第2話 異常事態

 小屋の中に幽閉されたはじめてからというもの、硬い地面、そして隙間風による寒さで辛かった。

 時折、兵士達によって殴られる事もあった。

 いずれ殺されると思い、何度も脱出を試みた。その度に兵士達に捕まり、罰として鞭打ちを受けた。

 ただその過程で俺はとある事に気が付いたのだ。殴られたり鞭打ちをされたりしても何も痛くないという事に。

 最初はあまりの痛さに神経が麻痺しているのかと思っていたが、何度も受けていく内に本当に痛くないのではないかと思う様になった。


 実際、服は汚れるものの体には一切の痣が付かないのである。

 まさか母上が仰っていた俺の怪我もしないし風邪も引かないとかいう気休めだと思っていた才能がこういう事だとは思っていなかった。


 これに気が付いてからは下手に刺激して本当に剣で斬られなんかして殺されてしまわないようにと俺は部屋でトレーニングをする様になった。

 剣はないため、主に肉体を強化する様なトレーニングである。

 その日々を過ごしていく内に体が酷い生活環境に順応していったのかいつの間にか何も苦労を感じなくなっていた。


 そんなある日の事であった。俺がいつもの様に筋トレを始めようと体を起こした時である。

 突然、外から兵士達であろう悲鳴が聞こえたと思えば凄まじい地響きが小屋を襲ったのである。


 それだけではなく、何かが外から押し潰してきているようで小屋の至る所から軋むような音が聞こえてくる。

 暫くして、小屋が崩壊する寸前で地震が止まり、俺はようやく立ち上がると、周囲を見渡す。


「な、何だったんだ?」


 何が起こったのか理解できず、ただその場に立ち尽くしていると、外から何やら人の声のようなものが聞こえてくる。

 何だ、結局兵士達は無事だったのか。これじゃ脱出は無理か?


 いや待てよ? もしかすると兵士達が弱っているかもしれない今ならいけるんじゃ。


 そうと決まれば俺に躊躇いはない。今まで筋トレで培ってきた力を試す時だ。

 俺はひしゃげて機能していない扉を思い切り殴り飛ばすと、勢いよく飛び出す。

 ようやく夢にも見た青空の下へ、、、へ?


「え、なにこの部屋? 何でこんな所に出るんだ?」

「「お待ちしておりました。我が主」」


 小屋を飛び出すと、そこには豪華に飾り付けされた玉座の間のような場所に出て、そこに跪く男と女が居る。

 うん、意味が分かんない。どゆこと?


「えーっと、ここはどこ? それで君達は誰?」

「ここはあなた様の居城でございます。そして私はあなた様の側近である始祖の吸血鬼、ルースでございます」

「私もルース同様、あなた様の側近であります始祖の龍王、ファブニルでございます」


 始祖の吸血鬼に始祖の龍王? 見た目人間なのに? それに俺の側近?


「オーケー、全然理解出来ないな。まず一つずつ聞いていこうか。まず、俺が主ってのはどういう事だ?」

「はい、このダンジョンはあなた様がお造りになったものです。そして私達も。だからあなた様がこのダンジョンの主という事になります」


 ルースと名乗った女性からそう言われ、取り敢えず一つ判明した。

 ここってダンジョンなんだな。うん、は? 

 無理だ、無理やり理解しようとしたけど全然無理だった。


「え、いや俺ダンジョンなんて作っていないんだけど」

「と言われましても私達も先程生まれたばかりですので……あなた様が主であるという事しか」

「そうなんだ。それにしちゃあ、大分成長してるように見えるけど」


 少なくとも見た目的にも知識的にも俺よりは年齢上だろ。今俺が何歳なのかは知らないが。


「失礼ながら私の方から予想させていただいてよろしいですか?」

「うん、ていうか寧ろしてくれファブニル」

「では。ダンジョンというものは魔力が異常に集中している場所で突然発生します。天文学的な確率ではございますが、おそらく主の持つ異常な魔力が核となって発生したのではないかと思われます」

「俺が持つ異常な魔力? いや魔法の才能なんて全くない俺がそんなもん持ってる訳が無いだろ」


 実際に魔力測定の時に「計測不能」という前代未聞の魔力ゼロを叩き出したくらいなんだからな。

 魔法の才能の無さには自信がある。


「はて? 私の目には到底太刀打ちできないほどの強大な魔力を有していらっしゃるように見えますが」


 そう言われても実際に無いもんは無いしなぁ。


「ていうか俺、外に出たいんだけどさ。どうやったら出られるんだ?」

「申し訳ありません、主。地上に出たいのでしたらダンジョンを地上に到達するまで成長させなければなりません」

「え、今ってどんくらいなの?」

「はい、ただいまダンジョンはこの部屋しかありません。これほど深いダンジョンですとあと1000階層ほどは無いと無理かと」


 ルースから1000階層と聞いてあまりピンと来なかった俺が首を傾げると、今度はファブニルが口を開く。


「大体一階層に例えば一般的な魔力量の持ち主ですと、十年程度は必要かと」

「一階層で十年ッ!?」


 1000階層で一万年。それに俺なんかの魔力量じゃもっとかかるだろ?


「つ、詰んだ」


 ファブニルの言葉を聞いて、二度と地上には出られないという事を悟り、俺は絶望するのであった。

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