呂には入れないでござる。さっきの七海とか言う結構かわいいお世話係が見張りをしている可能性も高いのでありますよ。」


「そんな、、八方塞がりじゃないか。」


細谷くんが不安そうに言う。


「ちっちっちっ、女子風呂の入り口に入るとは一言も言ってないでござるよ。ほら、ここだよ。」


とロビーの外に連れられた私たちは、チョーくんの指差した窓を一斉に見た。


「なんと外から覗くと言うことか!チョーくんは頭がいいですな!」


剛力くんが大きな声で言うと、チョーくんは静かにしろと、人差し指を口に当てた。


「でも女子が風呂入っている時間に外出なんて七海に怪しまれるぞ。」


「ん、のぶゆきくん?七海って呼び捨てするほど貴女殿と仲が良いのでござるか?あっはは。」


危ない、危ない。いつもの癖で七海なんて呼び捨てで言ってしまった。チョーくんが冗談っぽく笑ってくれたから救われたけど、やっぱり気をつけないとな。


「でも、そんなことならご安心を。策はしっかり用意してあるでござる。」


チョーくんのことを信用しながら、同時に、一ノ瀬の女子風呂ハーレムを阻止する方法も考えているのかと少し不安になった。


◇ ◇ ◇


作戦開始の合図は、19時の鐘だ。それぞれ作戦の配置につき、19時の鐘が鳴った。


私はチョーくんと行動を共にしながら、一階のロビーに向かった。あとの二人は何をしているのかはよく聞いていなかったが、きっと戦力外だとチョーくんが判断したのであろう。


チョーくんは七海を目にすると、すぐにそっちにすばやく歩きながら、彼女に話し始めた。


「おはよう、七海殿、今日は良い天気でござるな。」


「もう夜ですよ。」


「おー、確かに言われてみればそうかもしれないでござる。そんなことよりトイレはどこでござるか?」


「そこの廊下を曲がって右にありますよ。」


「おーそうであったか。ではおさらばでござる。」


そう言うとチョーくんはロビーの入り口から出ようとし、私に「こっちに来い」と言わんばかりの手招きをした。だが、案の定、七海がトイレは外じゃないですよ、と私たちをロビー内に引き戻した。


世間話で、自然と外に出られると思ったらしいチョーくんは、悔しい顔をしながら、とりあえず私とトイレに向かった。


「どうしようでござる、外に出られないでござるよォ。」


相沢先生が私たち高校生が夜に外出しないように七海に私たちの監視を頼まれていたことは知っている。バカみたいな作戦だったので、チョーくんを軽く平手打ちした。すると、「俺は、大丈夫でござる…」と言わんばかりの表情を見せ、なぜか既視感を覚えた。


「細谷くんと剛力くんがもうすぐで、来る頃だろう…」


とチョーくんが言ったので、ロビーに向かうとなんとそこには細谷くんと剛力くんとまさかの一ノ瀬がいた。


一ノ瀬と七海がなぜか、すごく話し込んでいるように見えた。


「あはは。我々の勝利でござるよ。お疲れ様でござる、細谷くんと剛力くん。」


「ん、どういうことなんだチョーくん。」


そう尋ねると、上から目線のような顔でこっちを見てきた。


「のぶゆきくんは甘いでござる。バスから出たときに既に作戦は始まっていたのでござるよ。バスから出てきた一ノ瀬殿を見た七海殿の表情を見たでござるか?そこで拙者は確信したのでござる、七海殿は超美少女好きだということに。」


え、そうなの。6年一緒にいるけどそんな片鱗見せたことなかったけど…でもなんか一ノ瀬と話してる七海の顔が今まで見た中で一番輝いてるかもしれない。


「だから、女子トイレの前で細谷くんと剛力くんを待機させておいたのでござる。」


「はっ!まさか必要以上にスポーツ飲料を一ノ瀬だけに渡していたのは、トイレに何度も行かせるため!?」


「ビンゴでござるよ。そうして無理矢理にも一ノ瀬殿の女子風呂ハーレムを阻止しつつ、彼を囮として七海殿の注意を引かせるように仕向けたのでござる。今のうちに、外に出るでござるよ。」


〜ノゾキ作戦第1フェーズ完遂〜


こいつは本物の天才かもしれない。そう思いながら、男子どもは外に出て、ノゾキのスタンバイについた。


女子風呂の窓は草むらも何もないところにある。そんな中でどうやってノゾキをすれば良いのだろうか。堂々と窓の隙間からノゾくのは周りの目を気にしなければいけない。と思っていると、チョーくんが履いているパンツの中をモゾモゾしていた。そこから取り出したのは、なんと双眼鏡だった。汚すぎるだろ。


「近くで覗くのは、非常に危険であります。だから双眼鏡を使って少し遠くの草むらからノゾキを遂行するでござる。」


「でもあの窓開いてねえぞ。」


剛力くんが少しキレ気味でそういうと、チョーくんがまたも、「ちっちっちっ」と言った。


「拙者が、窓の近くで猫の鳴き声をするでござる。そうしたら、猫好きの相沢先生はきっと、いや必ず窓を開けて猫を見ようとするはずでござる。そのタイミングを逃さないように注意してくれでござろう。」


そういうと、全員定位置にスタンバイし、ノゾキ作戦第2フェーズ開始の合図であるチョーくんの猫の鳴き真似を寒い夜の中で待っていた。

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