4話〜相沢先生の欠点〜

6月下旬ごろ… 


 みんなのアイドルこと相沢先生は西赤崎高校の英語教師である。しかし、英語教師としては圧倒的な欠点がある。


 相沢先生は英語ができないのだ。


 正確に言うと英語を教えるのが下手すぎるのだ。天然な相沢先生はどのように英語教師になれたのだろうか。校長に聞いてみた。


「えー、そんなのかわいいからに決まってるじゃないですか。かわいかったらなんでもいいんですよ。」


 納得だ、校長先生。34歳の俺でも高校に入れたんだ、審査が甘すぎるんだろう。


 相沢先生の声は天使のような綺麗な声をしている。その声を聞いているだけで、ただただ癒やされるのだ。しかし、問題は相沢先生の英語の発音が全く良くないので、言っていることのほとんどが理解できないのだ。


 言わずもがな、生徒の英語の点数は全体的に低くなってしまう。何を言っているのかがわからないからだ。そうすると、相沢先生は悲しみ、自分の授業方法が間違っているのかと悩んでしまう。どうすれば英語のテストの点数を伸ばして、相沢先生の自信をつけられるのだろう。


 次の期末テストは2週間後。もちろん、全校男子生徒304人で会議を行った。


「じゃあ、それぞれ個別に塾講師雇って、英語学べばいいんじゃね。」


なんと卑劣なことを言うんだ、ケンゴロウ。お前には愛情が足りない。


「ダメだ、俺たちはちゃんと相沢先生の授業だけで英語を学ばなければならない。塾講師雇うとか相沢先生に浮気してるようなものだろ。」


誰かがそう言うと、全校男子生徒共が唸り声を上げながら、賛成した。と同時に、ケンゴロウのことを一斉に非難しまくった。


 当たり前だ、ケンゴロウ。私は断じて助けないぞ。すると、男子の緊急会議中にまさかの現れたのは、全校生徒308人の内、4人の中の女子生徒、清水先輩が直談判しにきた。


「相沢先生の英語の発音を理解すればいいんじゃないの?」


つまり、清水先輩の言いたいことはこうだ。

 相沢先生が、


「This is a pen. 」


という文を英語で読んだら、発音の悪さゆえにこのようになってしまう。


「ビス イウ エ ピン」


 それがわかれば、

ビス=This

イウ= is

エ= a

ピン= pen


 相沢先生特有の発音を理解すれば、英語で何を言っているのかがわかるだろうということだ。なんて天才的なアイデアなのだろう。清水先輩まじあざ。


 そうとわかれば、私たちは2週間後に迫った期末テストに向けて、相沢先生発音法を全てマスターし、授業中に何を言っているのかさえ理解できるようになった。


「イウ オー ママー エ ピアンストゥー?」


ちなみに、これだと

「Is your mother a pianist?」

と言っているのだ。このように全校生徒は相沢先生発音法を完璧にマスターし、期末テストに挑んだ。


期末テストの高校1年の問題にはこう出題された。

次の英文を日本語に直しなさい。

「Is your mother a pianist?」


1年生全員が


「イウ オー ママー エ ピアンストゥー?」


と書いてしまい、英語のテストの平均点が格段に下がってしまったのは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る