第2話 ブラジル移民って奴ですわ
まずは私たちの説明から。
日露戦争というものがありまして、一応、日本は戦争には勝ったということにはなったんですけれども、戦後の不景気がそれは物凄いことになりまして、失業者も溢れかえるほどに増えていく中、日本政府は、
「とりあえず日本国民を何処かに送り込もう」
と、考えたみたいです。
自分のところでは養いきれないから、何処かの国で働かせよう!そんな日本政府の思いと、奴隷は使えなくなったしコーヒー農園で働かせる労働力が何処かに居ないかな〜と考えるブラジル政府の思いが合致して、多くの日本人が労働力としてブラジルに送り込まれることになったわけです。
日本に住んでいて『コーヒー農園』なるものがどんなものかも分かりませんし・・
『さあ行かう一家をあげて南米へ』
というポスターを見れば、ブラジルのコーヒー農園で働けば一攫千金!あっという間に金持ちとなって日本に帰ってくることが出来るんだぞ!と、思う訳です。それじゃあ行ってみようかと考える家族だって、それなりの数は出てくるってわけですよ。
現在の私達の家族は、私の母となる正江、姉の増子、姉の夫となる久平兄さんと私、珠子の4人暮らし。
母は粕谷辰造という神戸では割と大きな米問屋を営んでいた人と再婚し、姉は店の番頭だった久平さんと結婚。
ちなみに母は、東京の山奥に位置する奥多摩村の湯屋の息子へ嫁いで私と姉の増子を産んだのですが、後に離縁となりました。私は母方の祖母の元へ、母は姉を連れて神戸の親戚を頼って働きに出たわけです。そこで粕谷の父と知り合って再婚するに至ったわけですね。
その際、祖母の元へ預けている私を引き取る事を義理の父が決めた為に、私は母と姉の元へ戻って一緒に暮らす事になったわけでした。
東京の片田舎にある村山町という所で産婆をしながら私を育ててくれていた祖母も他界したこともあった為、私は神戸へと移動した訳なのですが、移民公社の口車に乗ってブラジル行きを義理の父が決めた為、私は神戸からブラジルへとその後、大移動することになったわけです。
義理の父は自分の弟である徳三さん一家と共に、1910年第二回移民船「旅順丸」へと乗り込む事を決めました。
血は繋がらないながらも私の事を実の娘のように愛してくれた父は、渡伯後、デング熱で亡くなり、渡伯前から私の事を嫌っていた母と姉は、義理の父が亡くなってからは私に憎悪を向けるようになったんですね。
なにしろ、ブラジルに渡ってからの生活が酷かった。米問屋の主人の妻となって人に傅かれることも多かった母や姉としたら、こちらの生活は地獄に落ちたようなものですもの。
珈琲農園で働けばあっという間に大金を懐に収めることになる!金持ちとなって日本へ凱旋帰国!いやいや、ない。ないないないない!ないです!ないです!ブラジルという国では金も採れるし、宝石だって採れるし、ダイヤモンドだって大量に昔は採れたっていうので、それと話がごっちゃになったんじゃないのかなぁ。
金の鉱床を発見して大金持ち!というのと、コーヒー豆を収穫して大金持ち!がいつの間にか混同したのか、作為的に混同させたのかは分からないですが、私たちは金持ちになれる!という話に騙されて地球の裏側まで来ちゃったわけです。
ちなみに珈琲豆って農作物ですよ。
そんなもん、いくら収穫したって大金持ちになれるわけがないですわ。
ブラジルの農場経営者としては、奴隷の代わりの労働力として真面目で勤勉だと言われる日本人とやらに働いて貰えばそれで良いと考えているし、ブラジルで一旗あげて故郷に錦をあげるぞ!と考えている日本人との意識のギャップが激しすぎた。
そもそも、農場に来たら今まで奴隷の人なんかが使っていた土間しかない粗末な家に放り込まれたわけですからね。
「話が違うよ〜!」
と、ならないわけがない。それで今、ここ。
私たちが契約労働者として入っているシャカラベンダという名前のコーヒー農場は人里離れた田舎にある為、最近豹(オンサ)の被害が急増しております。そんな中で、獣に食い荒らされた死体を私が発見!第一発見者は私です!しかもその死体が金の延棒を握り込んでいたものだから、集まったみんなの目が凄いことになっている!
「珠子〜!」
「お前、まさか金を独り占めしているんじゃないんだろうな〜!」
確かにね、確かに、源蔵さんの死体を発見したのは私だけれども、金とか知らないし、そもそも死体に近づいてもいないのに、皆んな、私が金を隠し持っているんじゃないかと考え始めているみたい!
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このお話は読みやすいように毎回短め、毎日18時に更新しています。
物語の性質上、ブラジル移民の説明の回がしばらく続きますが、ドロドロ、ギタギタがそのうち始まっていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!
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