第8話 事件の真実

「まず、ハマタク君が言う通り、私が犯人。

 犯行の手順はちょっと違ったわ。惜しかったけど。私はまず、全裸で浴衣を着たわけではないの。きちんと下着を着てたわ。いくら短い時間で犯罪行為を行うと言っても、さすがに全裸は恥ずかしいわよ。じゃあ、何で、15分で殺害を終えて大浴場に戻って来れたかと言うと、簡単なこと。

 単純に大浴場から205号室に直行したからなの。私はハマタク君が部屋に戻っていることをすっかり忘れていたの。

 それ以外はあなたの予想通り。山川さんは下北沢さんのために、ドアをずっと開けていて、ノックしてすぐにドアを開けて…髭剃りの刃を使って彼女の首元を切って、ドアノブの振動で外側から鍵をロックして密室を作った。あそこまで言い当てられるなんて素直に関心したわ」

 そう言いながら、彼女はふぅと息を吐いた。

「概ね俺の予想通りだったんですね…」

「けど、犯行理由は詳しくは当てられなかったのね、まあ、それは仕方がないか」

 彼女は少し、口角をあげていた。

「そりゃあ、俺はあなたでは無いですから…あなたの本当の気持ちはわからない」

「まあ、そうか。まず、ハマタク君、あなたが言っていたグラビア写真を嫌がっていた件は正解。私は胸にコンプレックスがあったの。私の胸は昔から大きくて、高校の時、電車で学校に通っていたんだけど、その際に、鼻の下を伸ばして顔を赤くさせたおっさん達の目線を集めていたわ。気持ち悪かった。しかも、学校でも私の着替えている最中の様子を隠し撮った写真が出回ったし、体育祭のときも隠し撮りは当たり前だった。私が走っているとき揺れる胸を動画で撮ったりされてたの。気持ち悪いったらあらしない。

 私は高校時代と大学1回生まで、人並みに恋愛経験はあったのだけど、絶対に関係が進んでもキスまでにとどめていた。裸を見られるなんて嫌だから。すると、そういった行為を断って暫くしたら、いつも、彼氏との関係は崩壊したわ。男って結局性欲で相手を選んでいるのかしらね」

「そんなことないと思うよ」

 と細山が真剣な顔で口を挟むが、彼女は聞かず話を続けた。

「私は昔からテレビを見ることが好きだった。特に映画。映画を見ることで私は自分の胸で悩む気持ちを解消していた。そんな私は、いつしか女優に憧れて女優を目指そうと思った。もちろん、露出は控えめでちゃんとした女優。皆に夢を与える女優よ。エロ目的じゃない。

 それで大学生になった時、演劇部に入ったんだけど、私は男の先輩からエロい目で見られて、モテにモテてしまって、女性の先輩にいじめられてしまった。そして、1年間は耐えたけど、結局辞めてしまった。

 そんな感じで、大学2回生の最初絶望していた私は会長のSNSで『MFM映画研究部』に出会った。会長のSNSは四六時中映画のことしか呟いていなくて、私の知っている男とは違って見えた。ここなら自分でも女優として活躍できる、そう思った」

「まあ、確かにそれが細山会長の魅力でもあり、欠点でもあるなぁ」

 と下北沢は呟いた。彼女もまた、細山会長のSNSを読んで『MFM映画研究部』に入ることを決めたと前言っていた。

 そう呟いてすぐに、彼女は急に表情を険しくした。

「あんたの人生は同情できる部分も多いけど…ただ、山川を殺したんは未来永劫、許さへんで」


「そうね…私はひどい過ちをしてしまった…」

 頬のケガに触れながら早上は涙を流した。


「涙を流して許してもらおうって魂胆か!!?まどろっこしい話はええねん、山川をなんで殺したんか言うんや!!」

 本多刑事に羽交い締めにされた早上に歩み寄り、浴衣の襟元を掴みながら下北沢はそう言った。怒髪天を衝くという感じの形相を浮かべて。

 

「山川さんを殺したのは、、ただそれだけよ」

 

 俺の予想は外れていたらしい。失言無しで山川は殺されたのか…


「どういうことや!!何でそんなんだけで人を殺すんや!!?」

 両手で頭を抱えて俯き、ホテル中に響くほど大きな声でそう叫んだ後、下北沢は慟哭した。


「それは緊張した時の紅潮かもしれないじゃないか、緊張しいの山川のことだしあり得るだろ」

 と俺は疑問をぶつけた。


「そんなこと関係ない。私は胸を見られて顔が紅潮したそのこと自体が嫌だった。私をエロい目で見たあの男どもの顔を思い出してしまって。このサークルに入った後は、ハマタク君も細山会長も女性に興味ないんじゃないかなってぐらい、私のことを異性じゃなくて、仲間としてだけ見てくれていたし。ここしばらくは、あいつらの顔を思い出していなかった。なのに、私の脳内をあいつらのキモイ顔のフラッシュバックが侵し始めた。せっかく、私が落ち着いて女優を目指せる場所ができたのに!!!

 私は本当は、サウナ室で彼女の首を締めようと思ってた。

 私は彼女にしか見つかってないから、そこで殺しても私の犯行だとバレないと思ってたからね。

 けど、上手くいかなかった。彼女の許に近づいていく、私の顔は鬼のような形相だったのでしょうね。彼女は私から逃げるようにサウナ室を出て、下北沢さんに向かって、部屋に戻るって言った。

 私はその様子を見た後、すぐさま、彼女を追いかけようとした。けど…サウナ室から、下北沢さんが大浴場から出て脱衣所で着替えている山川さんの姿をじーっと眺めているのが見えた。だから、私は彼女が部屋を戻るまでには、手を出せなかったの」

 

 つまり、彼女は自分のトラウマを再び呼び起こした山川を殺すことで、自分を蝕むフラッシュバックを消すことができると考えたのであろう。

 彼女の複雑な感情ははっきり言って俺にはよくわからない。 

 ただ、共同体を壊される恐怖は俺は高校時代に写真部で味わったので少しわかる。しかし、だからといって、彼女が仲間に対する殺人をした件を俺は許すことができない。


 早上は話したい内容は話し終えたのか。急に顔を真顔にさせ、意気消沈し、身体を脱力させた。

 木多刑事の部下が現れて彼女の両手に手錠をかけた。

 部下と一緒に木多刑事は、彼女を抱えるように運んだ。

 どんどん彼女の影が小さくなっていく。


 山川が何故、彼女の胸を見て顔を紅潮させたのか、それはもう山川は死んでしまったからわからない。

 これは俺の仮説だが、もしかしたら、のかもしれない。それが山川の緊張を引き起こし、顔を紅潮させたのではないだろうか?


 つまり、この殺人事件は、山川が貧乳であるがために起こってしまった。

言わば、『貧乳女子大学生殺人事件』だったのではないだろうか。

 いや…自分で考えてなんだが、名前が酷すぎる。

 『××女子大学生殺人事件』とでもしておくか。


 何はともあれ、かくして、『××女子大学生殺人事件』は終わりを迎えた。


 

 

 

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