第5話 事情聴取と犯人判明

 ××県警の、本多ほんだ刑事の誘導のもと、俺たちはロビーの裏にある会議室の中で事情聴取を1人ずつ受けることになった。

 1人目は早上、2人目は下北沢、3人目は細山、最後の4人目は俺だった。

 1人ずつ、緊張した面持ちで部屋に入っていっては出ていくを繰り返し、ついに俺の番になった。

 俺が恐る恐る引き戸のドアを開け、部屋に入ると、本多刑事はオフィスチェアに座り、ペンのノックボタンを顎で押し、メモ帳を白紙のページまで捲った。

「まずは、名前と年齢を教えてくれ」

「は…濱元 拓哉です。19歳です。そういや、名前の漢字は…」

「大丈夫だよ。名前の漢字はここのホテルの予約履歴で確認しているから。形式上聞いているだけ。ああ、そうか君で最後か」

 そう言い、本多は目を細め、角刈りの頭を搔き始めた。少しイライラしている様子だった。

「次は、事件が起きたとき、下北沢さんの証言を信じたら、20時45分辺りから発見される23時頃の間か。そのとき、君は何をしていた?」

「203号室で本を読もうとしたら、寝落ちしていて寝てました。それで、細山が部屋の前でドアノブをガチャガチャさせたり、チャイムを鳴らしたりするのを繰り返している音で起きて…その後、その場に4人とも集まって…下北沢さんの泣き叫ぶ声に反応した従業員さんが階段から駆け上がってきて…」

「それで、君とその人が事件現場に入ったんだったな」

 急に本多は口を挟み、頭を勢いよく搔いた。多量のフケが飛んでいる。新しい情報が無くてしびれを切らしたのだろう。

「はあ…結局、皆が言っている情報を整理してもよくわかんねえんだよな…はあ…あいつらが凶器さえ見つければ、もうちょっと進展があるんだが…」

 事情聴取を受ける前に多量の警察官が階段を使って2階に上がっていったようなので、俺たちが泊まった3部屋の捜索が行われているのだろう。そういや、ロビー周辺にも警察官がいっぱいいたような。あの人たちも凶器を探しているのかもしれない。

 そういや、刑事の話から考えると、ことになるな…俺はそのことに少し動揺したが、あれは勝手に事件現場を荒らしたも同然の行為であり、刑事に言えなかっただけだろう…と、即座に考え直した。


「そういやさ、まだ身体検査受けて無いよね?」

 思案にふけている俺に向かって、本多刑事が急に声をかけた。 

「立ち上がって、浴衣の中身を確認するから」

 そう言いながら、彼は俺の身体全体をポンポンと叩き始めた。まさか、これ…女性にもやったのか!!?そう思っていると、俺の心でも読んだみたいに

「これ女性にはやってないからね。彼女たちはこの部屋の前に居る婦警さんにやってもらってるから」

 その発言の直後のことだ。俺のある部分を触って、本多刑事がつぶやいた。

「固い。何だこれ」

 俺の浴衣の懐から本多刑事はスマホを取り出した。

 

「ああ、スマホか。ちょっと中身見せてもらうから、ロック解除して」

 その言葉を聞いて、心臓がバクバクし始めた。汗もたれてきた。

 これは非常にまずいのでは…???

 俺が勝手に事件現場に入っていたことがばれる!!


「インターネットの履歴と電話の発信履歴を見るだけだから。早く」

 俺はその言葉を信じて本多刑事にロックを解除したスマホを渡した。

 結果…


 本多刑事は約束を破り、インターネットの履歴、電話の発信履歴の他にも様々なアプリを開き、確認して…結局、俺の写真フォルダ内の件の写真を見つけてしまい、その写真に関して俺に詰め寄り、俺は怖くてさっき行ったこと、推理したこと、全てを話してしまい、本多刑事は棚からぼたもちという感じに事件の証拠を掴んだのだった。

 

「ラッキーだ。なるほどな。凶器は髭剃りなのか。遺体に触れてないんだったら、今回の事件現場を隠れて調査した件は許すぜ」

 本多刑事は新しい証拠を得た喜びからか煙草を一本吸い始めた。

 急にニッコリ笑顔になった本多刑事を見て俺も少し安心した。もしかしたら、煙草が吸えなくてイライラしてただけなのかもしれないが。


 俺は、その後すぐに事情聴取から解放された。

 広い空間に出て、少し気分がスッキリした。

 

