第7話
自他の境界線が小さい頃からどうも低い。
自分とは全く関係ない子が怒られていても泣けてきてしまう、面倒な特性を持ち合わせて生まれてきてしまった。
これが、まーー絶妙に生きづらいのだ。
これは自分の特性だと受け入れられず、自分には泣き虫鬼がついている…と本気で思っていた小学校時代は特に地獄だった。
運動会や学芸会、卒業式。
親に見せる為の完璧な演技と団体行動を求められる小学校の行事。少し動きがばらついただけで飛ぶ怒号。
もちろん、悪い事や指示していない事をしたら怒るのは、大人や教育者として当たり前である。それは幼い私も理解していた。
ただ怖いもんは怖い!!しんどい!!
自分は怒られないように細心の注意を払って先生が言ったことを守り行動してるのに、周りの子は年相応の無邪気さで掟を破る。
しかも本人達は無自覚なことが多いのがタチが悪い。怒れないじゃないか、くそぉ。
"他者へ向けられる怒り"にストレスを感じているとだと自覚した頃には、立派に防衛機制が働いていた。
防衛機制とは、受け入れ難い苦痛や困難に対面した際、心を守るために無意識に行う反応。要するに、"人類におけるストレスの回避方法あるある"をフロイト博士とその他何人かの天才が小難しくまとめた物だ。
……大人びた知識を振りまいてみたが、教科書に載っていた知識の受け売りである。
最初に無意識にやっていたのは、怒っている内容にツッコミを入れる事だった。
無表情でいることを意識しながら「何そんな事で怒ってんのー??更年期ー??」と心の中でメチャクチャに煽りまくる。自分の考えてる事が面白くても噴き出してはいけない。
これは、防衛機制における"取り入れ"が行われていたのだろう。教師の怒りを取り入れて、言葉の怒りとして心の中でぶっ放す。そんな幼稚な方法。
長いこと愛用していたが、残念ながらこの方法はいつもうまく行かなかった。
ツッコミを入れるとは、即ち、その人物が怒っている内容をよく聞き、矛盾点や自身の信条と異なる点を突かなければいけないということ。相手の言う事に集中しなければならない。
意味ないじゃないか!!と思ったのは中学に上がってから。いやぁ、実に遅かった。
と言うわけで、中学生の私は『上の空作戦』を決行するようになった。
怒られているのを聞いても右から左にうまーく流して、ろくに話を聞かないという方法だ。窓の外を見て他の情報を遮断したり、問題集を開いて、別のものに集中するという方法。
これは防衛機制における"否認"。見なかったフリ作戦である。
残念ながら、これの作戦もうまく行かなかった。
話の内容が頭の中をぐるぐる回ってから出ていくので、強い香水を付けたご婦人が通りすぎた道に残り香が残留するのと同じ要領で、しばらく説教の内容が居座りやがるのである。タチが悪い。
この方法が1番しんどかったまである。
で、最終的に編み出したのが"耳を塞ぐ"という初歩的な方法だ。これも"否認"に含まれるであろう。
耳たぶか指でで穴を塞いで、塞いでいる指をウニョウニョ動かすと、関節がガクガクと動く音で頭がいっぱいになる。これで耳から入ってきた情報を完全シャットアウトできる。見事になーにも聞こえない。
我ながら、ちょ、おま天才か?と思った。
懸念点があるとすれば、これまでの対処法と違い、実際に体の一部を動かすので反感を買う可能性がある事と目立つということだろうか。
考えてみてほしい。
目の前に座っている人がいきなり耳の穴に指を突っ込んでウニョウニョ動かし始めたらどう思うだろう。教師から見て、説教中に生徒の1人が耳をいじり出したらどう思うだろう。
と、まぁ。
こんな小技を編み出しても、やはり怒られるのはしんどい。
どう足掻いても説教から"逃げる"事を許されない学生のうちは、我慢する他ないのだろうか。
今日もキレ症の先生の授業を受けるのが憂鬱だ。
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