第3話 魔法の先生
「主、大丈夫です。落ち着いてください」
俺が二度と地上に出られないことを悟り、いっそこのまま死ぬくらいならと頭をガンガンと壁に打ち付けていたところ、ルースがさっと冷静に止めに入ってくる。
「何だ、ルース。てかさっきから思ってたけど、俺は主じゃなくてグリフだ」
「失礼をグリフ様。あくまで先程の計上は一般人に当てはめたらという事になります。自ら死を選ぶほどの事では……」
「いや別に様は要らないんだけどな。それに敬語じゃなくても良いんだけど……ってうん? 別に死のうだなんてしてなかったぞ?」
ああ、でも見ようによっては壁にただ頭叩きつけて死のうとしているようにも映るか。俺はこのくらいじゃ怪我すらしないのは知っていたけど、こいつらは知らないもんな。
いやていうかそもそもいきなり壁に頭を打ち付け始めるだけで異常か。普通に。
「ダンジョンという物はその大きさがダンジョンの核が持つ魔力量に比例いたします。そしてこれ程の大きさのダンジョンを作り出したグリフ様の魔力量は一般人よりも圧倒的に多いと推察できます」
「いやいや、待て待て。そもそも俺は魔力測定で測定不能になるくらい魔力が無かったんだぞ」
結果が示されている以上、俺の魔力量が測定できないほどに少ないことは疑いようのない事実だ。
「グリフ様。それは恐らくグリフ様の魔力量が測定できないほどに膨大だったからであると思います」
「いやいやファブニル。流石にそれは無いと思うぞ。だって史上最強って云われてた伝説の英雄でも測定不能にならなかったらしいぜ? それ以上ってフツーあり得ないだろ」
俺も最初はその可能性だってあると思って色々調べた。だが、未だかつて魔力量が少なすぎて測定不能になった者はいれど、魔力量が多すぎて測定不能になった奴は居ないだなんて知ったら誰だって前者の方だと思うだろ?
「それに魔力があるんだとしたら初級魔法すら使えないのはおかしいだろ? やっぱり俺には魔力が無いんだよ」
俺が半ばヤケクソになりながらそう答えるも二人に納得した様子はない。
「初級魔法というものがどういったものなのかは分かりませんが、グリフ様が魔法を使えないのは恐らく指導者が悪かったのでしょう。一度、習った魔法という物を私共に見せていただけませんか?」
「うん? 分かった」
習った魔法を見せてほしい、そう言われた俺は言われた通り帝国で学んだ初級魔法『ファイヤーバレット』を発動しようとして、詠唱を始める。
……うん、何も起こらない。
「はあ、やっぱり俺には才能が無いんだ」
トホホ~。流石の二人もこれで俺に失望したに違いない。そう思って二人の方を向くと、そこには何故だか得心顔の二人が立っていた。
「なるほど、分かりました。グリフ様が教えられていた魔法はどうやら簡易化された魔法のようですね。だから、そもそも魔法自体に魔力制限がかかってしまっているのです」
「魔力制限?」
ファブニルの言葉に俺はまたもや首を傾げる羽目となってしまう。ファブニルが言うには、俺が教えられた魔法というのは誰でも扱えるように元の魔法から簡易的な物に書き換えられた魔法だというのである。
それにより、ある一定以上の魔力を込めると発動しない様になっているのだとか。
分かりやすく言えば、質が落ちたコピー品のような物なのだという。
「グリフ様の場合、そもそもの魔力が多すぎるが故に込める魔力量も段違いとなります。だから発動しないのです」
「え、てことは……」
これまでどうせ自分には無理だと諦めていた心にそこまで言われてようやく希望の光が差す。そんな俺の様子を二人は微笑みでこう返してくれる。
「簡易化される前の、本来の魔法であればグリフ様も使うことが出来ます」
「差し支えなければ私達が教えさせていただければと思いますが、いかがなさいますか?」
そう言われて俺が断る理由はない。
すぐさま、ビシッと気を付けをして深々と頭を下げると俺は大声でこう告げる。
「ぜひ教えてください、先生方!!!!」
♢
その日から早速、俺はファブニルとルースから魔法について教わることとなった。
「まずは魔力の性質についてです。基本的には魔法は全属性使えるようになるとは思いますが……」
「いやいやちょっと待て。魔法を全属性使えるなんて奴、どの歴史にも存在しないって聞いたことあるんだが」
「魔力の性質によって得意不得意はありますが、私達から教わる限り使えないという事はありません」
「す、すげえ。流石先生だ」
「すみませんが、先生と呼ぶのは止めてください」
俺がルースの事を先生と呼ぶとすかさず訂正が入る。さっきも敬語使ってたら魔法の説明を途中でやめられたし。
教わってる側だし、普通だろと思ってどうしてなのか理由を聞くと、恐れ多すぎて死にたくなると言われて敬語に関しては慌ててやめた。こりゃ先生って呼ぶのも止めといた方が良いな。
それからというもの俺は毎日、二人から魔法について教わっていくのであった。
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