転生乙女は平和な日常を謳歌したいだけなのに

槐蜷

プロローグ



 大陸の中央に位置する大国、リブリヒト王国。

 戦争も100年ほどは起こっておらず、緑溢れる平和で平凡な国。

 その中央に位置する王都、ビレーバを目指す馬車は数多く、街道に列を成して進んでいく。


 「おお〜…さっすが王都、壁がでっかぁい」


 ガタゴトと音を立ててゆっくり進む荷馬車から身を乗り出して見上げた城壁は、思わず声に出してしまうほどに大きく堅牢なものであった。

 

「ふふ、そうですねぇ。この国一番の城壁ですからね」

「すんごいねぇ神父様」

 

 荷馬車の御者席で朗らかに笑うおじ様の言葉にうんうんと頷く。

 大きな城壁についてるこれまた大きな門に並ぶ馬車の列に並びながら、わたしは無事にこの場につけたことに胸の奥で安堵する。

 生まれ育った辺境村から国の中央である王都まで荷馬車に揺られること約ひと月。初めて経験する長い度が終わり、新しい生活になるのだと瞳を輝かせるくらい許されてもいいと思うんだ。

 魔物なんてものもいるちょっと命の軽い世界で、国境付近の辺境から中央の王都まで無事に辿り着ける数は、そう多くは無い。

 馬車の不調に、人間の不調。魔物や盗賊の危険性。

 100%安全である保証なんて誰もしてくれない中、大人と子供のふたり旅である私たちが怪我も病もなくここまでこれたのは奇跡と言っても差し支えないと思うの。

 わたしはゆったりと進む長い列を眺めながら、ぼんやりとこれまでの経緯を思い起こすことにした。


 

 そう、わたしが日本人である記憶を思い出したあの日からのことを………………

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