 先に出た3人はまた、休憩スペースのソファに腰を掛けていたので、近づいた。

 細山がこちらを見て、こう言った。

「今、僕達が事情聴取で刑事さんに話した内容をまとめているんだ。刑事さんも調べていてくれるけど、何だか僕達の仲間である山川さんが何で殺されたのか、どう殺されたのか、そして誰に殺されたのか、が気になって気になって仕方が無くて、非常に…モヤモヤしてね…」

 A3のコピー用紙の上に、山川含め皆が、事件が起きたであろう時間の前後にどんな行動をしたのか、細山がペンでまとめているようだった。

 ソファに腰かけコピー用紙に記載された内容を読んだ。


・細山

 →夕食後、ゲームコーナーに寄ろうとしたが、お金を忘れていてできなかった。部屋に戻って、それだけのために、ハマタク君に鍵を開けてもらうのも、なんだか申し訳なかったので、そのまま大浴場に行った。

 →大浴場では、ずっとサウナ室に入って、出て、水風呂に入ってサウナ室に入るを繰り返していた。(サ活が趣味なので)

 →大浴場には誰も人がおらず、洗い場の近くでストレッチなどもしていると、気づくと22時近くなっていた。

 →部屋で待っているハマタク君に迷惑をかけないように早く部屋に戻らねばと思い、すぐに服を着て、大浴場を出たところ、山川を探す下北沢と遭遇した。


・下北沢

 →夕食後また、ゲームコーナーに寄って、30分程UFOキャッチャーをしてから、山川と一緒に大浴場には入った。(20:30頃)

 →入った時点で大浴場は貸し切りだったが、いつの間にか早上が居た。

 →早上が居るのに気付いたのは、山川が大浴場を出ていった後だった。露天風呂に入ろうとしたときそこに入っているのを発見したのだが、早上は外の景色を眺めていて後ろ姿しか見えなかった。

 →山川のことがつと気になり、早上には何も話しかけず、すぐに大浴場を出ていった。

 →計1時間15分程度、大浴場に入っていた。(21:45頃)

 →そして、部屋に戻ったが、ドアチャイムにも反応せず、途中で会った細山と一緒に山川を探すことになった。従業員にも聞いたが、何も有益な情報を得られはしなかった。


・山川(下北沢の証言)

 →ゲームコーナーや大浴場でも下北沢とずっと一緒だった。

 →サウナ室に入ってすぐに体調を崩したのか、部屋に戻った。(21:30頃)

 →205号室の鍵は最初から彼女が保管していた。

 →彼女は205号室の鍵は念のために、貴重品ロッカーに入れていて、そのカギは腕につけていたので、彼女以外の人間が先回りして部屋に入り込むことはできない。


・早上

 →部屋でのんびりローカル番組を1時間程度見た後に、大浴場に行った。(21:00頃)

 →山川と下北沢が話に夢中になっている際に大浴場に入った。話の邪魔にならないように露天風呂や、彼女たちが入っていない風呂などに行っていたので、彼女たちは気づいていなかったかもしれない。

 →1時間半程、風呂に入って、ロビー横のエレベーターで2階に上がったら、下北沢の泣き叫ぶ声が聞こえて、動揺しながら、3人と合流した。(22:30頃)


 俺はこのコピー用紙を読んだ後、自分が事情聴取で言ったことを述べたが、皆既知の事実であり、紙に書かれるまではされなかった。 


その直後のことだ。

「本多さん!!見つけましたよ!!」

 階段の方から現れた1人の女性警官が半透明の小さなものを持ってきてロビー横にいる本多刑事に近づいてきていた。

「おおでかした!!これはどこに?」

「305号室のトイレタンクの中にありました。犯人もそこまで調べられるとは思っていなかったんでしょう」

 俺たちが、女性警官が何を持っているのか気になって近づくと、それは縦長でちょうど…髭剃りが入るような大きさの袋だった。

 ということは、やはり、俺たちの読み通り、凶器は髭剃りだったのか。

 被害者がいる同じ部屋に隠すなんて犯人に時間の余裕はあまりなかったのだろうか。


 時間の余裕がない…!!

 俺は、その時、あることに気付き、コピー用紙のあるローデスクまで走っていった。コピー用紙内の記述をもう一度読み返し、やはり確信に変わった。


 犯人は…犯人は…

 

 !!!


 しかし、密室トリックは一体…

 

 

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