第23話 仲が良い二人
処刑をすれば、きっちり怒りが解けるのかと思いきや、そんなことにはならなかった。何故なら間違った価値観が広がることで、虐待を受ける加護をもつ者が王国には沢山存在していたからだ。
精霊の怒りを色で見分けることが出来るエドヴァルトは、問題の場所を探しあてることが出来るのだが、今回のように子供を助けるということになると、その力が強過ぎて負担をかけることになってしまう。
だからこそ、ビビに子供の治療を任せているのだが、それを王子に言わせると『こき使っている』ということになるらしい。
「ビビ嬢にはいつも感謝しているのですよ」
王子がビビの手を取って手の甲にキスを落とすと、上目遣いとなって見つめながら言い出した。
「母上も妹も、ビビ嬢から話を聞きたいと言っている。どうだろう、これから王宮に移動して、美味しいお菓子でもみんなで一緒に」
「何を言っているんだ?早く精霊の怒りを完全に解きたいと言ったのはお前だろう?」
「それは愛し子様に任せれば良いじゃないか」
「何を馬鹿なことを・・」
愛し子であるエドヴァルトであれば、ある程度の治療は出来るのだが、子供相手だと力が強過ぎて拒絶反応が出てしまうのだ。だからこそ、子供相手の時にはビビに対応を任せているというのに・・
「次の加護持ちは大人かもしれないだろう?であれば、ビビ嬢がわざわざ行く必要もあるまい」
「大人か子供か分からないから協力してもらっているんだろう?」
加護を持つ者を虐げれば、厳しい処罰が下される。その罰を恐れて、自分の悪行を隠すために殺そうと考える親もいる。そういった親から早く保護するために、こちらも早急に動かなければ失われる命も多くなる。
加護持ちの命が失われることがあれば、精霊の怒りが長引くのは当たり前のことであり、早期の問題解決をはかりたい王家としては、大々的に動いていると民衆に見せるためのパフォーマンスをしているところでもあるのだ。
「貴族の令嬢であるビビ嬢に、平民の家屋の中を行き来させるのは可哀想ではないか」
「王子の言葉とは思えぬ言葉、国民軽視も甚だしいですよ」
「そんなことはない、私が移動するのは厭わないが、ご令嬢には厳しいと言っているだけで」
「言い訳がましい」
「言い訳がましいとはなんだ」
言い争う二人の姿を見ながら、ビビは大きなため息を吐き出した。
年齢も近い王子と公子は、子供の頃からとても仲が良かったという話を伯母のアリシアから聞いている。昔から二人はライバル関係とあって、言い争いが絶えないというような話も聞いている。
「あの〜、それでは、身分も高いお二人は王城に戻ってお茶をして頂くことにして、私だけ保護に向かう形といたしましょうか?」
結局、加護を偽った六家は当事者である娘とその両親を極刑とし、家は取り潰しとはしなかったものの降爵処分とし、領地の一部返還を命じられることとなっている。ただ、ゼタールンド伯爵家については行いが悪質すぎるとして、情状酌量となったノア以外は極刑を言い渡されることとなり、家は取り潰されることになったのだ。
伯爵家に勤めている使用人たちはそれなりの数居たのだが、精霊の怒りを受けた者は刑罰処分を受けることとなり、その他の者は放逐処分になったという。
そんなわけで実家が没落したビビは、現在、扱いとしては平民身分となっているのかもしれない。相変わらず伯母と従兄の庇護下にあるため、今まで通りの生活を維持し続けているのだが、殿下はいつまでも公爵家の厄介になっている平民のビビに対して、何かを思うところがあるのかもしれない。
「それとも、やっぱり私は兄と同様に国外追放になった方が良いのでしょうか?」
兄のノアは身分を剥奪後、国外に追放処分となっている。叔母と従妹の暴挙を止めることも出来ずに加護持ちの母を死なせることになったものの、情状酌量の余地はあると判断されたらしい。だとするのなら、ビビも兄同様、母を守ることが出来なかったのだ。
「いつまでも私が公爵家にご厄介になっているのも問題ですよね?精霊の怒りを買うことになった原因の一つという自覚もありますし、国外に出て、森の賢者様のところにでも行こうかと考えてもいたんです」
国外に出た方が良いだろうという思いと、助けを求める子供達を助けたいという思いが拮抗している状態だったのだけれど、保護活動もここまで進んだ今なら、国を出る判断をした方が良いのかもしれない。
「「なんでそういう話になるんだよ!」」
エドヴァルトとマルティン王子は、不服そうに一瞬、お互いの顔を見合わせると、
「「誰もビビを国外に追放しろだなんて言ってないだろう!」」
再び同時に言い出した。
「本当に仲が良いのですね〜」
呆れた声を上げるビビを見下ろしながら、
「「仲なんて良くない!」」
と、二人は同時に言い出した。
二人の必死な様子を見上げたビビは、やっぱり精霊の怒りを解くにはまだまだ時間がかかりそうなのだと判断した。
「であるのなら、私は街に住む場所を移動した方が・・」
「「なんでそうなるんだよ!」」
「いや、ですから、私は平民身分となりましたので」
「「だから!なんでそうなるんだよ!」」
どこまでも一緒に言葉を発する二人を見上げたビビは、思わず吹き出すように笑い出したのだった。
〈 完 〉
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文字が読めないシンデレラは次の番外編で終わりとなります!最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
ただいま『緑禍』というブラジル移民のブラジル埋蔵金、殺人も続くサスペンスものも掲載しております。18時に更新しています。ご興味あればこちらの方も読んで頂ければ幸いです!!
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