第4話 凶器は何だ???

 ホテルの従業員は警察に電話した。しかし、最寄りの警察署からこのホテルまで、かなりの距離があるうえ、ホテルまでの山道はカーブが多く、外灯もほぼ無いため、慎重に向かうらしく、最低でも片道1時間はかかるという。

 従業員はそのことを告げると、ロビーに戻った。


 最初に俺が見渡した際にも、凶器は見当たらなかったのだが、部屋に凶器が無いかをより確実にしようということになった。当然、従業員には内緒だ。

 自分の何の気なしに言った発言が彼女を傷付けてしまい、山川が自殺をとげたのではないかと言う点が下北沢にとって非常に気がかりで、泣きじゃくる彼女を安心させるためにも、そのことを俺たちは今日中に明らかにしたかったのだ。

 俺と細山の2人は、部屋に会った備え付けの足袋を両手に着用して、カバンや棚などから物を出しては戻すを繰り返しながら、部屋中を隅々まで見回った。時折、俺は後から役立つかもしれないと思い、スマホで部屋の写真を撮ってもいた。

 勿論、警察の捜査の邪魔にならないように、遺体には触れなかった。

 30分程で遺体の周りを除き、部屋の端から端まで隈なく捜索したが凶器は見当たらなかった。

 205号室の外に出る。

 205号室のドア前には、親友の死を知って以降、ずっと泣き崩れている下北沢、彼女に肩を寄せて、慰めている早上が居た。

「山川は自殺だったん???」

 目を真っ赤にした下北沢が、俺を見上げ、泣きに泣き続けて喉の乾いたがらがらの声で聞いてきた。

 俺は首を振った。

 そのとき、下北沢の顔に怒りの炎が灯った気がした。


 俺たちはひとまず、1階にある幾重ものソファーとガラス製のローデスクが並んでいる休憩スペースに向かった。

 皆、あの部屋の近くで夜を過ごしたくなかったのだ。楽しいサークル合宿が一夜にして悲劇の合宿になった。

 ローデスクに向かい合っている4つのソファーに各々腰かけた。

「けどさ…自殺じゃないとしたら誰が殺したんだろうね…」

 さすがの細山も顔色を悪くしていた。声も本調子じゃない感じだ。

「確かに、俺たち以外宿泊者いないんだから、誰か部外者がやったのかな」

 と俺は呟くように意見を言った。

「けど、このホテルの出入口って1個しかないし、ロビーの前を絶対に通らないといけませんよね…」

 と早上は俯きながら言った。声が震えている。

「せやけど…ウチらの中に犯人がいるん?そんなことありえへんと思うけど…」

 頭を抱えながら、目を見開き、憔悴しきった様子の下北沢は小さい声でそう言った。

「とりあえず、犯人探しとかではないけど、さっき部屋を見たとき引っかかったことがあって、僕は言うことにするよ」

 細山は力の弱い声ではあるが、そう提案した。


「気になったのは洗面所だよ。洗面所の鏡の前あたりに何か違和感があったんだ」

「何かありましたっけ、俺は気づかなかったな」

「うーむ、何だったかな」

 細山はこめかみを抑えながら目を瞑り、何かを思い出そうとしている様子だった。

 そこに、下北沢が口を挟んだ。

「あれちゃうか?アメニティ?」

「ああ、それだ!」

 細山はそう大声をあげて手をポンと叩いた。 

「アメニティの量が僕たちの部屋と違った気がしたんだよ」

「待ってくれ。洗面所は俺が写真を撮っているはず」

 俺はスマホを懐から取り出し、写真フォルダ内の該当写真を開き、ローデスクの上に置いた。皆が俺のスマホを覗き込んだ。

「うーん、私は何も違和感ありませんけどね…」

 と疑問を少し込めた声で早上は呟いた。

「実はウチもわからん」

 女性陣はわからないらしい。

 俺と細山はその画像のアメニティの部分を拡大してじっと眺めた。

「「あっ!」」

 2人同時に声を出した。

「なんや?」

 下北沢は訝しげな眼を浮かべて俺らを見てきた。

「髭剃りが入ってた袋が無いんだよ!」

 大きな声で細山は言った。ロビーから視線を感じた。

 俺は人差し指を口に当ててシーのポーズをした。


「ってことは、髭剃りが凶器なんですかね?」

 と早上は手に顎を乗せて呟いた。

 

「そうだね。それが怪しい」

 そう、細山が言ったときのことだった。


 パトカーのサイレンの音が響き、

「××県警のものです!!」

 という大きな声がロビー周辺に響いた。

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