第7話 ハマタクの推理・ホワイダニット編
「次は、何故、早上は山川を殺したのかについての俺の推理を話していきます」
密室トリックの説明を終えた俺は高らかに宣言した。
「俺は彼女の合宿での言動から、考えることにしました。
まず、夕食時のセリフです。
彼女は
―――少年雑誌の表紙に私を載せて、『今動画サイトで話題の少女!』って触れ込みと一緒にまず顔を売り出そうという提案で…私が求めているのとはちょっと違ったので、その事務所に入るの、断っちゃいました…
と言っていました。
少年雑誌の表紙を飾る女性と言えば、皆さんはどういったものを思い浮かべますか?」
「グラビア写真かな…僕は小学生の頃、購読している雑誌の表紙が水着のアイドルとかのとき買いにくかった覚えがあるよ」
と細山がちょっと恥ずかしそうに言った。
「細山会長が言うように、水着写真が多いです。しかも露出度も割と高めなのが多いんですよ。そう言ったグラビアアイドル的売り方が彼女は嫌だったのだと思います」
そう発した後、早上の方を見ると、身体がビクッと揺れていた。的を得ていたのだろうか。
俺はゴホンとわざとらしく咳をしてこう話を続けた。
「本人が言う前で言うのは大変恐縮なんですが…
彼女の胸は、下北沢から以前、聞いた情報によるとJカップあるらしいのです」
俺は思わず、顔を紅潮させてしまったが、首を振り、平然とした顔に表情を戻し、仕切り直す。
「そのため、彼女は他の物が不格好になるサイズの緩い、このホテルの浴衣が様になっていたんです」
そういや、下北沢と山川はAカップだといってたような。所謂、貧…
俺は浮かんできた雑念を払いのけ、さらに推理を続ける。
「彼女は、そのために色々と苦労してきて、彼女は胸にコンプレックスがあったのだと考えられます。だから、全国で自分の胸が強調されたグラビア写真を掲載した雑誌が流通するなんて、恐怖でしかなかったんでしょう」
「あぁ?それが、今回の事件と何が関係あんだよ」
本多刑事は突然俺が胸の話をし、ふざけ始めたと思ったのだろう。しかし、俺は断じてふざけているわけではない。大きな声でこう言った。
「彼女の事件前後の行動の謎も明らかになるんですよ。早上さんは部屋でのんびりローカル番組を1時間程度見た後に、大浴場に行ったと言っていました。ということは、21:00頃に彼女は大浴場に行ったわけです。不自然だと思いませんか?
彼女は大浴場に夕食前に入ろうとしていたんですよ。なのに、夕食後は1時間も間を空けて入ったわけです。
これは、少し遅い時間に行って、下北沢と山川に大浴場で遭遇するのを防ぐためにしたのだと思います。夕飯前に、じゃあ何で大浴場に行こうとしたのかというと、これも大浴場で下北沢と山川に遭遇しないためです。2人はゲームコーナーに居ましたから」
「ああ…、彼女の不自然な行動はそういうことだったんだね…」
悲しげな眼を浮かべて細山は呟いた。
「彼女は事情聴取の際、
―――話の邪魔にならないように露天風呂や、彼女たちが入っていない風呂などに行っていたので、彼女たちは気づいていなかったかもしれない
とも言ってたらしいですね。これも簡単です。理由は同じですから、2人で大浴場で遭遇したくなかったからです。彼女はわざわざ時間を遅くしたにもかかわらず、大浴場にいざ行くと、2人が居た。それで、気が動転してしまった。
前もって脱衣所にある浴衣を確認すれば2人が居ることはわかったのでしょうが…まさかこんな遅い時間に、誰も居るとは思っていなかった彼女は確認を怠ってしまった。そして、最悪な事態になった。
同性とはいえ、彼女は自分の胸を見られたくない。
そこで彼女がとった行動は…
サウナ室に
「えっ、じゃあ山川がサウナ室の後に、気分を悪くしたのは…」
下北沢はぎょっとした表情を浮かべながら、小さな声でそう言った。
真実に気づいたのだろう。
皆に緊張が走る。
「早上さんはサウナ室で山川に遭遇した。そして、そこで彼女の胸を見てしまった、そして、そのうえ失言、早上さんにとっての禁句を発したのだと思います。これが、彼女の殺された理由です、恐らく。
気分が悪くなったぐらいなのだから、早上さんは不快感を表しに表した表情で山川を見たのだと思います。睨みつけるぐらいはしたのかもしれない。
早上さんそろそろ…真実を話してくれませんか…」
早上は、その言葉を聞いても無反応だった。
「それなら、俺の推理をまだ続けます…下北沢は、露天風呂に入ろうとしたとき、早上さんを見つけたが、外の景色を眺めていて後ろ姿しか見えなかったと言ってました。これは先程、俺は犯行後の疲れや凶器を隠すため、アリバイ作りのためと言いましたが、実はもう1つ理由があったんです。それは、自分の胸を隠したいという意志が早上さんにはあったのです」
そう俺が彼女の犯行動機、ホワイダニットを言い切ったときのことだ。
いつの間にか、早上が俺の目と鼻の先まで居た。
その手には髭剃りの刃が握られていた。
刃が首元まで近づく…
まずい…
そう思った時、彼女の身体が吹っ飛んだ。
下北沢が拳を振り上げ、アッパーを彼女に喰らわしたのだ。
「何してんや!!」
顔は怒りの形相に満たされていた。
早上は腰を打ち付け、痛みからかすぐに立ち上がれない様子だった。
そこに、本多刑事が走り寄り、彼女を羽交い締めにした。
彼女の赤く腫れた顔が見えた。
「はあはあ…すまん、本職の俺がいながら…しかし、身体検査で見たはずなのに、一体どこに凶器を…」
本多刑事は息を荒らげながら、そう呟いた。
「彼女が凶器を隠した場所は胸の谷間のはずです」
俺はそう本多刑事の疑問に答えてから、早上が座っていたソファ近くの床を見た。
その床にはティッシュと髭剃りの本体が落ちていた。やはり、俺の予想は当たっていた。
床に落ちたそれらを指さしながら話す。
「早上さんは、犯行後に髭剃りの本体に殺害時取り出した刃を差し込み、胸の谷間に隠した。そして、下北沢が彼女を露天風呂で発見して、大浴場を出た後に、髭剃りを洗浄し、今度はティッシュでくるんで谷間に隠した。自分の肌を傷つけないようにです。ボディタッチ式の身体検査だけでは彼女の谷間までは見ていなかったでしょうしわからなかった。彼女は難を逃れた後、ホテルから離れた場所で凶器を処分しようと思っていたに違いありません」
「せやけど、自分の秘密をハマタクが話し始めて、つと殺意が芽生えて、早上さんはハマタクまで殺そうとしたんやな…」
と俺の横に立っている下北沢は早上を憐れみを込めた目で見ながら言った。
「うーん結局、僕には彼女が山川さんを殺した理由がよくわからなかったよ…」
と眉尻を下げて、細山は困惑の声をあげた。
そのときのことだ。
早上が刃を床に落とし、大声で泣きわめき始めた。
「わかりました!!!もう言います!!言えば良いんでしょう!!事件の真実を!!!どうせ私の人生は自らの過ちで崩壊したんだから!!もう、どうでも良い!!」
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