恨みわび
勉強漬けの毎日を送っていると、あの人を思い出す。
あれは数年前、私が受験生だった時に出会った、接しているとどうしようもない恨みやら憎しみやらの感情が溢れてくる男。
この世で1番、嫌いな男。
ダークブラウンのくりくりとした、撫でればふあふあとしていそうな天然パーマ。
黒縁の眼鏡で飾られた顔面は、歳の割に幼く、にへ、と笑った笑顔は愛嬌で溢れていた。
私は、彼にたくさん苦しめられた。
なに、彼が私に酷いことをしたとか、そんな事ではない。
私が弱くて、脆くて、情けなかっただけだ。
たまたま、通っていた塾に、かつて私をいじめた少年が通っていた。
少年の声を聞くのも、姿を見るのも、見られるのも嫌だった私は、塾長……天然パーマの彼に「あの人とできるだけ鉢合わせしないようにしてくれないか」と、頼み込んだのである。
いじめられていたこと、いじめられていたのがトラウマになり胸に傷跡を残していること、全てを赤裸々に話した。
塾長は、終始うんうんと頷きながら私の話を聞いていた。
全てを聞き終わった後、彼はいつもの優しい笑顔で私に言った。
「自分を押さえ込まなくていいんですからね〜!ほら、にこにこ〜」
「そうですね」と軽く笑って、見送る塾長に背を向けて、逃げるように塾から出た覚えがある。
私の頭の中は、泣きたくて仕方がないという気持ちが支配していた。
塾長の言葉に、私は強い不快感を覚えた。
いじめの原因は私の悪い癖の"おせっかい"が発動してしまったからで、それをやめてからはいじめなんて無縁な生活を送っていた私にとって、自分らしく生きるという事は、いじめられに行くのと同義なのである。
『いじめられたくないから、自分を押さえて自由気ままな陰キャライフを送っていたというのに。どうしてこの人は、それをやめろと言うのだろうか。』
この文はその当時、涙で上手く見えない画面になんとか打ち込んだ言い分である。
あの笑顔が、あの軽い口調が、私の心をめちゃくちゃにした。
それ以降、塾長とあまり話さなくなった。
塾長に関してのエピソードはまだまだたくさんあるが、思い出すと苦しくなるのでここらで終わっておこう。
あぁ、どうか私のような思いをする子が、また現れませんように。
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