第9話 エピローグ

 早上が殺人で捕まったことは、その日の朝のニュースに取り上げられた。俺たちが作り上げたくだんの映画は人気があったので、テレビで特集が組まれることもあった。そんな話題作の主演が殺人を犯した、というわけだ。テレビ局的には一大スクープだったのである。


 事件解決の十数時間後の夕方、俺たち3人が皆、警察署で再度事情徴収を終え、マスコミの大群を潜り抜け、電車に乗った時のことだ。

 細山が、スマホで動画サイトの俺たちの撮った映画のページを覗いていた。

「マジか…映画の再生数が、700万再生を超えている…ああけど、新しいコメントは不謹慎なものばかりだ…よく見ると、中には、絶賛のコメントもあるな…」

 悲しみと希望の混ざったような表情を浮かべて、細山は呟いた。

 俺も、スマホで動画ページを開いてコメント欄を見たが、テレビ局の報道により、殺人犯の出演している映画として注目の的になっていたらしい。酷いコメントを数個見ただけで俺は気分が悪くなった。


「ウチらどうすればいいんやろか?映画のクレジットで名前は特定されるやろうし、そこから大学もすぐにわかるやろうし。ってか私は普通に顔出ししてるしな…」

 と疲れ切った表情の下北沢は元気の無い声で言った。


「それは仕方がないよな…自主制作映画をネット上にあげるってのはそれ相応のリスクがあるし」

 と俺が言ったときのことだ。すぐに、

「また、撮ればいいんじゃないかな」

 細山が決意を込めた表情を浮かべてそう力強い声で言った。彼は言葉を続ける。

「僕は正直、こんな形で作品の再生数を伸ばしたくなかった。この事件のほとぼりが冷めた後でもいいから、このふざけたコメントを残した奴ら、おもしろおかしく今回の事件を扱った奴らを、僕が最高の映画を作って見返してやる!そうしたら、僕たちが特定されようが逆にプラスになるだろ!」

「せやけど、細山会長、こんな状況でサークル員集められるんか?」

 と首を傾げて下北沢が言う。

「俺の高校の仲良かった先輩で京都の大学にある自主映画制作サークルに入っている人が居るんだ。伊丹いたみ 五月さつきと言って、サークルの副会長なんだけど、彼のサークルにひとまず手助けを願おうと思っている」

 俺はその細山の言葉を聞いて、すぐさま、動画サイトの映画を削除した。

「えっ、何してるんや?」

 俺のスマホを覗き込んでいた下北沢は、俺の行動に驚いたあまり素っ頓狂な声をあげた。彼女とは違って、細山は俺の行動に納得したようで、口角を少しあげていた。

 

「確かに俺たちが一生懸命、切磋琢磨して作った作品ではあるが…こんな曰くつきの作品、残しても仕方がないだろ。そんなことしたら、殺された山川も浮かばれない」

 俺はそう言って、すぐに言葉を継いだ。

「それに、昔の作品に囚われていたら、新しい傑作はできない。そうですよね?細山会長」


「そうだよ、ハマタク君、俺達3人と伊丹先輩のサークル員たちで世間を見返してやろう!」


 話に熱が入っていて、時間を忘れていた。いつの間にか、帰路における1つ目の乗換駅に着いていた。

 電車のドアが開く。

 外に出ると、大量のひぐらしが鳴いている声が聞こえた。

 辺りはすっかり暗くなっていた。

 風がビュービュー鳴っている。

 遠くにある山を見ると、山道にある外灯がポツリ、ポツリと順々に点き始めていた。風で揺れ動く木々の隙間から目に映るそれらは、死者の魂を弔う灯籠とうろう流しのようにも見えた。

 

 俺と2人は、迎え来る風に耐えながら、乗り換える電車のあるホームに向かって歩みを進めた。

(完)

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